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六話


 空に月と太陽が浮かぶ頃、私は山間から空を見つめ白い息をゆっくと吐き出した。


 鼻から息を吸えば少しツンと痛む。その感覚に私は笑みを浮かべると、大きく背伸びをした。


 久しぶりの採取で体が訛っていないか心配していたけれど、調子はむしろ良く、夜から朝にかけて採取を終えた私の気持ちはすっきりとしていた。


「よっし。採取終了。久しぶりの採取だったけれど、ちゃんと見つけられてよかった」


 すでにポシェットの中には採取した物が入れられており、後はこれをもってローグ王国のアスラン様達の元へと帰るだけである。


 私はゴーグルを思う一度はめると、ブーツの留め金をチェックし、手袋などもほつれや壊れているところがないか確認をして、山の岩肌を飛ぶように下りた。


 登るよりもやはり下りる方が格段に楽しい。


 岩を蹴り飛び上がりながら次の岩へと着地してそれをまた繰り返す。


 私は行きでも利用したポータルのあるギルドを目指して駆け下りた。


 小さな町であっても大抵は魔術具の移動装置であるポータルとそれを運営するギルドは設置してある。


 なので採取者は最寄りの町までの移動は結構たやすく出来るのでありがたい限りだ。


 それになにより、アスラン様から頂いた魔術塔ローグ王国公認の許可証は便利が良かった。


 これを提示すればすぐに対応してもらえて優先してポータルを利用できるのである。


 私はギルドへとたどり着くと受付の女性に声をかけた。


「すみません。あの、ローグ王国の魔術塔へ移動するのでポータルを利用したいのですが」


 そう伝えると、通常ならば許可証の提示を求められ利用可能のはずなのだけれど、受付の女性は眉間にしわを寄せると高圧的な口調で言った。


「魔術塔ですか? それは許可が降りている方しか移動できない場所ですが」


 私は先に許可証を出しておけばよかったと思いポシェットから取り出すとそれを提示した。


「あの、ここに許可証があるので」


「は? 貴方みたいな女の子に出るわけないじゃないですか。偽物ですか?」


 新人マークが胸につけられており、私はまだ慣れていないのだなと思いながら許可証を提示しながら説明をした。


「私は採取者で魔術塔に所属しているのです。ですから」


「魔術塔の所属? っはぁぁぁ。貴方もしかして魔術師アスラン様のファンか何かですか? たまにいるんですよねぇ~。どうにか魔術塔に行ってアスラン様に取り入ろうとする人。本当にそういう人迷惑なんですよ」


「あの、確認してもらったら分かる事なので」


「だーかーら、偽物なんて出来るわけないでしょう!」


 これは押し問答になってしまうと、上司の方を呼んでもらおうかと思った時であった。


「許可証を確認しないのは職務怠慢ではないか」


「え?」


「へ?」


 後ろを振り向くと、そこにはローブを深々とかぶった男性がおり、私はすぐにアスラン様であることに気が付いた。


 どうしてここにいるのだろうかと思い口を開こうとした時、その受付の女性が怒鳴り声をあげた。


「偽物をどうやって確認しろっていうのよ!」


 癇癪を起すように声をあげた女性を見て、私はアイリーンの事を思い出した。


 自分が正しいと思ったことに対して認識を改めることが難しい人はいる。けれど、ギルドでそうされてしまうと自分以外にも迷惑を受ける人が出るかもしれない。


 アスラン様はローブを取ると、私の横に立ち、声をあげた。


「私の名前はローグ王国魔術塔長アスラン。ギルド長をここへ」


「え!?」


 受付の女性は目を丸くして固まり、そして後ろから慌てた様子で一人の女性が走ってくるのが見えた。


「どどどどどどうかされましたか!? 私がギルド長のエマです」


 女性のギルド長とは珍しいなと思っていると、アスラン様は眉間に深くしわを寄せて言った。


「突然申し訳ないが、先ほどから聞いていればどうにも教育をしっかり受けているのか気になるところだ。新人指導はどのように行っているのだ。こんな対応ではローグ王国所属のギルドという名目を剥奪されてしまうぞ。無所属のギルドは運営が難しくなる。それはギルド長殿もわかっているであろう」


