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七話

私の人生の中心には、アイリーンがずっといた。


 私よりも四歳年下で、両親が亡くなった時アイリーンはまだ八歳だった。


 十二歳になったばかりの私は両親にそんなアイリーンを任されて、どうにか彼女を飢えさせないように生活をしていかなければと毎日必死に働いた。


 出来ることは何でもやった。


 買い物の手伝いに、花売り、子どもの世話に家畜の世話。日雇いで一つ一つの稼ぎは少なかったけれど、それでも自分に出来る仕事はたかが知れていたから、もらえる金額は少なくても必死にやるしかなかった。


 火が昇る前に起きて水くみの仕事を済ませて、アイリーンと朝食を食べてから家畜の世話に行き、昼食を食べてから今度は花売りの仕事。毎日毎日が目まぐるしくて、けれどそれでもアイリーンを飢えさせたくなかった。


 茶色の髪に深緑色の瞳の平凡な私とは違って、お母さんによく似て美人な金髪碧眼のアイリーンは、外に出せば人さらいにあいそうで、私は出来るだけ安全な場所で過ごせるようにと、必死でお金を稼いで、治安のよい場所に家を借りて過ごしていた。


 アイリーンの美しさと、私があまりにも必死に働く姿を見て、妹を売ったらどうだと提案する大人がいた。


 そんな大人達から私は必死にアイリーンを守った。


 高値で買うと言われたり、攫おうとする人にずっと後をつけられたこともあった。私は危険が多いいと思い、自分を鍛え上げることにした。


 そこで採取者としての基本的な体力がついたのだろうなと思う。


 たった一人の私の可愛い妹。アイリーンが笑顔で笑ってくれることが私の幸せで、アイリーンが世界の中心だった。


 それは両親が生きていた頃もそうであった。


 シェリーはお姉さんなんだから、アイリーンに譲ってあげなさい。


 お姉さんなんだから優しくしなきゃダメでしょう。


 お姉さんだから。


 お姉さんだから、アイリーンの為に働くのは当たり前で、お姉さんだから年下の者には優しくしてあげなくちゃいけない。


両親から溺愛されて育ったアイリーンは性格は確かにあまりよろしくなくて、それもどうにか直そうとしてみたけれど、神殿から聖女であると告げられてからは直すどころか更に加速してしまった。


 それでも私は姉だから、聖女だろうとなんだろうと、アイリーンが笑顔で過ごせるよう頑張らなければならないのだと思い込んでいた。


 アイリーンの為に。ずっとそう思って、生きてきた。



 私のことを真っすぐに見つめるアスラン様は心配するような口調で言った。


「……妹も成人したと聞いた。そして君は妹から離れた。ならば、もう、姉という枷から解き放たれて、君自身の幸せの為に歩んでほしい」


 これまで働くことはアイリーンの為だった。


 これまで頑張ってきたのはアイリーンの為だった。


 けれど、もういいのだ。そう、私はアスラン様の瞳を見つめて思った。


「そう……ですね。もう姉ではなく、私シェリー自身の為に、これからを考えるべきですよね」


 私自身、アイリーンの為としていれば生きやすかったのだ。生きる目標があったから頑張って踏ん張れていた。


 けれどもう自分もアイリーンも子どもではなく、それぞれ歩んでいくだけの力を持っている。


 なら、ちゃんと地に足をつけて、自分の道を進んでいかなければならないのだろう。


「すまない……勝手なことを言った。決して君を傷つけるつもりではないのだ。ただ、君は素晴らしい人で、だからこそ……自分を大切にしてほしいと思うのだ」


 自分に向き合ってくれるアスラン様に、私はこの人の傍にいられたら幸せだろうなと思った。


 私を姉ではなく、私として見てくれる人。


 だめだなと私は思う。


 出会ってからまだ間もないというのに、どんどん心がアスラン様に惹かれていく自分に、私は気づかないふりをした。


 




あっという間に寒くなってまいりました!皆様お体には十分気を付けてくださいね!


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