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26話 ※ラスト話なので長いです!

「まぁまぁ! 化物まで現れたわ! ふふふ。私を信じないからでは? ほら、私に頭を垂れて祈りを捧げなさい。そうすれば、助かるわよ」


「アイリーン様こそが神! このローグ王国はアイリーン様を神として受け入れれば、幸福な未来が待ち構えているのです! さぁ! 受け入れるのです!」


 ゼクシオはそう言い、瞳を輝かせている。


「化け物はアイリーン様を信じないことで、神が遣わしたのでしょう! さぁ! 信じなさい!」


 アスラン様は私の元へとやってくると魔術具を化け物に向かって投げつける。

だけれど、ぎりぎりとその口は魔術具を口の中で咀嚼し、その口からはよだれがだらだらと垂れ落ちていく。


 これは一体何なのだろうか。


「シェリー! すまないが浄化作用のある特殊魔石と特殊薬草を!」


「はい!」


 私はポシェットからアスラン様が言った種類の特殊魔石と特殊薬草を数種類出すと、相性の良い物を渡していく。


「魔術式を構築していく!」


 アスラン様はそう言って、その場で魔術を構築していくのだけれど、構築した魔術を次々にその化け物が飲み込んでいくのだ。


 恐ろしいと感じた。


 魔物とは違う生き物だ。


「シェリー!」


 私がしり込みしているのが伝わったのだろう。


 アスラン様に声をかけられて、私はハッとして自分自身に気合を入れる。


「先ほど、氷に一度閉じ込めることは出来ました! 物理的な攻撃の方が有利なのかもしれません!」


「了解した! シェリー! 手を! 浄化と強化を特化させた魔術式を展開する!」


「はい!」


 私はアスラン様の声に、ポシェットから浄化と強化に相性の良い特殊魔石と特殊薬草を取り出す。


 それをアスラン様はその場で魔術に混ぜ合わせて構築していく。


 私の両手へとそれが混ざり合い、光を放つ。


 私は拳を開いてから一度にぎり、それから、深呼吸をすると、化け物に向かって攻撃を仕掛けた。


 化け物に向かって、炎と氷との攻撃を交互に打ち付けていく。


 アスラン様によって構築した先ほどの魔術によって、それに浄化と強化が加わり威力は倍増している。


 だけれども、本当に攻撃が効いているのか分からず、私は焦りを覚えた時であった。


 化け物の体を緑の蔓が次々と覆い始め、その動きを封じる。


「バカ弟子が。冷静になれ」


「師匠!?」


 師匠が国王陛下の元を離れて私の横に立つ。


 どうやら、国王陛下の周りは魔術師達が取り囲み安全を確保したようである。


 私はアスラン様と師匠に挟まれ、冷静になるようにと、呼吸を整える。


「堕落した聖女の力か……数百年前に見たのが最後だったかな」


「師匠!? ご存じなのですか!?」


「あぁ。小童。バカ弟子。あれに対して、浄化と強化をしたのはいい手段だ。だがな、あれとは正攻法では戦うべからずだ」


「なるほど……では、あれの根源を叩いた方が早いと?」


 アスラン様の言葉に師匠はにやりと笑みを浮かべる。


「小童。その通りだ。あれは押さえつけても、いずれは全てを焦がし、結局は蘇り暴れまわる。バカ弟子、いいか。お前の妹を叩くぞ」


 じっと視線を向けられ、私は、唇を噛む。


「師匠は……アイリーンがもう……だめだと、そう判断したのですね」


「……堕落した聖女は、聖女には戻れない」


 師匠から習ってきた事実だった。


 だけれど、いざそれが目の前に突き付けられた時、私は呑み込むことが出来なかった。


 さようならと告げても、やはり、アイリーンの全てが嫌いなわけではないから。


 だけれども、今、この争いの根源はアイリーンであり、止めないわけにはいかない。


 幼い頃のアイリーンの姿が脳裏をよぎるけれど、頭を振る。


「はい。師匠。アスラン様、行きましょう」


「あぁ」


 私の背中を、アスラン様がそっと支えてくれる。


 顔を見上げれば、アスラン様は言った。


「無理は……しなくていい」


「……大丈夫です」


 そう答えて、私は背筋を伸ばした。


 次の瞬間、師匠の植物の蔓をむしゃむしゃと食べるように化け物は動き始めた。


 師匠は苦笑を浮かべると言った。


「厄介だな。本当に。バカ弟子。気合を入れろ。こいつは食い止めておいてやる。妹と蹴りを付けてこい」