 その言葉に、ギルド長は驚いたように目を丸くして受付の女性へと視線を移した。


 新人の彼女は顔を真っ赤にしてうつむいており、それから顔をあげるとギルド長とアスラン様に慌てた口調で言った。


「ああああの、この方が不躾に上から目線で魔術塔への行きたいなんて言うから私怖くなって、それで、でもちゃんと受付をしなくちゃいけないって思って対応していただけなんですぅ」


 瞳一杯に涙をためており、私はその様子を見てどうしようかと思っていると、アスラン様は懐から記録用の魔術具を取り出すと机の上に置き、先ほどの私と受付の女性とのやり取りを流し始めた。


 そんな物いつも持ち歩いているのだろうかと思っていると、アスラン様は静かに言った。


「ギルドにも同じように記録をする魔術具があると思う。それと比較してもらってもかまわん。ギルド長、それで、新人教育はどのように?」


 厳しい瞳と口調のアスラン様に、受付の女性は顔を青ざめさせて涙をぼたぼたとこぼし始めている。


 ギルド長は大きくため息をつくと言った。


「本当に申し訳ありません。どうにも最近苦情が多いと思ってはいたのですが、彼女の言葉を信じ過ぎていたようです。こちらの新人教育がなっておりませんでした。本当に申し訳ございません。今後このようなことがないように指導に当たりますので、どうかお許しください」


 アスラン様はどうするとでも言うように視線を私へと向けた。


 私は静かに答えた。


「頭をあげてください。私は許可証を使って戻れればいいのです」


「……ありがとうございます。本当に申し訳ありませんでした。ほら、貴方も謝って」


 促され、受付の女性も頭を下げた。


「すみませんでした」


 どこかその言い方はふてくされており、私はそんな女性に妹であるアイリーンを重ねて言った。


「大丈夫ですよ。たしかに、アスラン様目当てで移動しようとする人もいるのでしょう。貴方なりの正義感があったことは分かります。ですが、今後はちゃんと話を聞いてもらえるとありがたいです。ほら、そんな顔では可愛らしい顔が台無しですよ」


「へ?」


 怒鳴られるとでも思っていたのか、受付の女性は驚いた表情を浮かべており、私はアイリーンよりも素直な子だなと思いながら笑った。


「次来るときには、お互いに笑顔で話しましょうね」


「は……はい」


 私はどこか不満げなアスラン様の背中を押して、ポータルを利用させてもらうと魔術塔へと帰ったのであった。


「……貴方は優しすぎる」


 魔術塔の入り口前でアスラン様に言われ、私はそうだろうかと考える。


 別段優しいわけではないと自分では思う。理不尽なことであれば怒りも感じるし、いらだつこともある。けれど、自分よりも幼い子を見ると、アイリーンと重ねてしまうのはもう癖みたいなものだ。


「私はお姉さんですから、自分よりも年下には優しくしないと」


「……まるで呪いのようだ」


「え?」


「……君の優しさを利用した、姉という呪いのようだ。私は努力し頑張る者が理不尽な扱いを受けることは好まない……君はもっと堂々と自分の気持ちを言っていいと思う」


 その言葉に、私は胸の中がずぐりと痛みを発するのを感じた。


「だって、私はお姉さんだから」


 ずっと胸の内にある姉という重い心の蓋。それが自分の感情をいつも押さえつける。


「だから我慢しないといけないのか? 先ほどの理不尽は君だってわかったはずだ。なのに君は諭すばかりで怒ることもしない。理不尽なことには、怒ってもいいのに……君は、君はこれまでいつもこんな風に我慢ばかりしてきたのか?」


 アスラン様は私を非難しているのではない。


 私を心配して、私のことを案じているのだという事が、その瞳から伝わって来た。


 この人は、私のことを、純粋に心配しているのだ。


 真剣な瞳からそれが伝わってきて、真正面からぶつかるように向き合ってくれる人とであったのは初めてであった。


読んでくださる皆様に感謝です!ありがとうございます(*'ω'*)

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