17話
ロジェルダにそこに座っているようにと鳥は言われ、うるうるとした瞳になりながらもじっと座っている。
「ぼくもしぇりーといっしょが……よかった」
「首輪をつけるのが先だ」
「むぅぅぅ。はぁ、しょーがないなぁ」
ロジェルダはカバンの中からキラキラと光る組紐を鳥の首へと着けた。
鳥はそれに小首を傾げながら指で触り、ロジェルダに向かって言った。
「これ、しなきゃだめなの?」
「……あぁ。お前の力を封じるものだ」
「あ、おおきくなれない」
「不便かもしれないが、シェリーの傍にいたいならばつけておけ。シェリーと私だけそれは取れるようにしてある」
鳥は肩をすくめるとうなずいて、興味をなくしたかのように、椅子の上でゴロゴロとし始める。
それを見てロジェルダは視線を今度はアスランへと向ける。
「早速本題に入るが、お前にシェリーを守れるか? 言っておくが私の一番弟子だ。前は妹の傍にいたいと言ったから諦めたが、一時の恋心によってこの王国に縛り付けさせはしないぞ」
アスランは視線を返し、真っすぐに答える。
「私は彼女をローグ王国に縛り付けるために恋人になったわけではない」
「っは。口では何とでも言える。人間など信用のない生き物だ」
睨みつけるようにロジェルダはアスランのことを見つめる。
「あいつをどうするつもりだ」
その視線を受けて、アスランは姿勢をしっかりただしそれから口を開いた。
「彼女とは、一生を共にしたいと考えている」
「は?」
恐らく、ロジェルダの求めていた言葉ではなかったのだろう。アスランもそれが分かっているのか、こほんと息をついてから話始める。
「シェリーから、ロジェルダ殿のことはよく聞いている。彼女が採取者として力をつけ、そしてアイリーンの元でも生き残れたのは、師匠であるロジェルダ殿のおかげだと思っている。貴方がいなければ……シェリーはきっと今よりも、孤独だったと思う」
「なんだ。こちらに尻尾を振り、ご機嫌とりか?」
訝し気に見つめてくるロジェルダに、アスランは首を横に振る。
「シェリーにとってロジェルダ殿は家族だ。彼女の家族ならば私も大切にしたい。なので、どうかその敵意を終ってほしい」
「……家族? 私が?」
「あぁ。シェリーにとっては貴方は家族だ」
口元をロジェルダは覆うと、うつむき、少しばかり考え込むように動きを止める。
隠しているつもりだろうがアスランにはその口元が緩んでいるように見えた。
「ふう。まぁ分かった。とにかく、本当に小童。お前はローグ王国の差し金というわけではないのだな?」
「もちろん。言っておくが、私も、もしローグ王国が不当にシェリーを縛り付けようとすれば……魔術師長の恐ろしさを知らしめるつもりだ」
ロジェルダはその言葉を聞き、ふむとうなずく。
「ならば、まぁ……いい。バカ弟子が顔につられて騙されているのではないかと思ったが杞憂だったようだな」
そう告げられ、アスランは苦笑を浮かべる。
「まぁ、確かにシェリーは私の顔は好きなようだが」
「小童。あまり調子にはのるなよ。言っておくが、まだ認めていないからな」
そう言われ、アスランは笑みを浮かべうなずく。
ロジェルダは立ちあがると、そんなアスランの肩をぽんっと叩くと言った。
「あと、一つ忠告しておくが、バカ鳥には気を付けろよ」
その言葉に、アスランが眉間にしわを寄せると、にっとロジェルダが笑う。
「ああいう種族は、番を見つけるまでずっと求めているんだ」
「は? 子どもが?」
「あぁ。目覚める度に番を求め、探し、運命の番と思って利用される……というパターンが多いな。あいつら恋に恋しているんだよ。子どもだが、聖なる力さえ取り込めば、一気に成長するぞ。まぁ、取り込めばで、取り込まなければ、可愛い子どもでいてくれるだろうがな」
その言葉に、アスランは視線を鳥へと向ける。
すると可愛らしくへにゃりと笑って首を傾げている。
そんな姿を見たアスランはこれからどうするべきかと、悩ましく思い、ため息をついたのであった。
◇◇◇
扉が開き、師匠が顔を覗かせる。
「話し終わったぞ」
私は一体何を喋ったのだろうかと思い尋ねた。
「師匠! 何を話したんですか?」
「はぁ」
勢いよく訪ね過ぎたのか、師匠におでこを指で叩かれ、私はおでこを撫でながら師匠に文句を言った。
「あの、それ痛いんですよ? 分かってます?」
「バカ弟子が」
「師匠?」
「……幸せになってほしいのだ。分かれ」
ぼそっとそう、言われ、私はおでこを自分で撫でながらふふふっと笑みがこぼれる。
「師匠。ありがとうございます」
そんな私のことを見て、師匠は私の頭をぽんぽんと撫でる。
「いつでも帰ってきていいのだ。いいな」
「大丈夫ですよ! 私、今とても幸せなんです」
その言葉にロジェルダは微笑む。
優しいその微笑みは、師匠が私のことを大切に思ってくれていると言葉にしなくても伝わってくる。
久しぶりに会えたことで、私は胸の中が暖かくなる。
私にとって師匠は家族のようなものだ。
師匠だけれど、兄であり父であり、そしてたまに面倒くさいおじいちゃん。
腰が痛いと言っては面倒なことは押し付けてくるけれど、私の為にたくさんのことを教えてくれる人。
「師匠、いつもありがとうございます。ローグ王国とてもいい国なので、私! 案内します!」
「……この国に50年ほど前にしばらく滞在していたから、お前より私の方が詳しいぞ」
「え!? で、でも、それってかなり昔でしょう?」
「私を年寄り扱いしようとしているのか?」
「え? 事実ですよね?」
「おい……」
私は笑って流しながら部屋へと入ると、鳥ちゃんを膝の上に乗せて、悩ましそうに考え込むアスラン様と視線があった。
「あれ? アスラン様?」
どうしたのだろうかと思っていると、私の横に立つ師匠が呟く。
「まぁ、お前がこの国にいると決めたならば、ある程度国王とも良好な関係を築いておくか」
「え?」
「適当に私は国王と話をつけててやるから、お前も頑張れよ。では、また来る」
そう言うとひらひらと手を振りながら師匠は窓から外へと出て行ってしまった。
アスラン様はそれを視線で追う。
「え? 待ってっくれ。窓から出て行ったのか?」
「すみません」
私は師匠の背中を窓から探すけれど、もうすでに影も形も見えないのであった。
すみません! 遅くなりましたー!








