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書籍化【完結連載版】聖女の姉ですが、妹のための特殊魔石や特殊薬草の採取をやめたら、隣国の魔術師様の元で幸せになりました!  作者: かのん
第三章 外伝 アスラン

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外伝 アスラン 10

 魔術師の生活に慣れた頃、先生が慌てた様子で僕の部屋へとやってきた。


「アスラン、面倒くさいことになった」


「どうしたんですか?」


「ジャンとゲリーとリードが屋敷に遊びに来たいとの連絡があってな……はぁ。どうしたものかなぁ」


 僕は三人のことを思い出して尋ねた。


「遊びに来てはいけないのですか?」


「……ドミニクのいたずらで、前回は女装していただろう?」


「あ……」


 そういえばそうだった。


「じゃあ、今日は話をするいい機会ですね。話をしてもいいですか?」


「あぁ……大丈夫か?」


「はい。大丈夫です」


 あの時、聞かれて答えられなかった質問にやっと答えられる。


 僕の反応にガートレードはうなずくと、肩をぽんと叩いた。


「何か嫌だったりしたら、すぐに帰ってもらえるからな」


「はい。ありがとうございます」


 先生はとても優しいというのが、ここ最近分かって来た。


 今まで自分に対して、メリットが何もないのにこのように接してくる人はいなかったから最初は混乱した。


 だけれど、先生はたぶん、優しい人だからそういうものに駆け引きは求めていないようだった。


 自分の生活に余裕があるからだろうと僕は推察する。


 ただ、そうは思っても信頼などはしない。


 これまでもこれからも僕は一人で生きていくのだから。


 

 それから一時間ほどたった時、ドミニクと共に三人がやってきた。


 馬車から下りて来たドミニクは、僕を見るなりにやにやとしながら言った。


「やぁ、お出迎えありがとう」


 四人が馬車から下りるのを僕と先生は出迎えたのだけれど、ジョン、ゲリー、リードの三人は僕を見て驚いた顔で動きを止めた。


「え……」


「ちょっと待て」


「うそ」


 ニヤニヤとしているドミニクに三人の視線が向けられる。


 ジャンは、こちらに向かって一言、少し失礼、と添えてからドミニクとこそこそと話始めた。


 まるで四人で円陣を組んでいるようだ。


「ちょっとどういうことだよ叔父さん!」


「はっはっは」


 するとゲリーとリードは独り言かのように慌てたような声で言った。


「嘘だ! え! まてよ、現実か!?」


「いや、まてゲリー。もしかしたら、男装しているのかもしれない」


「「それだ!」」


リードにジャンとゲリーは賛同してドミニクを見ると、ドミニクはわざとらしく肩をすくめた。


「「「どっち!?」」」


 盛り上がっている様子に、コホンと先生が咳き込むと、三人は姿勢を正した。


 先生は困ったように頭を掻くと言った。


「今日はよく来たね。だが、前回のドミニクのアスランを女児に仕立て上げた悪戯について、まずは謝らなければならないようだ。さぁ、ドミニク、謝罪だ。謝罪」


 そう促されたドミニクは、不満げに呟いた。


「どうも申し訳ございませんでした」


 ジャンとゲリーとリードは固まった。


 目が見開かれていて、本当に僕のことを女だと信じ切っていたようだった。


 だが、性別などそんなに問題なのだろうかと少しばかりよく分からない。


 僕だったら別に三人が女でも男でもどうでもいい。


 だが、三人にとっては大問題な様子だった。


 そしてジャンが信じられないといった様子でおずおずと口を開いた。


「今日は、突然来てしまいすみません。叔父さん誘われてきたのですが……あの、その、もしかして、ガートレード殿の弟子さんは……女の子じゃなくて、男の……子ですか?」


 僕はちらりと先生を見て話をしていいかと確認を取ると、先生がうなずいたので、口を開いた。


「いらっしゃい。あぁ。前回はすまない。男なんだ」


 そう言った瞬間、三人が打ちのめされたように顔を俯かせた。


 ドミニクは大声で笑い声を立て、そんなドミニクの腹部に先生が一発拳を入れた。


「ぐふっ……ひ、ひでぇ」


「お前はからかいすぎだ。反省しろ」


 仲良さげなその様子。


 平和な世界。


 今まで自分が暮らしてきた世界とは、色が違いすぎて、未だに色々と困惑する。


「はぁぁぁ。男か……だが、ガートレード殿の弟子だし、さぞ優秀なのだろうな」


 その言葉に、僕は少し考えてから先日、自分は実験を失敗してしまったなと思い、首を横に振った。


「この前、屋敷の壁を爆破してしまったから……優秀ではないかもしれない」


 四人が屋敷を勢いよく見ると、右半分の部分が修繕中であり、皆が驚いた顔で今度は先生の方を見る。


 先生は苦笑を浮かべた。


「なに、魔術師ではよくある失敗だ。この子は優秀だよ。さて、三人とも。今日はよく来た。たくさん遊んでいきなさい。庭にたくさんのお菓子とサンドイッチとジュースを用意してあるから、仲良くな」


