外伝 アスラン 15
ジャンは瞳を輝かせて尋ねた。
「なぁ、アスラン。どれだけ記憶力がいいんだ?」
それにリードも興奮した様子で言った。
「僕も気になるよ! 君、頭の中どうなっているんだろう!」
わくわくとした二人とは対照的にゲリーは顔をひきつらせている。
「嘘だろ……俺、何十回って通っているのに、まだ……怪しいのに」
僕は小さくため息をつく。
「あれくらいなら簡単だろう」
そしてそれを聞いたジャンはいいことを思いついたというようにたくさんの婚約者選定のための釣書を机の上に持ってきて置いた。
「アスラン、お願いがあるんだが、協力をしてくれないか」
嫌な予感がする。僕は少し考えてから首を横に振った。
「不用意な約束は出来かねる」
「友達だろ? 友達っていうのは助け合うものさ」
「友達……」
先生が友達を作れと言っていたし、友達ならば助け合うというのも理解できる。
ジャンが友達ならば先生も喜ぶだろう。
「……分かった」
すると言質は取ったぞというようにジャンがにやっと笑った後に言った。
「今度、僕の婚約者候補を集めるお茶会があるんだ。一緒にそこに参加してご令嬢達の様子を見て覚えて教えてくれ。私は王子だからな、なかなか令嬢達の本音や様子を探れないんだよ」
驚いたようにリードがそれに意見した。
「ジャン、それは無理だよ。その集まりに魔術師見習のアスランがいるのは異様だろ?」
ゲリーも同意する。
「そうだよ。明らかにおかしいだろ」
ジャンはふっと笑うと告げた。
「そりゃあ、その場に男がいたら目立つだろうさ。でも令嬢なら別だ」
「あ……」
「お前……まさか」
「数百人規模で集まるんだぞ? 田舎の貴族のご令嬢もいるから、だれがだれかなんてわからないだろう? 大丈夫。こっちで色々と手配はするから」
僕は何を言われているのかいまいちよく分からなかったが、先ほど自分はわかったと告げた。
故に協力をするだけだ。
「その会に参加して、令嬢達の顔や名前と何を話していたかや動向を探るだけなら、協力しよう。そのくらいならば出来る」
「ありがとうアスラン。助かるよ。大丈夫。こちらでドレスやメイクなどをする侍女は手配するから、当日は何も持たずに城に来てくれたらいい」
「わかった」
リードとゲリーは顔をひきつらせている。
「アスラン、いいの? このままだと、女装させられるよ?」
「そうだぞ。嫌なら嫌って言っていいんだぞ」
二人はそう言ったけれど、嫌ではない。
「別に、女の格好をして、どんな話をしていたか伝えるだけなら問題ない。さほど難しいことでもないし」
「女装嫌じゃないの!?」
「お前、男としてのプライドないのか!?」
「……?」
首をかしげると、二人は大きくため息をつきジャンは笑い声をあげている。
そして僕はこの日、女装してジャンの協力をすることにしたのだった。
それから数日後、学園の休日にジャンの言っていた会があるため、僕は朝食後に屋敷を出ることとなった。
「先生、ジャンの所へ行ってきます」
そう告げると、先生は首を傾げた。
「今日は、ジャンはご令嬢達とのお茶会があるのでは?」
「はい。そうみたいですね」
「あぁ、お茶会の前の時間で遊ぶということか。気をつけてな」
「はい。行ってきます」
お茶会に女装して参加することを先生に言った方がいいのだろうか?
ただ、先生は何やら忙しそうに仕事をしていたので、わざわざもう一度話しかけて言うのも気が引けた。
まぁ、今日先生が時間があれば話をしたらいいだろう。
僕はそう思い、屋敷を出たのであった。
レイブンが馬車を用意してくれて、僕はそれに乗り込んで王城へと向かった。
ジャンが手配をしてくれていたのだろう。王城に着くとすぐに侍女に通されて別室へと向かった。
「お待ちしておりました。本日は内々に殿下より指示を受けております。全ておかませください」
数名の侍女達に取り囲まれ、少し戸惑う。
「よろしくお願いします」
僕がそう告げると、侍女達が恍惚と微笑むのが見えた。
なんだろうか、背中がぞわぞわとする。
部屋の中を視線で追うと、美しいドレスや宝石や靴や化粧品類がたくさん用意されているのが見えた。
なんだろうか、あれは。
この時の僕は、まさか、最初に連れていかれる場所が風呂場だと想像もしなかった。
友達の為に、全身の身ぐるみはがされて磨き上げられることになるなどとだれが想像できただろう。
……友達と言うもののために頑張る事の大変さをこの後、身をもって知ることになるのだった。
あすらぁぁぁぁぁぁん。ごめん。シェリーにいつか教えてあげたい情報ですね。








