23話
白いスカートをふんわりと揺らし、愛らしい微笑みを携えたアイリーン。
くすくすと笑いながら、優しい指使いで、魔物の体を撫でると、その体が光に揺れ、黒い瘴気が消えていく。
「可哀そうにねぇ。瘴気まみれだわ」
「アイリーン」
採取者の男性達は声を上げた。
「聖女様だ! わぁぁ! なんてお美しいんだ!」
「この魔物を聖なる力で祓いにきてくれたんだ!」
勝手な妄想を広げる者達。私は、その言葉に、聖女にそんな力があれば、世界に魔物がこんなにもいるわけがないのだ。
聖女は直接祓うことなど出来ない。
私はそれを十分に理解しており、それはアイリーンもだ。
黒い瘴気が消えて見えるのは、ただ、アイリーンの聖力に触れて一瞬それが薄れているだけのこと。
そして私は、そこで見た。
アイリーンの指から黒い竜のような筋が、魔物に触れた。その瞬間、魔物が苦しみもがくように瘴気を更に強めた。
「アイリーン……まさか」
そう呟くと、アイリーンは人差し指で私に内緒とでも言うような仕草をする。
一体何が起こっているのだろうか。そう、私は思い、アイリーンの名前をもう一度予防とした。
「ねぇ、お姉様。最後にもう一回チャンスをあげる。私の採取者に戻る気は?」
何度も答えてきた。
だけれど、アイリーンには伝わっていないのだろう。
私は首を横に振る。
「戻らないわ。私は、もうアイリーンとは一緒にいられない」
はっきりと、アイリーンに決別する言葉を伝える。
すると、アイリーンは冷ややかな瞳で私を見た後に、その周りいいる人達へと視線を向ける。
「ねぇ、本当に良いの? ふふふ。可哀そうにねぇ。私すっごくイライラしちゃった」
「……アイリーン?」
一体何を言い出すのだろうかと思っていると、アイリーンは魔物の体を撫でた。
「ほら、遊んでおいで。楽しんでね」
魔物の体をぽんぽんと叩いた次の瞬間、魔物を拘束していた魔術具が突然弾けるようにして消えた。
いや、錆びたように見えた。
あれも、堕落した聖女の力なのだろうか。
私は堕落した聖女の力は、アイリーンの命を蝕んでいるのではないだろうかと怖くなり、声を上げた。
「アイリーン! その力は使ってはいけないわ! ねぇ!」
「……大丈夫よ。聖なる鳥さえ手に入れば、ふふふ。聖なる鳥は聖女に力を譲ってくれるのですって。私が見つけた唯一の道よ。それにあの鳥ってバカで、ずっと運命の番を探しているのですって。私がその番になってあげるの。一緒にいれば相互的に聖力も強くなるらしいし、一石二鳥よねぇ」
その言葉に、背筋がぞわりとした。
笑みは恐ろしく、アイリーンは言った。
「お姉様は気づいたのね。さすが、私のお姉様。ふふふ。鳥、今頃ゼクシオが頑張っている頃かしらねぇ~」
「え?」
「シェリー伏せろ!」
私はアスラン様の言葉に反射帝に伏せたとき、アイリーンの体の周りを魔術陣が包み込む。
青白く魔術陣が音を立てながら取り囲むが、アイリーンの手が触れた瞬間に、錆びが広がるようにして魔術陣が砕け散っていく。
その力に、アスラン様が声を上げた。
「採取者は撤退! 全力で逃げよ! 緊急避難用の魔術具の使用を許可する!」
「だめよ。そんなの。ほーら頑張ってね。皆で仲良く、死なないように。私は聖なる鳥のところに行かなきゃいけないから、じゃあねぇ~」
ひらひらと手を振ったアイリーンは、最後にぞっとするほどの笑みをこちらに向けて一瞥をして消えた。
砕ける破裂音が響き、一体にがと思うと、採取者達の持っていた緊急用の魔術具がことごとく砕けて地面に落ちる音だった。
「そんな……嘘だろ」
魔物が体を震わせながら起き上がる。
そしてその体から、立ち上る瘴気は、まるで蛇のように体を伸ばした。
「厄介だな……これをこのまま放置するのもまずいが、国王陛下が危ない。シェリー! 急いで対処するぞ」
「はい!」
とにかく目の前の魔物をどうにかして、急ぎ戻らなければならない。
私とアスラン様は、位置魔物を挟むようにして立ち、交互に攻撃を仕掛けていく。
先ほどのアスラン様の魔術具は不意打ちだからこそ効果を発揮した。次に投げつけてもすでに魔物も対応し、すぐによけられてしまう。
しかも先ほどよりも断然に動きが早くなっている。
とにかく足を止めなければならないそう思っていると、他の採取者達が魔物に向かって足を止めるために縄を投げつけ始める。
そして、次の瞬間強烈な異臭がいたかと思うと、壁伝いに上に登った採取者の男性が魔物にしびれ粉を振りかけた。
「はっ! 囮になってくれたおかげで、大成功だぞ!」
次の瞬間、足元に縄をかけ、男達が魔物を引き倒す。
私は浄化作用のある特殊薬草を取り出すと、それをアスラン様に手渡し、アスラン様はそれを空中で魔術を展開させて魔物の体を包み込む。
次の瞬間、魔物の体から瘴気は消え、魔物ピクリとも動かなくなった。
私達はほっと胸をなでおろし、急ぎ立ちあがる。
「急いでいかなければ!」
「はい!」
他の採取者達には、安全に下山するように伝える。
現在アスランさあの持っている、緊急用の移動ポータルは、移動人数の制限があり、その上、かなり希少なものであった。
それを他の採取者達は分かっているからこそうなずき、私とアスラン様は、急ぎ王城へと戻ったのであった。
そして、そこで見た光景に息を呑むことになったのであった。