「はい!」


「シェリー行こう!」


 私とアスラン様は、戦う人の中を掻い潜り、アイリーンの元を目指した。


 現在状況的には混戦しているようではあったものの、聖女教徒達は息絶え絶えな様子である。


 それもそうであろう。


 こちらはローグ王国の中央地。戦っている人数が違う。


 はっきり言ってしまえば、制圧にはさほどの時間はかからないであろう。


 だけれど、その中央でアイリーンは微笑みを浮かべているのだ。


 ゼクシオは焦った様子で言った。


「あ、アイリーン様! 天罰を! 天罰を下してください!」


「そうねぇ、そろそろ、頃合いかしら……」


「え?」


 鳥籠の中の鳥ちゃんが、ぎゃぎゃぎゃぎゃと奇妙な鳴き声を上げる。


 アイリーンが手を掲げた瞬間のことであった。


 地面から、化け物が数体現れ、そして、聖女教徒達を次々に飲み込んでいく。


「ああああああああアイリーン様!? な、何故我が教徒が!?」


「大丈夫。大丈夫。ほーら、見て?」


「え? あ、あれは」


 化け物は聖女教徒達を吐き出すと同時に巨大化する。


 聖女教徒達は、自分たちに何が起こったのか分からない様子であるが、怪我が治っていることに歓声をあげた。


「すごいでしょう? あの子達」


「アイリーン様……あ、あれは、あれは一体何なのですか?」


 ゼクシオが後ろに一歩下がり、アイリーンのことを青ざめた表情で見る。


「え? あれは、天罰、でしょう? 貴方がそう言ったじゃない」


「え?」


 くすくすとアイリーンは楽しそうに笑っている。


 私とアスラン様はそんなアイリーンの前に立つと言った。


「もう、やめなさい」


「投降するならば、未だぞ」


 ゼクシオは私達が来たことで、視線を私達に向けて身構えた。


「邪魔をしないでください!」


 その言葉に、私は言った。


「こんなことをして、何になるんです。ここからは逃げられませんよ」


 その言葉にゼクシオは笑みを浮かべて言った。


「アイリーン様に皆が跪くのだ! 天罰を、天罰を受けたくないだろう!」


 アスラン様は、冷静に言葉を返した。


「よく見てみろ」


「は? 何を」


「奇跡というものは、何の代償もなく、生まれるものではない。本来は聖女も魔術も、特殊魔石や特殊薬草を使って、奇跡に近いことを起こしているだけだ」


 アスラン様は化け物を指さした。


「あれは、恐らく、怪我や病を吸い取っている。つまり、先ほど起こした奇跡というものは、あそこに今、蓄積されているということ」


「ななな何を言っているんだ! あれは天罰だぁぁ!」


 その言葉にアスラン様は首を横に振る。


「天罰ではない。怪我や病を蓄積し、それを他人に移しているだけだ。仮に天罰というならば、ここにいる者皆を斑点病にすればよかったのだ」


「それはっ! あ、アイリーン様! どうか奇跡をお見せください! 天罰をここにいる皆に!」


 すがるように、ゼクシオはそう声を上げた。


 それに対して、アイリーンは小さくあくびをすると答えた。


「なーんだ。種ばれちゃったの? 残念~」


「え?」


 驚いた表情のまま、ゼクシオは固まり、そんなゼクシオを見てアイリーンはけらけらと笑い声をあげた。


「あははは! 面白い顔~。面白そうだったから付き合ってあげただけなのに」


「え? え? あ、アイリーン様?」


「勝手に担ぎ上げて。勝手に神様だって言って。勝手に期待して。私のことを利用して教徒を集めて。ふふふふふ。バカにしてるんじゃないわよ」


 冷ややかな声でアイリーンはそう言う。


「私のことなんて……誰も見てやしない。聖女だから、力があるから、だからだからだから。私なんて、みーんなどうでもいいのよ。本当は」


 黒く染まった瞳で、アイリーンはけらけらと笑う。


「ただ、地下から外に出してくれたことと、鳥が手をてにいれてくれたから、お礼代わりに付き合ってあげただけ~。名演技だったでしょう?」


 ゼクシオは愕然とし、それから顔を真っ赤に染め上げると声を荒げた。


「アイリーン様! 貴方様は聖女教の神なのです! まだ自覚がないのはこれから身に付けて行けばいいだけのこと!」


「うん。うん。私も最初はそれもいいかって思ったけどね。無理なのよ。やっぱり、嫌なものは嫌だし、それにそもそも無理なのよ」


