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24話

 会場の中心にアイリーンが立ち、そして、その周囲には聖女教の信者達が輪になるように並んでいる。


 アイリーンの横にはゼクシオがおり恍惚とした表情で、アイリーンのことを見つめている。


 そしてゼクシオの手には鳥籠があった。


 一体何がどうなっているのだろうかと周囲を見回すと、師匠が国王陛下のことを守るようにして立ち、ベスさん、ミゲルさん、フェンさんが他の貴族を守るように魔術具を発動させていた。


 地面が焼け焦げている痕があり、怪我をしている者もいるようだ。


 中には地面に倒れている者もおり、状況が良くないことは確かであった。


「師匠!」


 私が叫ぶと、師匠は私の方をちらりと見てから言った。


「突然その聖女教の男が現れ、こちらに攻撃を仕掛けてきた。鳥を奪われ膠着状態の所にお前の妹が現れたぞ」


 簡潔に状況を説明され、私達はうなずき身構える。


「アイリーン様! アイリーン様こそが真の聖女! 我らが神! 崇めよ!」


 その言葉にアイリーンは微笑みを浮かべていると、倒れていた一人の騎士が声を上げた。


「何が神だ! その女は、悪魔だ!」


 次の瞬間、その男性の足元に黒い小さな竜が絡みつき、体が錆びていくかのように黒々と染まっていく。


 それを見て人々は悲鳴を上げた。


「きゃー!」


「あれは、あれは何!?」


「あれは、のののの呪いか!?」


 それらの声に動揺して人々は逃げ惑いそうになるけれど、そこで声が響き渡る。


「沈まれ。逃げる必要はない」


 叫んだわけではない。


 国王は立ちあがると、静かに皆に言った。


「我が王国ローグ王国は、魔術の王国。しかし、信仰を持たぬわけではない。ローグ王国にも神殿はあり、聖女を敬う気持ちはある。だが、聖女は神ではない」


 はっきりと告げられた言葉に、ゼクシオとアイリーンの表情が歪む。


「皆、落ち着け。恐ろしいのは恐怖心に呑まれてしまうこと」


 国王の言葉に、皆の心が落ち着くのが分かる。私はその空気が変わったその瞬間を感じた。


 アスラン様は微笑みを浮かべると一歩前へと出る。


「我がローグ王国は国王陛下と共に。我らが魔術はローグ王国と共に!」


 倒れていた騎士は立ちあがり、魔術師達も騎士達と共に前へと立つ。


 その瞳は前を見据え、そして騎士達の最前列へと、王太子であるジャン様が立った。


「シェリー行くぞ」


「はい!」


 私達もその列へと加わり最前列へと出る。


 先ほどまで聖女教の雰囲気にのまれそうになっていた会場は、今ではそんな雰囲気は一切ない。


 ゼクシオは舌打ちをすると言った。


「アイリーン様の力を見ただろう。アイリーン様に逆らえば神の怒りを買うぞ! 聖女でありながら、天罰を下す力をアイリーン様は持っているんだ!」


 なるほどと私は思った。


 恐らくアイリーンは、堕落した聖女の力を使い、それをまるで天罰か何かかのように使い、聖女教の者達を黙らせてきたのだろう。


 だけれど、そこで一つの矛盾を私は感じた。


 最初、アイリーンは確かに自分の中にあるその堕落した聖女の力を、消そうとしているかのようだった。


 だけれどその力を利用しているのに、その力を失うのか。


 いや、堕落した聖女の力は命と精神を蝕むもの。そんな力はないほうがいいけれど……。


 私はハッと、鳥ちゃんを見る。


 鳥籠に入っている鳥ちゃんは、助けを求めるようにピヨピヨと鳴いている。


 そんな鳥ちゃんを、鳥かごから出すと、アイリーンはその体を優しく撫でた。


「ねぇ、聖なる鳥様。私は聖女アイリーン。貴女と同じ、聖なる力の使い手」


「ピヨ?」


 鳥ちゃんが首を傾げると、その頭を優しく撫でて、アイリーンが鳥にキスを送る。


 すると、聖なる鳥の羽が輝き、聖力が上がっているのが見て取れた。


 鳥ちゃんは喜び、アイリーンにすりより、子どもの姿へと変わった。


「わぁぁ! とっても気持ちがいい。君の傍にいるとすごく心地がいいよ」


「そうでしょう? だって、私とあなたは運命の相手だもの」


「え? 運命の、相手……番ってこと!?」


 鳥ちゃんはそう言うと瞳をキラキラとさせており、師匠が叫んだ。


「バカ鳥が! お前はそうやって毎回毎回女に騙されているのだぞ! いい加減に分かれ!」


「バカじゃないよ! ぼくの運命の相手を探しているんだもん!」


 アイリーンは師匠を睨みつけると、猫なで声で、鳥ちゃんにすり寄った。


「だから、私の傍にずーといて? そしたら、私、ずーっと元気でいられるから」


 その言葉で私は理解した。


 聖なる鳥と聖女とは一緒にいることで力を相互作用的に能力を向上することが出来る。アイリーンは一緒にいることで、自分の聖力をあげ、堕落した聖女の力を抑えつけ上手く使おうとしているのだろう。


 本当に上手くいくのだろうか。


「君がぼくの運命の番なら、ぼく、ずっといっしょ……あれ……」


 そこで、鳥ちゃんが動きを止めて眉間にぐっとしわを寄せて、鼻をつまんだ。


「臭い」


「え?」


「おええぇぇ。臭い! 何この聖力の臭い!? 腐ってんの!?」


 吐くような仕草を鳥ちゃんは繰り返すと、鼻をつまみ、アイリーンと距離を取ろうと下がった。


 アイリーンはその様子に、鳥ちゃんの腕を掴んだ。


「ねぇ、どこにいくの? 私があなたの運命の番よ?」


「えぇぇ。えっと、その、えっと……うん。気持ちはうれしいよ。ぼく……でも、でもさ。ぼく……そんな聖力が臭い人間初めて会って、あ、ご、ごめんね! しぇりー! しぇりー! たすけてー!」


 臭いのか。


 皆がその言葉を聞いて、身動きを止めている。


 師匠はその言葉に、吹き出すのをぐっと堪えているのだろう。肩がプルプルと震えている。


 アスラン様も同じようにプルプルと震えているから、多分だけれど、アスラン様と師匠は笑いのツボが似ているのだろうなとこっそりと思う。


「しぇりー! たすけて! この人臭い!」


 私がいることに鳥ちゃんは気づいたようで、鳥の姿にボフンと変わると、私の方へと飛んで来ようとする。


 だけれど、その体をアイリーンに手で鷲掴みにされて止められた。


「どこへ行くの? ふふふふ。貴方はここにいる運命なのよ」


「ぴ……びびびびびっび」


 顔を青ざめさせて首をブンブンと横に振る鳥ちゃん。


 私は相当臭いのだろうかとその青ざめた様子を見ながら思ったのであった。 


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