外伝 アスラン 13
「ジャンと同じ、学園に入学……ですか?」
僕は先生から言われた言葉を、反芻するように呟く。
それからうなずく。
「先日の、魔獣の一件が関係していますか?」
すると先生はうなずいた。
「あぁ。アスラン、そなたにはジャン殿下を学園で守ってほしいのだ。何かあった時、緊急用の魔術具を使い私やドミニクを呼び出してほしい。とまぁ、それも理由の一つだが、あと一つある。そなたはもっと同じ年の子どもと関り勉強したほうがいい」
「え?」
「アスラン、人生は長い。だからこそ友が必要だ」
友?
僕は言われている意味がよく分からなかった。
友とは本でならば読んだことがある、時に支え合い、時に悩みや困難を打ち明けるような相手だ。
ただそれが僕に必要かと問われれば必要ないと答える。
それが必要な理由が分からなかった。
ただ、先生が友がいたほうがいいというならば、僕はそれに従うし、出来るように努める。
「わかりました」
そう伝えると、苦笑を浮かべながら先生は僕の頭を撫でる。
「まぁ、ちょっとずつな」
「はい」
先生は僕に不用意に触れる。
嫌ではないから、不思議だ。
先生は、僕を普通の子どもとして接してくれているのだと思う。
……こんな化け物を。
拳をぎゅっと握りしめた。自分でも自分が普通の子どもでないことくらい分かっている。
ただ、先生に触れられるたびに勘違いしてしまいそうになるのだ。
お前は普通の子どものように生きていけると。
「……先生」
「どうした?」
「僕は……」
どうしたら普通になれますか?
尋ねたかったけれど、それを訪ねてしまうときっと先生を困らせてしまうだろう。
だから、話題を変えるために呟いた。
「友達、どうやったらできるでしょうか?」
「そうだな。気づけばなっているものさ。まずはよく話し、よく遊んでみなさい」
「はい。わかりました」
何を話したらいいのかも、どうやって遊んだらいいのかも、よくは分からないけれど先生を困らせたくないからそう返事をする。
そして、本当に聞きたかったことは胸の内にしまいこんだ。
こんなこと、多分誰にも聞いたら行けないのだと思うから。
「じゃあ、行ってきます。いいですか?」
「大丈夫か? 無理はしないように」
「はい」
せめて、先生を幻滅させないようにしたいと、僕はそう思った。
ガートレードは、部屋を出ていきジャン達と交流を深めるために庭へと向かったアスランを見送った。
そして、隣の部屋で待っていたドミニクと合流した。
「ジャンを暗殺しよとした一件については、容疑者が捕まっただろう? それなのに、アスランを?」
そう。実のところは、暗殺未遂事件についてはジャンとドミニクの調査によって犯人が割り出され容疑者は確保されていた。
ただし、未だに腑に落ちない箇所も多い。
「アスランは、まだ理由がないとだめなのだ。それに、今回の容疑者が黒幕とも限らない」
「……まぁ、それは確かにそうだな」
第一王子であるジャンをよく思わない一派がいることは事実。
貴族が一枚板になっていない以上、ジャンに今後も危険が訪れる可能性は高い。
ガートレードが窓際へと歩くと、窓から外で遊び始めた子ども達を見つめた。
アスランはまだまだ自分の本心を言わないし、他人を信用しようとしていない。
そして笑顔を見せない。
「すくすくと、幸せになってほしいものだ」
子どもらしい時代を過ごさせてやりたい。
そう思うと同時に、人生とは何が起こるかは分からない。
だからこそ、友と手と手を取り合える場所は大事なのだ。
「私だってドミニク、お前がいなかったら、ここまで生きてなかっただろうよ」
「それは俺もそうさ。一蓮托生だな」
お互いに、王家に生まれながらに自分の居場所が見つけられなかった者同士。
ガートレードとドミニクは反発することはあれど仲がいい。
「アスランにも、普通の子どものように生きてほしい。幸せに、笑顔に包まれて」
ガートレードはそう願うように呟いた。
ドミニクは息をつくと腕を組む。
「お前が親になったんだ。大丈夫さ」
「親か。そうだな……いつか、あいつにも恋人ができたりするのだろうか」
「おいおい、気が早すぎるだろ」
「そうだな。ははは!」
鬼ごっこでもしているのか、逃げ回るアスランを三人が全力で追いかけている。
こうしてみるとただの子どものようだが、いつかは彼も大人になる。
「まだまだ遠い未来だろ」
「だが……いつか信頼し合い愛し合える人と出会える未来が来てほしいものだ」
ガートレードはアスランの姿を目で追いながらそう呟いた。
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ぜひこの機会に読んでいただけると嬉しいです!(´∀`*)ウフフ
アスランが不憫すぎて。可哀そう可愛い(●´ω`●)
コミックでは幸せいっぱいのちょっと恋にうかれぽんちなアスランが読めます。