 アイリーンは呟くようにそう言うと、ケラケラ股笑い声をあげる。そして、その周りに、黒い化け物がまた、現れた。


「だって、止まんないんだもん。この子達、どんどんどんどんどんどんどんどん……増えていくの。最初は消したいって思ってたけど、無理」


「な、なんで、だってアイリーン様は、聖女で、この化け物は?」


「私の中の堕落した聖女の力が、やっと小さくなったはずだったのに、どんどん……また、溢れていて……ははは」


 乾いた笑い声が響く。


 化け物たちはうごめき、そして大きく口を開けて、近くにいる人を襲い始めた。


 アイリーンはそれを見ながら言った。


「止まらなくなっちゃった。やっぱりだめかぁ。でもね、私は死なないよ。だって、この鳥がいるもん」


「ピヨピヨ~」


 恍惚とした表情でアイリーンは鳥を見つめる。


「この鳥といると、体の中で枯渇していく聖女の力が、また湧き上がってくるの。面白いなぁ。だから、それで私は死なない。これで一安心」


 にっこりとアイリーンは笑う。


 私は、アイリーンに向かって口を開こうとして、一度閉じる。


「アイリーン様! だ、だめです! 聖女教徒の者も襲っています! 止めてください!」


「だからぁ、もう止まんないのよ。でも、私のせいじゃない。だって、貴方がやれって言ったんでしょう? 天罰を下せって。バッカみたい」


「っく……クソが。お前は聖女じゃない! 神じゃない! 偽物め! 死を持って償え!」


 ゼクシオは、アイリーンの一言に見切りをつけたのか持っていたナイフをアイリーンに向かって投げた。


「アイリーン!」


 私は叫び、アイリーンが危ないと前に出たけれど、次の瞬間、目を見張る。


「っ……ば、化け物が……」


 ナイフを化け物がはじき返し、ゼクシオの肩に突き刺さる。


 アイリーンは楽しそうにくるくるとその場で回りそして言った。


「ふふふ。もう知らなーい。さて、私は役目も果たしたし、鳥も手に入れたし、そろそろお暇しようかしら。ふふふ。このゼクシオからもらったネックレスのおかげで、自由自在に私は逃げられるの。えへへ」


 最初からアイリーンは逃げるつもりだったのだろう。


 私はアイリーンに向かって言った。


「……逃げてはだめだよ」


「は?」


 私の言葉に、アイリーンが笑顔を消した。


 知らない顔だった。


 アイリーンの姿で、アイリーンのように話をして、アイリーンのように振舞っているけれど、私には分かる。


 この子は、もう、アイリーンじゃない。


 とうの昔に、堕落した聖女の力に飲み込まれてしまったのかもしれない。


 私は、涙が、溢れてきて、何度も何度も涙をぬぐった。


「アイリーン」


「なぁに?」


「違うわ。貴方はもう、アイリーンじゃないんでしょう?」


 目を見開き、そして、口が弧を描く。


「あはははは! 私はアイリーンよ! アイリーン! 可愛いアイリーン! 美しいアイリーン! 聖女教の神アイリーン! 可哀そうな、アイリーン」


 髪の毛の色が、どんどんと黒く染まっていく。


 全てが黒く、染まりあがる。


「堕落した聖女、アイリーン」


 私の知っているアイリーンではもうない。


「さて、じゃあ、皆様さようなら。そろそろ私は、自由を求めて旅立ちますわ。また、どこかでお会いしましょうね」


 そう言って、アイリーンがうやうやしくお辞儀をした。


 私と、アスラン様は身構える。


「逃がさないわ」


「あぁ」


 私はアイリーンに向かって直接的に攻撃を仕掛けるために動き、アスラン様が、アイリーンの移動を妨げるように魔術式を展開させて、首にかけていたネックレスを弾き飛ばした。


 アイリーンは、それに目を丸くして、はじき飛ばされたネックレスへと手を伸ばした。


「なんてことを!」


 私はそのネックレスを空中でキャッチすると、ポケットに入れる。


「さぁ、これで逃げられないわ」


 そう言うと、アイリーンは声を荒げた。


「邪魔しないで! 本当に邪魔ね! 生まれてからずっと私の為だけに生きて来たくせに! 金魚のフンみたいにずっとついてきて、それで今更一人で幸せになります? はは! あんたなんか、金魚のフンなんだからどこへ行ったって幸せになんてなれないわ! 素直に私の所に帰ってきていたらまだ良かったのにね! ご愁傷様!」