「「「はい。ありがとうございます」」」


「じゃあ、私とドミニクは行くから。アスラン、大丈夫だな?」


「はい。先生。何かあったらすぐに知らせに行きます」


 先生は僕の頭を優しく撫でてから、ドミニクを伴って屋敷の中へと戻っていった。


 撫でられた頭が気になって、自分の手でぐしゃぐしゃっとしてから、三人に向き直った。


 すると、三人ががっくりと項垂れて呟いた。


「うそだろ……」


「はぁぁ。俺の純情が」


「僕の初恋が……」


 どうしたのだろうかと思っていると、ジャンが呟いた。


「私は絶対に、そなたよりも美しい令嬢と結婚する。今、決めた」


 言われている意味が分からずに首をかしげると、三人がげんなりとした声を上げた。


「……男姿でも、女性よりも可愛く見える」


「……なんていうことだ」


「あぁぁぁぁ」


 どうしよう。これは困った。男か女かというのは結構問題だったらしい。


 そう思っていると、思い出したようにジャンが言った。


「名前、そうだ。名前、なんで前回は名乗らなかったんだよ」


 そう言われて僕は、あぁそうだったと思い言葉を返した。


「前の時にはなかったから。でも、先生がつけてくれたんだ。これからはアスランと呼んでくれ」


 そう告げると、三人が一瞬言葉を詰まらせる。


 僕はそれに肩をすくめると三人に言った。


「一緒にまずはお茶でも飲もう。庭にレイブンが準備してくれている。さぁ行こう」


 人との関係を築くことは難しいけれど、先生が心配をしていたから、心配をかけないように頑張ろうとそう思った。


 レイブンの用意してくれた席に着くと、三人は驚いたように声を上げた。


「これはすごい。これ、いろいろな国のお菓子じゃないか」


 ジャンの言葉に、リードが興奮した様子で言った。


「本でしか見たことない物ばかりだ……うわぁ。どんな味がするんだろう」


「楽しみすぎる! なぁ、先に食べようぜ!」


 ゲリー様の言葉にジャンとリードはうなずき、僕達は席に着くことになった。


 僕の横にジャンとゲリーが座り、正面にリードが座った。


 すると横に控えていた侍女が紅茶をいれてから、すぐに離れた位置に下がった。


 これまで世話をされることがなかったので、未だに傍に人が待機しているのに慣れない。


「それで、なんで名前がなかったんだよ」


 ゲリーの言葉に、ジャンとリードが動きを止めた。


 僕はそれを聞いて、紅茶を飲みながら答えた。


「ちょっと前まで奴隷だったから、名前は適当に、お前とか餌とかそういう感じで良かったんだよ。でも、先生が、名前はあったほうがいいって」


 目の前に並ぶお菓子を見つめながら、僕はこれはこの子達に準備したものであって僕のものではないからと、手を付けないようにする。


 食べ物を欲張ってもいいことはない。


 そう思いながらもおいしそうだなと眺めていると、ジャンが眉間にしわを寄せて子どもらしくない口調で言った。


「奴隷? 嘘をつけ。我が国では、奴隷は禁止されている」


「あぁ。先生にそう教わった。だから、僕のいた奴隷商はその後、先生達の力で取り潰しされたんだって」


 お菓子を見ていたらお腹がすいてしまうなと思っていると、ゲリーが言った。


「じゃあ、奴隷ってどんな生活をしているのか教えろよ」


 どんな生活?


「うむ。そうだなぁ……奴隷商にいた頃は、部屋の中で基本詰め込まれて、売りがある日は、会場に連れていかれて、見世物用の檻の中に入れられて、それ以外は、本当にじっとしているか、掃除なんかの手伝いをやらされるだけかな。売られてからは、魔物狩り用の餌をしてた」


 淡々と言葉にすると、三人は言葉を詰まらせた。


 そしてリードは顔を青ざめさせており、手に持っていたお菓子を机に置いた。


 空気が悪くなったような気がして、話すべきではなかったのかもしれないと反省する。


「食べ終わったら散歩にいくか?」


 そう提案した時、ジャンが言った。


「いや、普通に考えたらおかしいと思う。ならなんでそこから魔術師になれるんだ?」


「……魔力が人よりも多いらしい。それ以外の理由はあるのかもないのかもわからない」


 すると、首を傾げながらゲリーが言った。


「魔力? それなら、俺だって多少はあるが、魔術師にはなれないぞ」


「そうだね。魔力があるだけで魔術師になれるわけではないよ」


 リードがそう言い、じゃあどうして弟子にしてくれたのだろうか。僕自身も首をかしげていた時であった。


 僕は、ぴりりと肌を何かが這うような感覚がして立ち上がった。


「どうした?」


 ジャンがそう言い、僕はしっというように唇に指を当てた。


 嫌な気配がする。そうだ……これは。


「ふせろ!」


「「「え?」」」


 三人がきょとんとするものだから、僕は三人の体を無理やり伏せさせた。


 次の瞬間、空中で火球が突然生まれると、爆発が起こった。


「なんだ!?」


「ぐっ、耳が、いてぇ」


「うわぁぁぁ」


 僕は久しぶりに見るそれに、舌打ちをした。


「なんで、こんなところに魔獣がいるんだ」


 僕の言葉に、三人が驚いたように目を見開いた。


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