外伝 アスラン 14
ジャン達の通う学校は、基本的には貴族の子ども達が通っている。ただし、市井からその優秀さを見出され学園に通っている子どももいるらしい。
僕はガートレード先生の息子という立場で学園に入学した。
ただ先生は魔術師としての地位という特殊な立場にいるので、そんな先生の養子である僕もまた、人の目を引くこととなった。
「あれが……魔術師ガートレード様の息子さん?」
「そうらしい。あの年で魔術師の弟子なんだって」
「魔術師って何?」
「さぁ? 怪しげな儀式とかするんじゃないか?」
魔術師についてもまだまだ認知が低い。故に人々からの視線も大分痛い。
僕は担任の先生に案内されてクラスへと入ると、ジャン、ゲリー、リードの姿があった。
おそらく裏から手をまわして同じクラスにしてくれたのだろう。
三人が嬉しそうにこちらを見ているのが分かった。
「それではアスランくん。皆に挨拶を」
丸眼鏡をかけた壮年の男性教師、ザビ先生にそう促され、僕はうなずくと皆の前で一礼した。
「アスランという。よろしく」
皆から歓迎の拍手を受け、僕はザビ先生に促されて開いていたジャンの隣の席に着いた。
学園の制服を見に纏い、皆と同じ格好で、同じように席に着く。
この学園ではジャンの傍でその安全を守りながら、授業を受ければいいとのことだった。
面倒そうだけれど、先生から命じられたので仕方がない。
最初は少し面倒だと思っていたのだけれど、授業が始まってからはそうは思わなくなった。
面白いのだ。
自分の知らないことをザビ先生が、教科ごとに色々と教えてくれる。
それは僕の知らないことばかりであり、僕はすごく楽しかった。
「さぁ、今日の授業はここまで。皆さん帰りの支度をしたら、気を付けて帰って下さいね。さようなら」
一日があっという間に過ぎていき、僕は先生がクラスから出ていったのを見てから、大きく息をついた。
「楽しかった」
するとそんな僕の肩をジャンがポンっと叩いた。
「どうしたんだ? キラキラした目をして」
そして当たり前のようにゲリーとリードも来ると僕を取り囲んだ。
「初めての登園は緊張したか?」
「いやいや、アスランのことだから、そんなことないでしょう?」
僕は三人にそれぞれ視線を向けてから肩をすくめてみせた。
「緊張はしない。こんなに見慣れた三人に囲まれれば緊張などするわけがないだろう」
告げた言葉に三人は笑うと、ジャンが僕の腕を引いた。
「ほら、帰る前に秘密の道を教えてやるよ。行こう」
周囲の視線を感じて見回すと、僕達のことを皆が興味深げに見つめていた。
「皆に見られている」
するとリードが説明するように言った。
「それはそうだよ。だって君は魔術師の弟子っていう噂も広がっているからね! しかも、殿下や僕達と仲良しのようだし!」
僕はその言葉に尋ねた。
「魔術師とは珍しいのか」
思いの外その声が響いてしまい、皆がこちらをぎょとた顔で見つめてくる。
ゲリーが呆れたように言った。
「お前って全然常識ないよな」
「ちょっとゲリー。失礼だよ」
リードはそう言い、ジャンがため息をつくと僕の腕を再度引っ張った。
「ほら、行くぞ。常識については徐々に学べばいいさ」
まぁいいかとため息をつきつつジャンに腕を引かれてついていく。
学園の中は広い。
今まで見て来た世界とは別世界のようなそこは、天井が高く、壁には彫刻が掘られていたり飾られている調度品も珍しかったり、面白い所が多そうだ。
しばらく歩いていくと、ジャンは中庭を通って小さな教会の中へと入った。
「ここは教会?」
僕がそう呟くと、三人はにやっとした笑顔を浮かべる。そして協会の奥の、横扉を開けると、そこには小さな部屋があった。
こんなところ入っていいのだろうかと思っていると、その部屋の奥の壁にジャンが首にかけているネックレスを当てた。
その瞬間、淡くその壁が輝き開いた。
魔術具だ。僕は目を見開いてその魔術具の術式を記憶する。
「おい、行くぞ」
三人はすぐに先へと進もうとするけれど僕はその壁から目が離せない。
「後少し待ってくれ……なるほど。特殊魔石はなんだ? なるほど……構築術式は……ははは。すごいな」
一人でぶつぶつと呟いていると、途中でジャンがまた僕の腕をグイッと引く。
「ほら、行くぞ」
「あぁ……だが、覚えた。うむ。大丈夫だ」
三人はあきれ顔だった。
ただ、この三人は僕のことを殴ったりしないとここまでの関りで分かったから、少しくらいならば待ってくれるということも分かっていた。
「待ってくれてありがとう」
先生が、何かあるごとに僕にお礼を言ってくれる。
だから僕も何か人にしてもらった時にはお礼をちゃんと言えるように気を付けるようになった。
すると、三人はふっと力が抜けるように笑った。
「いいさ」
「ははは。お前、そういうところ可愛いよな」
「ふふ。確かに。アスランは面白いな」
不思議な感じだけれど、自分を待ってくれる人間がいるということは、存外心地がいいのだなと感じたのだった。
扉の先には薄暗い階段が続いており、その道を三人は慣れた様子で進んでいく。
迷路のようだなと思いながら進んでいくと、曲がったり下りたり登ったりしていきついた先は、なんと王城の客間の一室であった。
「秘密の近道だよ」
ジャンがそう言い、それに続けてゲリーが笑いながら言った。
「けど迷路すぎて、ジャンがいないと使えないけどな」
僕は眉間にしわを寄せて伝えた。
「安易に人に教えるべきではない。僕は今の一度でもう道を覚えてしまったぞ」
その言葉に、三人が固まったのであった。
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