22話
洞窟の中はかなり広いものの、途中まではほとんど一本道である。
だからこそ、ほとんど皆が一緒に進んでいくような形になる。
ただ、この先の奥に入って行けばいくほどに道は分かれていくので、この集団での移動もあと少しだろう。
そう思っていた時のことであった。
天井から、ポタリ。
何か液体が落ちてくる音が聞こえ、私は足を止めた。
「何? ……」
耳を澄ませ、それから私は天井を見上げた。
ただの雫ということもあるけれど、私は音のした方へと足を向け、それから地面を見つめていく。
天井、地面、落ちてきた水滴。
他にも音がしないか確かめていた時、何かがすれるような音が聞こえる。
足を止め、私はその違和感に声を上げた。
「何か、います」
野生の動物が迷い込むこともあるだろうけれど、魔物がいると言う可能性もある。
私の声に他の採取者達も身構え、辺りを見回していく。
肌がピリピリとする。
私は、通信の魔法具を起動させるとアスラン様へと連絡を取る。
「アスラン様、何か異変があるように思います」
採取とは無理をするものではない。自分の体が第一。だからこそ無茶はしない。
他の採取者達もそれぞれの、管理者の元へと連絡を取り、その異変について話しをしていく。
引くか、それとも進むか。
その時であった。
大きく洞窟内が揺れ、私達は身を強張らせながら地面に伏せる。そして、最も嫌な予感が的中することになったのであった。
「がるぅぅぅぅぅぅ」
よだれが、べちゃり、べちゃりと地面のお上へと落ちていく音がする。
黒い体から瘴気が立ち上る、狼によく似た魔物が、こちらをドロリと歪んだ瞳で睨みつけてくる。
瘴気に反応して、洞窟内にある魔石がキーンと音を立てて耳鳴りがする。
「……アスラン様。黒い瘴気を纏った、全長四メートルほどの魔物が現れました」
小声で報告しつつ、私は魔術塔の皆が作ってくれた手袋を装着する。
現在他の採取者達は、魔物を刺激しないように距離を少しずつ取りながら、状況を見守っている。
こういう時、最も大事なことは焦らないことだ。
撤退か続行か、アスラン様の指示を私はこの状況を打破する糸口を見つけようとしながら考えたのであった。
◇◇◇
シェリーからの通信を受けたアスランはそれをすぐに国王へと報告をする。
現在映像が乱れてはいるものの、魔物が出現した映像は街の人々も目撃をしており、盛り上がっている人と、悲鳴を上げている人とに分かれている。
下手をしたら魔物に採取者が襲われている映像が流れるかもしれない。
それを思ってだろう。国王からの視線を受けてアスランはすぐにベス達三人に視線を向けた。
三人は急ぎ映像停止をし、アスランの元へと駆けてきた。
国王がこの後どうするか、考えていた時、横でロジェルダが呟く。
「あれは普通の魔物ではないな。普通に死ぬぞ」
ロジェルダの言葉に国王は額に手を当てるとため息をついてから言った。
「撤退を命じよ。今回は中止だ」
アスランの手元にある魔術具だけ、現在シェリー達がどのようになっているのかの映像が映っており、それを見て、アスランは言った。
「救助に向かいます」
国王はうなずき、アスランは一足先にと兵を飛び越えると、ポータルの位置まで急ぎ走る。
それをロジェルダは眺めながら、声を上げた。
「小童! あれは普通の魔物ではない! シェリーにも伝えろ!」
「了解した」
ポータルへと立つと、アスランはポータルに刻んである魔術に上書きするようにペンを走らせる。
座標は、シェリーの元。
シェリーの正確な位置は彼女の持っている魔術具によって把握してある。
それを使ってシェリーの元へと移動をするのだ。
アスランはマントを開くと、そこから大量の魔術具を取り出し、そしてポータルを起動した。
◇◇◇
黒い魔物は、べちゃり、べちゃりという足音を立てながら、ゆっくりと鼻を鳴らしながら動く。
それを見つめながら、私は出来るだけ音を立てないようにするが、魔物が顔をあげると次の瞬間、一番近くにいた採取者のことを視界に捕らえると、声を上げた。
「ぐわぁぁぁぁっ」
雄たけびのようなその声に、居場所を悟られたと採取者が動いた瞬間、魔物はその音で正確な位置を把握したのだろう。
一気に駆け出した。
「伏せて! モード! 炎!」
私は魔物に向かって炎を放つ。
炎の壁によって、採取者の男性は悲鳴を上げながらどうにか距離を取ることに成功をする。
私は声を上げた。
「私に注目が集まっています! 皆さん一時退却を!」
その言葉に他の採取者達は反応をし何人かが迅速に非難をしていく。
だけれど、私に宣戦布告をしてきた男性達は足を止めると声を上げた。
「シェリー殿! 言っておくが、俺達は娘っ子一人を残して逃げねぇぞ!」
「男のメンツだってあるんだ!」
「音を出し合って、けん制し合うぞ!」
私はその姿に、苦笑を浮かべたけれど、現実は甘くはない。
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
魔物が声を上げ、私に向かって走ってくるのが見えた。
同避けていくことが最適か、そう考えた時であった。
「遅くなった! シェリー!」
私の目の前に、アスラン様が姿を現し、空中に魔術具が舞う。
まるでスローモーションのように魔術具が舞ったかと思った次の瞬間、それは網のように広がり、アスラン様が魔術陣を空中へと展開させた。
魔術具が魔物を包み込むように広がり、魔物の悲鳴と共にそれは魔物に絡みつく。
「ぴぎゃあぁあぁぁぁぁ」
魔物は網に捕らわれ、地面にドスンと転がる。
その場にいた採取者達は最初何が起こったのか分からない様子だったのだけれど、次の瞬間、歓声を上
げた。
「うおおおおお!」
「す、すっげぇぇっ!」
「なんだ今の!?」
そんな歓声が聞こえたのだけれど、アスラン様が一喝した。
「油断するな! 何か来るぞ!」
背中が泡立つような何かがくる。
「……あら。可哀そうに」
「え?」
その場にはに使わない雰囲気の声が聞こえ、そして私は黒い魔物の上へとまるで天使のように降り立つその姿に、息を呑んだ。
本日、私の小説のコミカライズが発売となっております(●´ω`●)
「悪役令嬢はもう全部が嫌になったので、記憶喪失のふりをすることにした」
もしよろしければ読んでいただけたら嬉しいです! 漫画家様はゆずまんじゅう先生です!








