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書籍化【完結連載版】聖女の姉ですが、妹のための特殊魔石や特殊薬草の採取をやめたら、隣国の魔術師様の元で幸せになりました!  作者: かのん
第三章 外伝 アスラン

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外伝 アスラン 28

「大丈夫だ。大丈夫だからな」


 先生がそう言うと、体の中にゆっくりと温かな魔力が流れ込んでくるのが分かった。


 先生の魔力だ。


 そう思っていると、次第に体が体温を取り戻し始めた。


「ふぐっ……はぁ、はぁ、はぁ」


「アスラン! 大丈夫か!?」


「……せん、せい」


 まだおぼろげだけれど、先生の姿が見えた。


「今ここに邪神様の核が生まれた! これからこの世はもっと素晴らしい世界になる!」


 ジル様の声が響いて聞こえた。


 騎士達もいるのだと思う。たくさんの人の影が見えた。


「ガートレード! あれは、一体なんだ!?」


 ドミニク様の声が聞こえた。一緒に助けに来てくれたのか。


「あれは、異形だよ。大賢者様は禁忌を侵したのだ」


 その声は怒りに震えていた。


「子どもの魔力を奪い、そのように悍ましい物を生み出すとは! 大賢者殿、ただで済むと思うまいよ!」


 先生がそう叫ぶと、ドミニク様と騎士達がジル様を捕らえようとした。


 僕は戻って来た視界の中でそれを見つめていると、全身に、震えが走り始める。


 だめだ。僕は、この感覚を知っている。


「なんだ?」


 ジル様が手に持っていた僕から取り出したどろりとした固まりを見て眉を寄せた。


 次の瞬間、まるでそれは寄生虫のように広がりジル様を黒いどろりとした者で包み込む。


「うわぁぁ。じゃ、邪神様! なぜ! うわぁぁぁぁ」


 体がピリピリとする。僕の中にあったはずの魔力が、暴れ出そうとしているのが分かる。


 そしてどろりとしたものの中からギョロリとした瞳がいくつも広がり、化け物となった。


 それは騎士達にも襲い掛かり、先生は声を上げた。


「距離を取れ! 弓で射ろ! あぁなってしまえば、もはや助けられん!」


 粘り気のある異形の塊は、ぎょろりとした瞳を幾つも携えながら触手を伸ばすと騎士達を取り込もうとする。


 先生は僕を地面に下ろすと、魔術具を取り出すと、それを発動させる。


 氷の魔術具なのだろう。異形は凍り付き始め、固まったところを騎士達が砕く。


「アスラン、ここにいろ。私はあれを止めてくる」


 そう言って、先生は異形に向かって走る。


 次々に凍り付いた偉業を砕き、そして巨大な異形の塊に向かって新たな魔術具をぶつけた瞬間だった。


 嫌な予感がした。


「先生……」


 このままだと先生は死ぬ。


 直感的に僕は、そう思った。


 先生が死んでしまったら、僕はもう、多分だめだ。


 あぁ、大切な存在とはこういう人のことを言うのだろうな。


 僕は、覚悟を決めると唇をぐっと噛み、気合を入れた。


 立ち上がり、それから呼吸を整える。


「アスラン?」


 ドミニク様の声が聞こえた。


 僕は、自分の魔力に集中し、親指を噛むと流れ出た血液で魔術式を描いていく。


「特殊魔石が、足りない」


 血液だけで補えるか。


 そう思った時、ドミニク様が袋を取り出すといった。


「アスラン! 何がいる!? 俺は採取者もしている! 必要な物があれば言え!」


「黒水晶は!?」


「ある!」


 投げてそれを渡され、僕はそれを掴むと自らの血液と混ぜ魔術式に組み入れていく。


「構築完了」


 僕は全身の魔力をそれに流し込み、発動させた。


「間に合え」


 異形を魔術具で砕こうとした先生の周囲に地面から黒い触手が伸びで襲い掛かろうとした。


「くそ!」


 先生は防御の魔術具でそれを防ぐが押される。


 間に合え! 


 僕の魔術式が発動し、地面に亀裂が走っていく。


 そして、先生を襲おうとしていた触手に届いたその瞬間、触手から僕の魔力が霧散した。


 先生が目を丸くする。


 良かった。間に合った。


 異形を生み出すために奪われた僕の魔力全てを、空気中に霧散させていく魔術式が成功したことで、異形は萎れ、ひび割れ、地面に砂と化して落ちていく。


「よかった……」


 先生が僕を見た。


「アスラン!」


 僕の体は、力を失い、そしてゆっくりと倒れる。


 先生からせっかく魔力を分けてもらったのに……僕の体の魔力はもうすっからかんだった。


 地面に打ち付けられるが、もう痛みも感じない。


「アスラン! アスラン!」


 先生が僕の名前を呼んだ。


 名前……。名前っていいな。


 僕の名前はアスラン。呼ばれる時はアスランと呼ばれる。


 僕を呼んでくれる人がいる。


 家族がいる。


 自分よりも大切に思う人がいるというのは、こんな気分なのか。


 先生が無事でよかった。


「先生が、無事でよかった」


 先生が僕を抱きしめるのがわかった。


 感覚はないのだけれど、とても暖かく感じた。


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