外伝 アスラン 21
ルーベルト子爵家へと着いた僕と先生は、黒いローブを深々とかぶり、顔の上部が隠れる仮面をつけている。
外れないように魔術が駆けられており、他人に顔を知られないようにと先生に注意されている。
「アスラン、もし命の危険や捕まる危険が発生した場合即退避。いいな」
「はい」
「もし捕まった場合は正式に助けに行く故、無理はするな」
「掴まりませんから、大丈夫です。相手に危害は?」
「加えてはならん。あー……殴る蹴る意識を奪う程度ならば大丈夫だ」
「わかりました」
先生の後に続いて僕は木の陰に隠れながら進み、そして屋敷の塀を上ると、音を立てないようにしながら進んでいく。
魔術具の設置はないようで、容易に侵入が出来た。
ただし、騎士の巡回警備はあるようで、先生と共にそれを伺いながら進んでいく。
「ここから中に入るぞ」
「はい」
屋敷の端の窓の鍵を壊し中へと入ると、薄暗い廊下のところどころに明かりが灯されていた。
足音を立てない様子に進んでいくと、先生が胸元から魔術具を取り出す。
探知の魔法具だろう。先生はそれを確認すると進み始めた。
そして一室へと入ると、先生は周囲を見回す。
「どこかに、隠し通路があるようだ。どこかに隠し扉があると思うのだが」
僕達は部屋の隠し通路を探し始めるが、入り口らしきところは見当たらない。
よくあるのは本棚かなと思ったが、そこはただの本棚のようだった。
どこだろうかと思いながら僕は部屋を見回していくと、
机の脚元に敷かれていた絨毯の色が若干違う箇所があることに気が付いた。
これは動いた後ではないだろうか。
そこを調べていると、机の下の部分に小さな突起物があることに気が付く。
「先生。ここに何かあります」
先生はうなずき調べた後に、僕に下がっているように伝えてからそれをゆっくりと押した。
すると、机の下に仕掛けがあり、入り口が開くと階段があらわれた。
「でかしたアスラン。いくぞ」
「はい」
下は暗く、ただ明かりをつけるのは憚られたため、先生が小さな魔術具で最低限の灯を頼りに進んでいく。
湿気と埃が混ざり合った空気が、淀んでいる。
そして下へとたどり着いた時、先に明かりが灯っており鉄格子が見えた。
二人で目配せをし周囲を気にしながらそちらへと進んでいくと、鉄格子の中に二人の男の姿があった。
先生は近づくと静かに声をかけた。
「大丈夫か。そなたらは、何故ここに? 魔術師か?」
すると、こちらに気が付いた男二人は目を丸くした後に声を潜めて言った。
「あぁ。魔術師だ。……大丈夫では、ない。隣国へ旅の途中に捕まったのだ」
「私は魔術師という身分を隠し暮らしていたが、見つかり、捕まった」
二人ともやせこけており、目の下に隈が出来ていた。
「ここでは何を?」
「魔術の研究と、あとは特殊な魔術具を作るよう強要されていた」
「聖女を魔術具で発見するものだ。だが、後少しという所で、少し前までここに共にいた魔術師が一人でそれを持って逃げてしまったのだ……」
先生はうなずくと、格子の鍵を見つめた。
「脱出を手伝おうか?」
その提案に、二人の魔術師はうなずいた。
「ありがたい。頼む」
「本当に感謝する」
先生は壁に掛けてあった鍵を見つけるとそれで扉を開けた。
「ここはあまりに手薄ではないか?」
先生の問いかけに男が答えた。
「さっき伝えた魔術師が逃げてから、何やら人でが減ったのだ」
「なるほど……聖女を奉る国だ。魔術師がいると知られたらまずいと、人でを回せなくなったということか。これは僥倖だ」
先生は二っと笑うと、二人を連れて外へと向かって進みだした。
僕は後方につき、進んでいく。
このままいけばうまく脱出できるだろう。
しかし、階段を上がり外へと出ようとした時だった。魔術師の男が一人転び、大きな音を立てた。
「誰だ! し、侵入者だ! 侵入者だぁぁ!」
見回りの騎士に気付かれ大きな声で叫ばれてしまった。
「しまったな」
先生がそう呟き、僕は周囲を見回して先生に言った。
「僕が惹きつけます。先生は二人を連れて先に逃げてください」
「いや、アスラン、私が残る」
「先生、僕の方が身軽ですよ? このくらいならばできます」
というか、僕には二人の大人を連れて逃げ切れる自信がなかった。
けれど一人ならばどうとでもなる。
先生は眉間にしわを寄せ、うなずいた。
「わかった。では、任せるぞ」
「はい! 任されました」
僕はその場に残り身構え、先生達は先に離脱を目指す。
「おい! 待て!」
騎士が先生たちを追いかけようとしたその足元に、僕はローブの中から魔術具を一つ取り出すとそれを投げつけた。
「うわっ」
その瞬間、魔術具からは蛇があふれ出し、騎士は慌てて飛びのいた。
「な、なんだこれは!?」
他の騎士達も次々に集まり始め、僕は別の魔術具を取り出す。
「さぁ、泥遊びでもどうぞ」
次の瞬間、騎士達の足元が泥へと変わり、地面の泥濘に足が沈んでいく。
「ど、どうなっている!?」
「これでは、おいかけられないではないか!」
「ええい! くそっ! なんだこれは!」
時間稼ぎをするために、僕はさて次はどうしようかと思考を巡らせたのであった。








