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書籍化【完結連載版】聖女の姉ですが、妹のための特殊魔石や特殊薬草の採取をやめたら、隣国の魔術師様の元で幸せになりました!  作者: かのん
第三章 外伝 アスラン

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外伝 アスラン6

 大賢者ジル・ウィーズ。


 ガートレードが言うには、変わり者で変人なのだという。


「あの人の考えることは、人の範疇を超えているのだ。はぁ。詳しく教えてくれるか?」


 僕は遺文の知っている限りのことをガートレードに話をすると、捜索隊を編成して連れ戻してくると屋敷を出たのであった。


 僕はどうしたらいいのだろうかと思っていると、レイブンが優しい声色で言った。


「今日はお医者様の診察が終わり次第、入浴、その後の時間はゆっくりとすごしていただけたらと思います」


 医者?


「あの、僕はどこも悪くないです」


「はい。ただ、健康状態を知りたいのです」


 病気を持っていないか心配なのかもしれない。


 僕はうなずくと、レイブンに言われたとおりに大人しく医者の診察を受けた。


 気難しそうな医者は、僕のことを見るとあまりいい顔はしなかった。


 それはそうだろう。奴隷の子どもだ。医者は偉い人なので、奴隷の子どもなど診察したくないだろうなとそう考えた。


 診察が終わると、レイブンが僕を風呂場へと案内してくれた。


 案内された風呂場は大浴場であり、大きな風呂があるらしい。


 ただ、レイブンの話をうんうんと聞いていた僕だが実の所風呂場というのがよく分からなかった。


 奴隷の時には、まとめて水を浴びせられていたので、体を綺麗にする意味が分からず面倒くさいなと思う。


「坊ちゃま。お手伝いをしてもよろしいですか?」


 坊ちゃま?


 僕はぎょっとしてレイブンを見ると、小首をかしげるレイブンがいる。


「坊ちゃまは……ちょっと……」


「そうですか? ですが、坊ちゃまは坊ちゃまですから」


 そう言うと、洋服を脱がせようとしてくるので僕は慌て自分で脱ぐと告げた時だった。


「レイブン。ガートレードがいないようだから、大浴場借りるぞ」


「ドミニク様。お出迎え出来ず申しわけございません。ただ、これより坊ちゃまが入浴予定でして、しばらくお待ちいただけますか?」


 ドミニクと呼ばれた男性は、先日ガートレードと一緒にいた男だ。


 僕のことをじろっと見た後に、ふむと息をつく。


「あー……この前の。まだ、孤児院に預けていないのか」


「ご主人様に詳しくはお聞きください」


「は~ん。ということは、何かあるってことか。まぁいい。そいつ俺が風呂に入れてやるよ」


「ドミニク様……」


 レイブンは止めようとするけれど、僕のことをひょいと抱き上げるとはぎとられるように洋服を脱がされた。


 僕は、反抗したならば罰せられるかもしれないと思い、じっとしていると、二人の動きが一瞬止まったことに気付く。


 なんだろうかと思っていると、二人の視線は僕の背中へと向かっていた。


「おいおい……これ、なんだよ」


「これは……とにかく、ドミニク様、一度坊ちゃまを離してくださいませ」


「まぁまぁ。俺とガートレードの仲だ。問題になったら俺が責任取るから。じゃ、ひとっぷろ行くか」


「ドミニク様!」


 レイブンの反応からして、恐らくこのドミニクという男性はかなり高位の地位の者なのだろう。


 従った方がよさそうだなと判断すると、ドミニクが僕を椅子に座らせて言った。


「ほら、体を洗え」


「?」


 僕は周囲を見回すが、見たことのない物ばかりで、どうしたらいいか分からない。


「……嘘だろ。お前、わかんないのか」


「はい。水浴びしかしたことありません」


「うげぇ。汚ねぇ。じゃあ俺が洗うぞ。洗い方とか使い方は見て覚えろよ」


「はい」


 僕は初めて、石鹸などの風呂に入るために必要な物を知った。


 しかも魔術具が風呂場にも設置してあり、シャワーというお湯が出るものもあった。


 頭を洗っても体を洗っても真っ黒な水が出るものだから、ドミニクは悲鳴を上げながら僕を洗い続ける。


「お前……お前汚すぎるだろ。嘘だろ……おいおいおい。頭から足先まで磨き上げてやる! お前ちょっと痛くても我慢しろよ!」


「……はい」


 よく分からないけれど、僕はごしごしと現れ続けて頭からつま先まで泡だらけに包まれた。


 そしてやっとすべての汚れが落ちて、ドミニクは大きく息をついた。


「よし……ふぅ……これは、一仕事過ぎた。さぁ、風呂に浸かるぞ」


 風呂……。僕はよく分からないまま、ドミニクについて大きな泉のようなところに来ると、ドミニクと同じようにその中に足を入れた。


 温かい……。


 内心かなり驚きながら風呂に入る。


 これが、風呂。


 水の中に入るのは、川以外では初めてだ。


 僕が潜ると、ドミニクにひょいと浮き上がらされた。


「沈むな。沈むな。これは座って楽しむ風呂ってんだ。お前……どうやって生きてたんだよ」


「すみません……」


 その言葉に、ドミニクは大きくため息をつく。


「はぁ。まあいい。……って、お前、顔真っ赤だな」


「暑いです」


「ははは。そうかそうか。じゃあ上がるか」


 そう言うと、ドミニクは促して外へと出ると、外には、レイブンが心配そうに待っていた。


「大丈夫でしたか? 坊ちゃま」


「うん。でも暑いです」


 そう答えると、すぐにドミニクが僕に飲み物を手渡してくれた。


 一気にそれを飲み干し、僕が息をついていると、僕を見たドミニクが固まった。


「こいつ……洗ったら見違えたな。ふーん……レイブン。女の子用のドレス持ってこいよ」


「ドミニク様、それは」


「命令だ」


「……かしこまりました。坊ちゃま、申し訳ありません……」


 しょぼんとしたレイブンに、僕は大丈夫だと言うようにうなずいてみせる。


 レイブンは急ぎドレスを持ってくると、僕の身支度を整えていく。


 僕としては、別段何を着せられてもいい。


 ただ、フリルの付いた衣装を身に着け、頭に可愛らしいヘッドリボンを付けられ、鏡の前に立たされた時は、いったいこれは誰だろうかとは思った。


「……これは……」


 レイブンの瞳が輝いていた。どうやら、満足する出来らしい。


 そしてドミニクはというと、ゲラゲラと笑い声をあげていた。


「嘘だろ! あはは! めちゃくちゃ可愛すぎるだろ。あははは! どこのお姫様だよ!」

ソファをバシバシと叩きながら楽しそうなドミニクは、ひとしきり笑い終えると背筋を伸ばして僕を抱き上げた。


「よし、ちょっと借りていくぞ。ガートレードには城にいるって伝えてくれ」


「城にですか?」


「ああ。ふふふ。いいことを思いついた」


 そう言うと、僕はドミニクに抱きかかえられたまま移動することとなった。


 一体どこに行くのだろう。


 色々と目まぐるしく過ぎていって、少しばかり疲れる。


 餌をしていた頃の方が、楽だったかもしれない。


 僕は馬車に乗せられて、その揺れを感じながらそんなことを思ったのであった。


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