外伝 アスラン 2
目の前で何が起こったのか分からないというような顔を浮かべている。
「……これは……魔術が仕えるのか」
その言葉に、一発でこれを魔術と分かるということに驚く。
「魔術知っているの?」
「あ……あぁ。ふむ。よく構築されている……」
じっと見つめられ、魔術が分かる人間に初めて会ったなと思っていると、いい香りにつられて腹が鳴った。
鍋の中からおいしそうな匂いが立ち込める。
ここにいるとさらに腹が減りそうだと立ち上がろうとした時、腕を掴まれた。
「待て待て。お前の為に作ったんだ。食べていきなさい」
「は?」
言葉の意味が分からずにいると、ガートレードは頭をポリポリ書いてから荷物から器二つだすとそれに木の実などが混ざったとろっとした食べ物をそそいだ。
そしてスプーンと共に目の前に置かれた。
「いらない」
僕が受け取らないのを見て、自分の器についだ分を、ほふほふとしながら食べ始める。
毒は入っていなさそうだった。
「……金は?」
「子どもからは取らん主義だ」
「……ふーん。後から何か出せって言ってもなにも出さないからな」
そう告げてから、器を持ちスプーンでゆっくりと口に運ぶ。
「熱……」
「ゆっくり食べなさい。ほら、ホットミルクもある。どうぞ」
ホットミルクは湯気が立ち、それにふぅふぅと息を吹きかけながら飲むと、はちみつの甘さが口に広がり驚いた。
「甘い……」
「甘党なんだ。さぁ、落ち着いて、ゆっくりお食べ」
食べ物が、温かいのはいつぶりだろうか。
口の中に広がる味に、美味しいとはこう言うものだったなと思い出す。
呑み込み、異の中に入ると、体が暖かくなる。
これで、また数日は命を繋ぐことができるだろう。
一気に口の中に運んで食べ終わると、俺は立ち上がった。
「じゃ。早めにここ出なよ」
「あぁ。もちろんだ」
僕は男達に見つからないといいけどと思いながらその場を去った。
出来るだけ他人とは一緒にいたくない。
ごはんをくれたのだってただの人間の気まぐれで偽善。ありがたく頂戴して立ち去るのが一番である。
本当は納屋で団を取りたかったけれど、家の軒下に移動して、雪をしのげるように廃材で簡易の寝床を作ると、そこでうずくまる。
狩りまでの間、出来るだけ眠ろう。
食べ物を食べられたおかげで、体の中の魔力を巡らせて寒さもかなり和らいだ。
狩りで死なないといいなと思いながら、僕は瞼を閉じた。
◇◇◇
普通の子どもではない。
ガートレードは、地面に描かれた魔術の術式と魔術陣を見つめ息をつく。
その術式はあまりにも美しい。
じっとそれをメモしていきながら、焚火にもえがかれていた魔術陣を見つめる。
「独自に術式を作っているのか……この焚火のところにも魔術の痕跡があると思い調べてみれば……なんだ、あの子どもは」
家の中が、騒がしくなってきたことからガートレードは立ちあがり、火を消すとその場を去る。
近くの森の中に仲間がおり、そこと合流する。
身長の高い白髪の眼帯の男が、ガートレードに声をかけた。
「おお。どこ行ってたんだよ」
「散歩。だが、散歩途中に魔術を使える子どもを見つけた。ドミニク。何か知っているか」
それを聞いたドミニクは、ちらりと周囲を確認してから声を潜めて言った。
「今日捕縛予定魔獣の密猟者達だが……魔獣を捕まえるために子どもを使っているっていう噂がある」
「子どもを?」
「あぁ……」
「何をさせるんだ? 子どもなんて、魔獣を捕まえるためには足手まといになるだろう」
「……餌じゃないかという噂だ」
その言葉に、ドミニクは息を呑む。
確かに魔獣は血の匂いに敏感だ。だが子どもを餌にして、そんなに効率的に魔獣を捕まえられるものだろうか。
「……あの子は大丈夫だろうか」
「わからんが、今は手出しできない。やっと捕縛のチャンスが来たんだ。ここでみすみす下手に動いてチャンスは逃せねぇぞ」
「わかっている」
「とにかく、俺達の仕事は、そんな悪い奴らの捕縛だ。集中しろよ」
「あぁ」
そう言われながらも、あの少年が気になる。
どこで魔術を学んだのか。また誰に教わったのか。
ドミニクと共に、近くに設置されたテントへとはいると、そこには数人の騎士がおり、地図を広げていた。
そして皆がガートレードが入って来た瞬間に姿勢を正し、啓礼の姿勢を取る。
「あぁ。堅苦しくなく。では、今回の動きを確認するぞ」
「「「「ハッ」」」」
優しい面立ちのガートレードだが、仕事の時には顔が一変する。
ドミニクは自分自身の姿勢も一度正すと、話し会いに加わった。
今回は制圧して捕縛する予定なので、出来るだけ死者を出さないようにとの命令だ。
こういう戦いこそ面倒くさいものだ。
「ドミニク。防具の魔術具は配ってあるな」
「あぁ。もちろん」
「魔術の有用性を示すためにも、皆には頑張ってもらわねばならん。いいな」
「「「「ハッ」」」」
気合は十分。
ガートレードは、最終確認を行いながらもあの少年のことが頭から離れなかったのであった。
◇◇◇








