19話
数日後、王城主催による採取者の力試しの場が設けられるということが発表され、ローグ王国内はお祭りのようなにぎやかさになった。
今回は国民にも採取者の仕事について理解を深めてもらいたいと言う趣旨もあるようで、どのように採取をするのか、どうしたところに行ってどのようなものを採取するのかなども魔術具を通して見れるようにするとのことであった。
その為、連日魔術塔では、その為の準備も進められることになり、ベスさん達は悲鳴を上げている。
「私達にだって段取りっていうものがあるのに!」
「本当だよな! 魔術具が勝手に産まれるとでも思っているのかよ」
「意味わからないよねぇ。作りたい物たくさんあるのにさぁ~」
自分達のやりたいことが出来ないと、ぶつぶつと文句を言いながらも、王国側からの依頼である魔術具を淡々と作り上げていく三人。
私は鳥ちゃんを肩に乗せながらその様子を見つめていた。
「すごいですねぇ。皆さん」
そう伝えると、ベスさんが唇を尖らせた。
「別にこれは難しくないけど、作りたくないからやりたくないのよ。はぁ。鳥ちゃんは私に懐かないし、シェリーちゃんが羨ましい」
「でも不思議だよなぁ。俺達には全く懐かない」
「刷り込みとかあるのかな? でも、色々文献漁ったけど、そんなのなかったよねぇ」
三人は手は動かしながらも鳥ちゃんと私を見つめ、首を傾げる。
「ただ単に、その鳥ちゃんの好みがシェリーちゃんってことない?」
「ありえるよなぁ」
「あはは。アスラン様ピンチだねぇ」
奥の机に腰掛けて仕事をしていたアスラン様はその言葉にこちらに視線を向けると言った。
「手を動かせよ。はぁぁ。今回この時期に入れられて、結構仕事がいっぱいだな。シェリーすまないが、いくつか採取物が足りないものがあるのだ。頼んでもいいか?」
「はい! もちろんです。リストをいただけますか?」
「あぁ。今用意している。鳥はどうする?」
「リスト次第ではお留守番しててもらいますね」
そう言うと、鳥ちゃんがボフンと子どもの姿になると、私にぐりぐりと抱き着いてくる。
「いやだぁ。ぼく、しぇりーといっしょ」
基本的には鳥の姿だけれど、自分の気持ちを伝えたい時などは人の姿になってうるうるとした瞳で私に気持ちを伝えてくれる。
可愛いのだけれど、仕事の時には仕方ない。
「ごめんね。すぐに帰ってくるから」
「ううぅ。でもでも、ぼく、さみちい」
ほっぺたをふくらませて少し怒ったようにそう言う姿が、可愛すぎるけれど、採取の時には仕方ない。
「おりこうさんにしていたら、お菓子買ってきてあげるね」
そう伝えると、ぴょんぴょんと鳥ちゃんは跳ねながら喜んだ。
「やった! やった! おかち! おかち!」
「その代わりおりこうさんでね?」
「はーい!」
鳥ちゃんは鳥の姿に戻ると、ピヨピヨと鳴きながら魔術塔の空中を楽しそうに飛んでいる。
それを皆眺めながら小さく息をついた。
「可愛いのになぁ」
「あれが、魔術塔の植物を枯らした時の恐ろしさったらなかったよなぁ」
「研究植物全部だめになっちゃったもんねぇ」
遠い目をしながら呟く三人に、アスラン様も同意するようにうなずく。
「私が三年かけて育てていた研究植物も、一夜にして枯れた」
皆がため息をつく中、鳥ちゃんだけは上機嫌で飛び続けている。
私は苦笑を浮かべ、鳥ちゃんを鳥籠へと戻すと、声をかけてからアスラン様にリストをもらい採取へと向かったのであった。
今回の採取物はそこまで難しい者ではないので、夕方までには帰れるだろう。
そう思いながら、移動の為のポータルへと向かった時のことであった。
このポータルは現在魔術塔が専用として使用しているもので、私が使用する時間帯は基本的にアスラン様が他の使用を禁止するので他の採取者と重なることはなかった。
もちろん魔術塔とは他の採取者も契約しているので、その方々が使っているのは知っていたのだけれど、今日はポータルの前に数名の男性の採取者が陣取っており、私が近寄るとこちらを睨みつけてきたのである。
