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書籍化【完結連載版】聖女の姉ですが、妹のための特殊魔石や特殊薬草の採取をやめたら、隣国の魔術師様の元で幸せになりました!  作者: かのん
第三章 外伝 アスラン

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外伝 アスラン 7

 馬車がつき、僕はドミニクに抱きかかえられたまま馬車から下りた。

 

 城と言っていたが、僕はそれを見て驚いた。


 初めて見るその城というものは、とにかく大きくてそれでいてとても美しかった。


「あぁ、行く前にこれを」


 そういうと、首にネックレスをかけられる。その瞬間、全身の魔力が小さな瓶に押し詰められたような窮屈な感覚に身を包まれる。


「……これは?」


「壊すなよ。魔力抑制のネックレスだ。国宝と呼ばれる超高級品だ」


 なるほど。ガートレードの話では僕を危険視しているということだったので、平然と王城に連れてきていたのを驚いたが、これがあったからか。


「さて、今度こそ参りましょうか。お姫様」


 お姫様。


 お姫様という言葉は知っている。王様の娘ということだ。ただ、僕が知っているのはそれだけで、何故そう呼ばれるのかも、どこへ連れていかれるのかもわからない。


 ただ……まぁ死にはしなさそうなのでいいかと思った。


 城の中へと入ると、騎士達がこちらに向かって敬礼をする。


 ドミニクはそれに手を上げて答えると歩いていく。


「お前、質問してこないのか?」


「口を開いてもいいのですか?」


 言葉遣いは丁寧な方がいいかもしれない。そう思って、ちゃんと話せるようにと


「……はぁぁ。そうか。なぁ、お前は生まれてからずっと奴隷だったのか?」


「はい」


「それにしては応答はしっかりしているんだよな」


「子どもは、どんなところに売られるか分からないので、言葉遣いは叩き込まれます」


「あー……なるほどな。胸糞悪いぜ」


 そういうと、僕の頭をドミニクはそっと撫でた。


「俺までほだされそうだ。まぁいい。さて、今日はお前に遊んでほしいやつがいるんだ。一緒に遊んでや

ってくれ。親戚の子でな、勉強ばかりだからたまには息抜きだ」


「勉強?」


「ああ。子どもらしくない子だ。まぁ、仲良くなれなくても別にいいんだがな」


「一緒に過ごせばいいということですか?」


「あぁ。なぁ、その喋り方やめていいぞ。普通に喋ろよ。子どもなんだし」


「……子どもらしくしろということですか?」


 ドミニクは大きくため息をついた。


「好きにしろってことさ」


「好きに……」


 好きにとはどういうことなのだろうか。


 とにかく、ドミニクが納得するようにうなずく。


 しばらく歩いていくと、庭がありそこには見事な花々が咲いていた。そしてその庭にはお茶会の用意がされており、その席に一人の男の子が座り、後ろに二人の男の子が控えていた。


「ほら、親戚の子だ。偉そうに座っているのが、この国の王子のジャン。後ろの真面目そうなのが側近予定のリード。やんちゃそうなのが騎士見習のゲリーだ」


「ジャン、リード、ゲリー」


 三人の前まで僕はドミニクに連れられていく。


 なぜか三人は僕を見て、驚いたような顔をしていた。


「やぁ。三人とも。今日は色々菓子やケーキを手土産に城へは運んであるからあとでこちらに持ってこさせるな。この子はガートレードの弟子だ。仲良くしてあげなさい。子ども同士だから、地位などには縛られないようにな」


 その言葉に、ジャンが慌てて口を開く。


「叔父上。その、可愛らしい子が、ガートレード様の弟子、ですか? どこかの貴族のご令嬢ではなくて?」


 可愛らしいという言葉に、ドミニクが笑いをこらえる。


「ぶっ……ごほん。あぁそうだ。うむ。可愛いだろう? 貴族のご令嬢ではない。魔術師の弟子で間違いない。だがまだなり立てなんだ」


 なり立てというか、話を聞いたばかりだけれど。そう思いつつ、三人へと視線を向けると、僕と視線が合う前に、三人ともさっと視線を反らして顔を赤らめた。


 その様子にドミニクは心底楽しそうだ。


 僕はご令嬢でもなければ可愛らしくもない。否定してもいいのだろうか。


 ただ、許可がない以上口を開くこともはばかられた。


 そんな僕の頭をドミニクがポンっと撫でる。


 大きな手で撫でられる感覚は奇妙だった。


「優しくしてやってくれ。あと、いろいろと知らないことが多い子だ。子ども同士遊びながら教えてやってくれ。では俺は少し仕事へ向かうからよろしくな」


「叔父上!」


「ははは。じゃーな!」



 そういうと、ひらひらと手を振りながらドミニクは行ってしまい僕は取り残された。


 命じられたのは、一緒に遊べとのことだったので、三人へと向き直るが、三人とも困ったような顔を浮かべていた。


「おいおい……女の子の遊びなんて、私は知らないぞ」


「ぼ、僕もよく分かりません」


「まぁともかく、君、名前はなんていうんだい?」


 ゲリーにそう尋ねられ、僕はどうしたものかと考え首を横に振る。



「答えられない」


 名前がそもそも僕にはない。通称としては餌だが……餌とは名前と言っていいとは思えなかった。


 ジャンが立ちあがると、僕に手を差し出した。


「魔術師の弟子とのことだ、いろいろと事情あるんだろう。まぁ、いいさ。お嬢さん、手を」


 手?


 言われている意味が分からず、差し出された手を僕は握手かと思って握ってみた。


 ジャンはそれを見て驚いた顔を浮かべ、リードとゲリーは笑いをこらえている。


 恐らく違ったのだろうな。そう思い手を引っ込めようとすると、ジャンは笑顔で僕の手を握り返し、それから僕の手を自分の腕に乗せると言った。


「これはエスコートって言うんだよ。男性が女性を案内するマナーだね」


 それを聞き、僕はぱっと手をのけると言った。


「必要ない。僕にエスコートは必要ない」


「「「僕?」」」


 三人が僕を見て、それからジャンが呟く。


「女の子で、僕……か。ふむ。なんだか、可愛らしいな」


「うん」


「可愛い」


 この三人は頭が少しおかしいのかもしれない。


 僕は可愛くはないし、女でもない。


 不満げな顔でいると、ジャンが笑って言った。


「ははは。まぁいいや。じゃあ、どんな遊びがしたいんだ? 勉強は今日はいいや。久しぶりに遊ぶか」


 その提案に、リードとゲリーの瞳が輝く。


「嬉しいよ! 久しぶりじゃないか!」


「本当だな! やったぜ。お嬢さんのおかげだな!」


 お嬢さん。その呼び方嫌だなぁと思っていると、ジャンが言った。


「女の子扱いしなくて、普通に子ども同士の扱いでいいか?」


「もちろん」


「よし、じゃあ行こう! 向こうに秘密基地がある」


 秘密基地。


 一体どんなところなのだろうかと思いながら、走り出したジャン達について僕は走り出したのであった。


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