 アイリーンの顔で、アイリーンのような雰囲気で話をするけれど、私の中のアイリーンとは違う。


 不思議なものだと私は思う。


 私はもう一度涙をぬぐった。


「ふふふ! 早くそれを返しなさい! 言うことを聞かないなら、この子達に食べられればいい!」


 黒い化け物たちがうようよとこちらへと集まってくる。それは集まり混ざり合い、大きな黒い化け物へと姿を変えていく。


 たくさんの、怪我や病を吸い上げたのだろう。


 うねうねと動きながらその体がぐらぐらとしていた。


「シェリー! 小童! それはもう弾けるぞ!」


 その言葉に、私とアスラン様はうなずき合う。


「このままあれを広げるわけにはいかない! 一時結界を張る!」


 特殊魔石と特殊薬草ありったけを私は次々にアスラン様に渡し、それをアスラン様は魔術式に組み込んでいく。


 アイリーンは笑い声をあげた。


「あははは!」


 アスラン様はアイリーンとその黒い化け物を取り囲むように魔術式を作り、そして結界のようなものを張り上げていく。


 それに、アイリーンが首を傾げた。


「は? 何? ここに閉じ込めようっていうの? ばかねぇ。そんなの、意味ないわ!」


 結界が出来上がる寸前、私は、駆けだした。


「シェリー!」


 アスラン様の声が聞こえたけれど、私はアイリーンに向かって一直線に走り、そして、黒い化け物の攻撃をよけながら、アイリーンの元へと駆けよる。


 アイリーンは私が眼前に来たことで、驚いたのだろう。


 目をつむり、衝撃に備える。


 私は、そんなアイリーンのおでこを、こつりと指で叩き、言った。


「助けられなくて……ごめん」


「何よ……」


「ねぇ、一緒に行こう?」


 まだ助けられるのではないか。


 そんな淡い期待が過るけれど、アイリーンが私に隠し持っていたナイフで襲い掛かってきて、私はそれをよけた。


 そして、私は、ぐっと唇を噛み、アイリーンの手に持たれていた鳥ちゃんを助け出すと、勢い良くジャンプした。


「あ、わ、私の鳥が!」


 距離を取り、私は駆けだそうとした時、近くにいたゼクシオが私の腕を掴み、そして、私からネックレスを奪い取った。


「これが……あれば、やり直せる!」


 ゼクシオは私を突き飛ばしてアイリーンの元へと駆けた。


 肩から大量の血が流れており、ナイフは刺さったままである。


 私は体勢を立て直すと振り返らず、アスラン様の元へと走った。その時、魔術式は完成し、結界が出来上がる。


 師匠の操る植物によって、結界内は人は残っていない。


 師匠はゼクシオとアイリーンの元にも植物を向けたようだが、二人はそれを拒否した。


「偽聖女! だが今は力を貸せ! 移動をするぞ!」


「嫌よ! 誰があなたなんかと。もう、貴方にはしっかりと礼は返したわ! 私はこの子達を使って逃げるから……え? なんで、こっちにくるの?」


 黒い化け物たちが、アイリーンの元へとグラグラと揺れながら戻っていく。


 そして、アイリーンの体の中へと戻ろうと、ぐにゃぐにゃとうごめき始めたのだ。


「こ、こないで! こないでよ!」


「に、逃げるぞ! ほら! これで!」


 次の瞬間、結界内が黒い何かで埋め尽くされ、そして悲鳴が聞こえた。


 結界内が黒い何かで埋め尽くされており、私は胸が締め付けられる。


 アイリーンを助けたい。けれど、どうやって。


「……シェリー。必要な素材を採取してきてほしい。早急に中の者達を助けるぞ」


「アスラン様」


 私はうなずくと、師匠がため息をついた。


「仕方ない。協力してやる」


 今回、集められた採取者達全員に声がかけられ、私達は総力をかけて特殊魔石と特殊薬草の採取へと、向かうことになったのであった。


 それぞれに集める特殊魔石と特殊薬草とが割り振られていき、私が取りに走るのは、蛋白石特殊魔石となった。


 奇しくも今回の採取物となった。


 国民への中継については、魔物が出たため、一時中継をストップしたことが伝えられていた。


 そして再開するにあたり、採取者の仕事について理解を深めてほしいと言う趣旨を伝え、様々な採取の様子について放送されることになったのだ。


 採取者達は、それぞれが準備をし直し、万全の状態でポータルに立つ。