一体なんだろうかと思いながらポータルの位置まで行くと、通せんぼをするように目の前に立ちふさがる。
「おい。お前、名前は?」
「ここは魔術塔のポータルだぞ」
突然偉そうな態度でそう言われ、私は初めて出会う他の採取者に内心驚きながらも挨拶をする。
「こんにちは。私はアスラン様専属の採取者のシェリーです。今からポータルを使う予定なのですが。どうかしましたか?」
すると男達の顔色が変わり、私のことを先ほどよりも厳しい表情で睨みつけてくる。
「お前が? 噂に名高い天才採取者のシェリー? ははは。こんな小娘が?」
「天足採取者って、おいおい。やっぱり過大評価だろう」
基本的に魔術塔と契約をしている採取者は貴族に雇用されている。その為、アスラン様からは関わらないほうがいいと言われていた。
魔術塔と直接契約している採取者に関しても、行動の時間が基本的に違う為挨拶を交わしたことがなかった。
だからこそ、ローグ王国に来て初めての他の採取者との交流となったのだけれど、あまり良い雰囲気ではない。
こちらをじろじろと見てくるその不躾な視線に、私はどうした者かと思いながら時計を確認する。
「すみませんが、採取に行かなければならないのでそこを通してください」
そう告げると、男達は不遜な態度で言った。
「ははは。お前、本当にアスラン様の採取者としてやっていけているのか? はぁ。俺達の実力を知らないからアスラン様はお前を選んだんだろうなぁ」
「違いない。こんな小娘よりも俺達の方が優秀だろうに」
「そだよなぁ! おいお前。調子に乗るなよ。今度の公の場で、アスラン様の採取者の座は降りてもらうからな!」
これを言うだけの為にここで待っていたのだろうか。
「……では公の場で、アスラン様の採取者に相応しいと皆様に認めてもらいますね」
私が笑顔でそう言うと、男達は顔を歪めた。
「っは。威勢がいいのは今の内だけだ」
「今日は挨拶に来てやったんだ。ありがたく思え」
「吠えずらを書くのを楽しみにしているからな」
男達はそう言うと、一人の男が一歩前に出る。
「俺達だって、採取者としてローグ王国で頑張って来たんだ。それなのに、突然お前が現れた。採取者としてアスラン様専属だってことで顔を見れもしない、会えもしない。だが、今回国王陛下からの命で、やっとお前と俺達どちらが優秀か、はっきりさせられる」
そこで一度言葉を切ると、私のことを見下ろしながら男は言った。
「宣戦布告の為に、ここで待っていた。当日、逃げるんじゃねーぞ」
その言葉になるほどなともいながら、私はうなずく。
「もちろんです。逃げも隠れもせず、正々堂々とお互いの力を出し切りましょう」
私の言葉に男はにやりと笑う。
最初は嫌な人かもと思ったけれど、この男の人達からしてみれば、隣国から突然やって来た私に納得がいかないのも当たり前だなと思った。
男達はその後立ち去り、私はそれを見送りながら気合を入れる。
アスラン様の採取者としてぜったに認められたい。
私は自分の両頬を気合を入れるために叩くと、ポータルを起動させる。
そのためにはまず、ちゃんと目の前の仕事を終わらせなければならない。
「私はアスラン様の採取者として、最善を尽くさなくちゃ」
採取者として認められたい。
そんな風に思うのは初めてのこと。私は自分の中でも色々と欲が出て来たなと苦笑を浮かべる。
アイリーンの元ではこんなことを思ってもみなかった。
ふと、私はアイリーンのことに思いを馳せる。
「大丈夫かしら……」
今何をしているのだろう。
何を思って、行動しているのだろう。
頭を振って、私は頭を切り変える。
「集中!」
私は必要な採取に集中し、アイリーンのことを頭の隅に追いやったのであった。
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