外伝 アスラン 4
「くそ……こりゃひでぇ」
少年の魔力が暴走した為に、けが人も複数名出ている。
ガートレードは少年の元へと向かうとその体を優しく抱き上げた。
それを、ドミニクが慌てて制止させる。
「おいおい。ガートレード、そいつをどうするつもりだ」
「……一旦うちに連れ帰る」
「ちょっと待て、魔術師として魔力を持つ子どもは逸材だ。拾いたくなる気持ちは分かるが、あまりに危険じゃないか。それに、まずは報告を上げてからの判断だろう」
ガートレードは小さくため息をつく。
「ドミニク……お前、最後のこの子の声が聞こえたか?」
「え? いや……何か言っていたのか?」
「あぁ……」
少年のあの言葉の重さが分かるのは、自分くらいかもしれない。
ガートレード自身、自分の魔力に悩まされた。だからこそ、少年の言葉の重さが分かるのだ。
「もちろん、報告は上げるつもりだ。だが、その間、この子を牢へと入れておくわけにはいかないだろう。この子は、被害者でもある」
ドミニクはその言葉に小さく息をつく。
「被害者……ねぇ。なぁ、その子は、貴族でもないただの平民の子だ。……処分もありえるんだぞ」
「……わかっている」
眉間に深くしわを寄せるガートレードの肩をぽんっとドミニクは叩く。
「お前がそう言うなら、俺も協力はする。が、最終的に決めるのは上だ。あまり、肩入れしすぎるなよ」
「……恩に着る」
その日のうちに、ガートレード達はローグ王国上層部に報告をした。
そして翌日、話し会いに参加するために二人も登城することになった。
少年はまだ目覚めておらず、ガートレードは少年を屋敷に残し城へと向かったのであった。
城へと着くとすぐに二人は、国王陛下並びに王城勤めの貴族の方々が集まっている部屋へと向かった。
その部屋はすり鉢状となっており、一番低い位置にドミニクとガートレードが立ち並ぶ。
挨拶は割愛され、今回の一件についての大まかな概要について話があった後、国王陛下が口を開いた。
「今回の論点は、大量の魔力を持つ子どもを生かしておくべきか、否かである。危険なのであれば処分もやむを得んだろう」
その言葉に貴族の面々は同意するようにうなずく。
最初にドミニクによって今回の事件のいきさつ等が説明され、資料を見ながら貴族達はふむふむと分かっているかのように頷いている。
説明が終わると、貴族の一人が口を開くのを皮切りに皆が口を開き始める。
「魔力が多いというのはやはり危ないのでは?」
「今回も暴走をしたとある。処分の方が無難ではないか」
「だが、魔力を多く持つ人間は稀だ。隣国の聖女に匹敵する魔術具を生み出す可能性もある」
「そうだ。我がローグ王国は聖女がいない故に、これまで以上に魔術を発展させなければ」
「だがどうだろうか。それほど魔力は重要なのか」
ごちゃごちゃと煩いとガートレードは内心思いながらも、表情に笑顔を貼り付けて国王へと告げた。
「発言の許可をいただいてもよろしいでしょうか」
「よい。ガートレード、そなたの意見を聞かせてくれ」
国王の言葉に、ガートレードは恭しく頭を下げてから話し始めた。
「我が国の魔術師育成は必要不可欠。ですが、魔力を有しているだけでも少ないのです。今回の一件、魔力暴走が起こったのは的確な指導がなかったからと私は考えます。そこで、私から提案がございます」
「なんだ。続けよ」
「私が今回の一件の子を引き取り、立派な魔術師に育て上げて見せます。傍にいれば、彼が危険な行動をしたとしても、私が対処いたします」
「ふむ」
国王はしばらくの間黙る。
ドミニクは眉間にしわを寄せてガートレードを見つめる。
「なるほど。皆、どう考える」
国王の言葉に帰属の面々はうなずき合う。
「ガートレード殿であれば、魔術師としても一流。それに王家の血筋を引く方ですし、安心してお任せできます」
「私も同意見です」
「ガートレード殿であれば、任せれば間違いないでしょう」
その中で一人、四大公爵家の一つであるヴォルフガング公爵があごひげを撫でながら鋭い瞳で口を開いた。
「ガートレード殿は亡き先王の年の離れた弟。ですが現在は王位継承権はなく、魔術師としての地位を賜っております。皆様、だからこそ、少し甘いのでは? もしも時には誰が責任を取るのです。危険因子というものは、早々に芽を摘んでおいた方がいい物かと私は思いますがねぇ」
ねっとりと絡みつくようなヴォルフガングの言葉に、皆が言い淀む。
ガートレードは静かに答えた。
「責任は私が取ります」
真っすぐにそうガートレードが答えると、ヴォルフガングは満足するようにうなずく。
「それならばいいかもしれませんなぁ」
国王陛下もうなずき、言葉を述べる。
「ガートレード、ではそなたに任せる。頼んだぞ」
「ハッ、かしこまりました」
深々と頭を下げたガートレードはちらりとヴォルフガングを一瞥する。
話し合いが終わった帰り道、ドミニクはため息をついた。
「こうなる気はしていた。ヴォルフガング公爵、何してくるかわからないから気を付けろよ」
「わかっている」
「生まれが複雑だと、いろいろと考えなければいけないから面倒だな」
ドミニクは肩をすくめてそう言いため息をつく。
「まぁ、前王の息子である私と、現王の弟であるお前とが近しい間柄にいるというのも、ヴォルフガング公爵の癪に障るのだろうな」
王家に生まれると、いろいろとあるものだ。
「だが、まぁ許可が出てよかったな」
「あぁ。私があの子を一人前の魔術師に育てるさ」
「そりゃあ楽しみだ」
自分の覚悟は決まったが、あの子はこれでいいだろうか。
普通に生きさせてやりたい気持ちもあるが、あの魔力からして普通には生きていけないだろう。
「せめて少しでも幸せに、暮らしていけるようにしてやりたい」
ガートレードはそう小さく呟いたのであった。