 そこには、先ほどの男性達もいた。


「さっきは、助かった。ありがとう」


 そうした声もかけられ、私は深呼吸をすると、気合を入れなおす。


 今、自分にやるべきことをやらなければならない。


 それぞれが採取場所へとポータルを通して移動していく。


 私は深呼吸を何度も繰り返し、そして、ポータルを移動した瞬間、駆けだした。


 人がいないので自分のペースでいくことが出来る。


 さぁ、私のやるべきことをやろう。


 足場に注意しながら、斜面を走り抜ける。


 先程は通らなかったけれど、地下三日なるであろう道を、途中ゴーグルを付け直し、ロープを肩にかけ、岩場の危ない個所はロープをうまく使いながら進んでいく。


 最短距離はどこか、視界で捕らえながら進み、洞窟に入った後は、荷物を下ろし、一度状況の確認をしてから、進んでいく。


 暗い中、私は視界を凝らし、灯は最小限に。


 物音ひとつ、空気の流れ一つに留意しながら、洞窟を抜け、開けた先に泉が見える。


 その泉は明るく輝いており、私はゴーグルを水中用へと変え、防水機能付きの洋服のチャックを首元まであげ、それから、息を思い切り吸い込んで水中へと飛び込んだ。


 泉の中は、発行する水中後家のおかげでかなり明るい。


 その分巨大な魚や生き物が明確に見える。


 私はそれらにをよけながら、泉の中を進み、そして細穴を抜けて、泉を出た。


 そこからまた岩山を登っていく。


 途中、巨大な魔物がいたのでそうしたものを掻い潜りながら、私は目的の蛋白石特殊魔石を洞窟の最深部で見つけ、採取を完了する。


「これより帰ります」


 その連絡をし、私は、急ぎ、来た道を戻り始めたのであった。


◇◇◇

 シェリーの、恐ろしい程早い採取の光景は、他の採取者や国民に衝撃を与えた。


 そんな場所普通ならば通れないであろうという所を、シェリーは意図も容易く通っていくのだ。


 しかも、動きに無駄がなく、装備品の変えも異様に早い。


 的確にその場その場を判断しながら進み、その身体能力もさることながら、恐ろしいまでの洞察力と行動に、皆が息を呑む。


 採取者。


 その仕事はまだまだ知られていないことが多い。


 だからこそ、この日、シェリーは皆に衝撃を与えた。


「おいおいおい。こんなの流していいのかよ」


「これが採取者の普通だと思われたら……大変だぞ」


「楽そうに見える……やめてくれよ。あの山、標高何メートルあると思っているんだよ!」


 行一つ乱れないシェリー。


 その様子が放送されたことは伝説となり、天才採取者シェリーの名前が轟くことになるなど、採取に夢中なシェリーは知る余地もないのであった。


◇◇◇


 堕落した聖女の力を浄化するために、集められた様々な特殊魔石と特殊薬草。


 師匠の協力もあったからこそ、それら全てが異常な速さで集められた。


 アスラン様は、それらを魔術師総力をかけて調合し、術式を仕上げた。


 文献にて最終確認をし、私が採取してきた蛋白石特殊魔石を調合していく。


「さて、最後に必要になるのが、聖力だ」


 アスラン様はそう言うと、私の肩にちょこんと止まっている鳥ちゃんに向かって言った。


「強力な聖力を持つ、聖なる鳥よ、どうかその力を貸してほしい」


 そう伝えると、鳥ちゃんは私の肩の上で毛づくろいをした後、ちらりと私のことを見た。


 鳥ちゃんは男の子の姿になると首を傾げて言った。


「しぇりーも、そうしてほしいの?」


 私はうなずく。


「鳥ちゃん、お願いできる?」


 私の言葉に鳥ちゃんは笑顔でうなずく。


「しぇりーのお願いならきいてあげる。今の聖力をすべて使えば、大きい姿にも慣れると思う」


「ありがとう」


「いいよ! ぼく、しぇりーのこと大好きだから」


 そして、首輪を私が外したその瞬間、鳥ちゃんの姿が巨大になり、私のことをひょいと背中に乗せた。


「と、鳥ちゃん!?」


『しぇりーもいっしょにとぼう』


「え?」


 不思議と、脳内に言葉が響いて聞こえてきた。


 私はアスラン様から魔術式を組み込んで作られた、虹色の玉を受け取った。


 この球一つ作るのに、大量の特殊魔石と特殊薬草が使用されている。


 手のひら言乗せたそれはとても重たく感じた。


