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書籍化【完結連載版】聖女の姉ですが、妹のための特殊魔石や特殊薬草の採取をやめたら、隣国の魔術師様の元で幸せになりました!  作者: かのん
第三章 外伝 アスラン

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外伝 アスラン 5

 生まれた時から、僕の体の中には魔力が溢れていた。


 自分の体の中に化け物を飼っているような感じだ。


 暴れまわって、体の中に押さえつけるのがやっとだった。


 物心ついた頃には、逃走防止用の魔術具が付けられており、奴隷として檻の中にいた。


 売られ買われていく人間と、売れ残り死んでいく人間。


 奴隷というのは雑多に混ぜ込まれて一部屋に入れられる。


 そんな中で、殴られ蹴られることもあったが、自分の魔力故か死ぬことはなかった。


 奴隷の中には様々な人間がいた。愚かな者も、暴力的な者も。そしてたまに、違う世界が見えている者もいた。


「お前はいずれ、偉大なる者になるだろう」


 僕に向かってそう呟いた老人は、頭がおかしいと皆に言われていた。


 そしてもう死を待つだけの老人奴隷は違う世界が見えている一人だった。


「出来るだけ、顔を見えないように、汚くしていなさい。お前は美しすぎる」


 生きる術は、たくさんの奴隷から教わった。


 手取足取り優しくではない。


 乱雑に力技で躾と称して殴られ教えられることもあれば、老人のように子どもだからという理由で教えてくれるものもいた。


 老人は違う世界を教えてくれた。


 それは空に輝く星々のように輝いて見えた。


 魔力について、魔術について、そしてこの世界に溢れる魔石や薬草のことを。


 見たことも聞いたこともないその世界は、奴隷の僕には眩しすぎた。


 そして……学べば学ぶほどに楽しかった。


 けれど……結局、奴隷は奴隷。


 魔力を持つ餌として僕は売られ、老人は売られることなく二度と会うことはない。


 ただ、学んだものは僕の血となり肉となり、生き残る術になった。


 目を覚ますのが怖い。


 目を覚ましたらまた、生きなければいけない。


 浮上していく意識の中、僕は夢の中にうずくまっていたかった。


 けれど、どんなに嫌だろうと夢は夢。


 起きなければならない時は来るのだ。



 瞼を開けると、柔らかなベッドに寝かされていることに気が付いた。


 感じたことのない柔らかさと、心地よさに、まだ夢の中にいたのかと思っていると部屋の扉が開いた。


――――ガチャ。


 そこには、執事服に身を包んだ小奇麗な男性がいた。


「おや、目を覚ましたのですか。こんにちは、私は執事のレイブンと申します」


 優しい声色と目線。


 僕は部屋の周囲を見回し、それから男性を見て、ゆっくりとベッドから起き上がると壁の方へと下がった。


「怖がらなくて大丈夫ですよ。今、旦那様をお呼びしますね」


 旦那様?


 新しい飼い主のことか?