「シェリー頼む」


「はい。アスラン様」


 私は鳥ちゃんと共に空へと飛びあがり、そして、結界に包まれた上を飛ぶ。


 上から見ても中は真っ黒で、何も見えない。


『さぁ、しぇりー。いくよ』


 鳥ちゃんの体が温かな聖力で包まれる。それと同時に、私の手のひらにあった虹色の玉が淡く光一、美しい虹が生まれる。


「綺麗」


 虹は広がり、その場を美しく照らす。


「わぁぁ! すごく綺麗」


「なんて温かな光かしら」


 そんな声が街から聞こえ、温かな光が黒く染まった結界へと降り注いでいく。


 まるで霧雨のようにそれは降り注ぎ、黒く染まっていた結界内を少しずつ少しずつ晴らし、そして黒いものが全て消え去っていく。


 私はそれを空から見つめ、そして、安全だと判断され結界が解かれる。


 黒かった時には見えなかったけれど、その中央に横たわる人影があった。


「アイリーン……ゼクシオ」


 二人は横たわっているが、瞼は閉じたままだ。


 呼吸はあるとのことで、二人の身柄はその後、王国にゆだねられることになった。


 どうなるかは、今後裁判にかけられるらしいが、実刑は間逃れないだろうと私も覚悟はしている。


 鳥ちゃんは小さい姿に戻ると、私の肩に乗る。


 運ばれていく二人を私は見つめていると、アスラン様が私の手を握った。


「大丈夫か?」


「……はい」


 アスラン様がいてくれて良かった。そう思っていると、横から師匠が言った。


「おい。少し慣れ慣れし過ぎないか」


 恋人なんだから、これくらいは普通だ。私はそう思い言おうとすると、アスラン様が私の手を引き、私のことを抱きしめた。


「あ、アスラン様?」


「お疲れ様。いつもありがとう」


「い、いえ」


 師匠は私達の姿に眉間にしわを寄せたのちに呟いた。


「……小童。結婚はまだ認めていないからな」


「ははっ。では認めてもらえるように頑張るとしよう」


 私は、師匠の言葉にむずがゆくなるしアスラン様の言葉にドキドキしてしまう。


 すると、ぼふんっと、鳥ちゃんが男の子の姿になると、私の足に抱き着いた。


「しぇりー! ぼくも、ぼくもすぐ大きくなるよ! ぼく、番探しているんだ! しぇりーなら素敵なぼくの番になると思うんだけれど?」


 その言葉に、師匠が言った。


「お前はだめだ。鳥頭。すぐに騙されたことも忘れるお前にはシェリーはやれん」


「えー! ひどい! っていうか、ロジェルダだ!」


「今更か! お前、本当に記憶力が悪いな!」


 私とアスラン様はそのやり取りに笑い声をあげた。



 ローグ王国では、採取者の仕事内容を放送してから貴族を含め皆の印象が好転した。


 私は街を歩けば皆にすごかったと声をかけてもらえるようになった。


 また国王陛下からはその実力が認められ、アスラン様の専属採取者としての地位を確立させてもらい、またお褒めの言葉と褒章をいただくことになった。


 アスラン様は私以上に喜んでくれて、師匠からも褒めてもらえた。


 今回の事件によりローグ王国では聖女教について規制がかけられた。そして、今回の件によって聖女教の教徒は殆どが牢屋へと入れられている。


 主犯であるゼクシオとアイリーンも牢に入れられているが、未だ目覚めることはない。


「シェリー大丈夫かい?」


 アスラン様の言葉に、私はうなずく。


 私も前を見て未来へと歩んで行かなければならない。


「大丈夫です」


 傍にいてくれる人たちがいるから大丈夫。



 私達は魔術塔へと帰ろうと、足を向けた時、爆発音が聞こえた。


 見上げると、魔術塔の一角が吹き飛んでいる。


「……あいつら……」


 アスラン様が顔をひきつらせ、師匠が笑い声をあげた。


 鳥ちゃんはピヨピヨと楽しそうで、壊れた魔術塔から三人が顔を覗かせて慌てた様子で声を上げている。


 そんな日常が、私はとてつもなく幸福で幸せなことだなぁと感じたのであった。

 


 最後まで読んでくださった読者様に感謝です(´∀`*)ウフフ

2巻も好評発売中です!コミカライズも始まりますので、また呼んでいただけると嬉しいです。

ありがとうございました。


かのん

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