 そう思い、僕はこくりとうなずくと床に跪く。


 最初が肝心だ。言うことをちゃんと従順に聞くと言う姿を見せて、少しでも生き残れるようにしなければいけない。


「床ではなく、ベッドにお戻りください。まだ、体調が芳しくありませんから」


 そう言われ、僕はどうしたらいいかが分からない。


 ちらりとベッドを見ると、僕が横になったから汚れていた。


「汚してしまって、申し訳ありません」


 跪いたまま頭を床に下げ、両手を前に出す。


 鞭で手を叩かれるか、それとも背中を打たれるのか。


 あまりひどく痛まないといいなと思いながらじっと待っていた時、また扉が開く音がした。


「どうした?」


「旦那様。丁度良い所に……」


「おいおい。どうしたんだ」


 次の瞬間、両脇に腕を入れられて体をひょいと抱き上げられる。


 突然のことに驚いていると、声の主はガートレードであり、僕をベッドへと運ぶとまた寝かせた。


「なんで床に転がっているんだ。寝相が悪いのか」


 そう言われたレイブンは困ったような顔を浮かべた後に言った。


「今起きたようです。どうなさいますか?」


「うむ。まずは食事だろう。運んできてくれ」


「かしこまりました」


 レイブンはそう言うと部屋から出ていった。


 ガートレードはベッド横に椅子を持ってくると僕の顔を眺めながら呟いた。


「ここは私の家だ。私のことは覚えているか?」


 こくりとうなずくと、良かったというように息をつく。


「それでな、君は私に保護されたのだ。その理由は分かるか?」


 首を横に振る。 


 そうだろうなというように、ガートレードは僕の体を指さして言った。


「理由は君の体の中の魔力だ。そなたほどの魔力を持った人間に、私は出会ったことがない。そして君は魔力暴走を起こしたのを覚えているか?」


「はい……覚えています」


「よろしい。そのことが少しばかり問題になった。君のような力は危険になるのではないか、というものだ」


「なるほど……」


「そこで君に提案がある」


「提案?」


 なんだろうかと言葉を待つと、真っすぐに僕のことを見つめながらガートレードが続けた。


「私の弟子となり、魔術師にならないか? というか、今の所私の弟子になる以外の道はないのだが」


「魔術師……?」


 しばらくの間、頭の中で魔術師という言葉を繰り返す。


 それから、弟子になる以外の道がないという点がきになっていると、ガートレードから王国で大量の魔力が危険視されたという話を聞いた。


 なるほど。たしかにこの力は危ないと思われるかもしれない。


「貴方は僕を弟子にしていいの?」


「もちろん。私は魔術師としては自分で言うのもなんだが優秀だ。だから君にたくさんのことを教えることが出来るだろう。その魔力との付き合い方もな」


 魔力との付き合い方。これは教えてもらえるならば教えてもらいたい。


 このまま自分の力に翻弄されるのは嫌だから。


 ただその前に、気になっていることがあった。


「一つ質問なのだけれど、僕の……罪は?」


 ガートレードはその言葉に、ため息をつく。


「……この国で人身売買は、御法度だ。……辛い思いをしたな。そなたに罪はない」


 ご法度? 罪はない?


 どういうことなのか、よく分からなかった。ただ、牢屋に入れられないことだけは分かり、ほっと胸を撫で下ろす。


 それから少し考えて僕は答えた。


「弟子って、なにをするの?」


 奴隷以外の世界を、僕は知らない。


「何、難しいことはない。一緒に暮らし、学んでいく感じだな」


「学ぶ……勉強できるっていうこと?」


「あぁ。もちろん。望むだけの知識を得られる」


 その言葉に、あの奴隷の老人と過ごした日々を思い出す。


「貴方がいいというならば、僕は弟子になりたい」


 答えはすぐにでた。


 僕の言葉にガートレードは瞳を輝かせる。


「ふふ。そなたならばそう言うと思っておった。よし! 決まりだ」


 部屋をノックする音が響き、レイブンが部屋へと入ってくると僕のベッドの上に机を準備し、温かな柔らかく煮込んだ野菜のスープとパンを持ってきた。


「話は終わりましたか?」


「あぁ。レイブン。今日からこの子はうちの子だ。いいな」


「かしこまりました」


 うちの子? その言葉に違和感があり視線をガートレードに向けるとさも当たり前のように言った。


「弟子ではあるが、そなたには籍がない。それだとこれから中々不便だろう。だから私の籍に入れるつもりだ」


「籍?」


「私の子になるってことだ」


「子ども? え?」


「つまり私がパパだ。ダディ。お父様。お父さん」


 様々な言葉で言われてもよく分からない。


 いつかみた、親子の姿を思い出して眉間にしわが寄る。


 親など、恵まれた子どもが得られる存在だ。自分にはいない。


 その僕の表情を見て、ガートレードは困ったように微笑む。


「まぁ、籍についてはおいおいでいい。とにかくこれから立派な魔術師になるように鍛え上げるつもりだからな」


「……はい」


「さぁじゃあ、足を見せてくれ。魔術具が付けられていただろう。外そう」


「え? だって、あれが外れたら……」


 逃げられるのに?


 僕が驚いているのを見て、ガートレードは言った。


「いいか。そなたは奴隷ではない。この国は奴隷は禁止されている。そなたは嫌だったらこの家だって出ていいし、どこへでも行けるんだ」


「どこへ……でも?」


「あぁ。だが、子どもの身では自分を守る術も生きていく術もないだろう。だから、出ていきたいならばそれを身に着けてからをお勧めする。もちろん、ずっとここにいても大丈夫だ」


 ずっとここにいてもいい。


 その言葉が不思議であった。


「……はい」


「よし、では外すぞ。足を見せて」


 ベッドの上に足を出すと、ガートレードはしばらくそれを触ったり眺めたりしたあとにふむと息をつ

き、いくつかの特殊魔石と特殊薬草とを、すり鉢で煎じていく。


 それを見ながら僕は尋ねた。


「なんでわざわざ細かくしたりするんですか? 術式にそのまま加えていくのではだめなのですか?」


「はっはっは。それはそなたの魔力が高い故の力技であると、理解していないな。少しずつ魔術の常識も学ばねばな。ほら、出来た。これを魔術式に載せていくのだ。すると魔術が発動して解除完了。ほれ、取れた」


 物心ついた時から足に着けられていた、魔術具。それがなくなると、足がとても軽いように感じた。


「……軽い」


「良かったな。それにしても、そなた、どこで魔術の基礎を学んだのだ。奴隷にされる前か?」


 僕は首を横に振る。


「奴隷のおじいさんに教えてもらったんです」


「奴隷の? 名前は?」


「聞いていません」


「ふむ……何か特徴はなかっただろうか」


 その言葉に、静かにおじいさんのことを思い出す。


「綺麗な目をしていました。右が赤で左が青色の瞳でした。ただ、いつもは長い前髪でほとんど見えないんですけれど」


 その言葉にガートレードは目を丸くする。


「待て待て待て。まさか、大賢者の……ジル・ウィーズ様? 行方不明と聞いているが、まさか奴隷商に捕まっているのか!?」


 ガートレードは立ち上がり、困ったと言うように頭に手を当てたのであった。



1日1話更新になります!

読んでくださる皆様に感謝ですー!!

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