15話
師匠は一体何に不満なのであろうか。
しかもアスラン様に向かって小童というなんてと思い、口を開こうとしたのだけれど、さりげなく隣に座っていたアスラン様に手を握られて制される。
アスラン様の方へと視線を向けると、アスラン様は師匠の方をじっと見つめながら言った。
「私の名前はアスラン。この王国にて、魔術師をしております。色目……ふっ。色目とは難しい」
ちらりと私のことを艶っぽい瞳でアスラン様は見つめると、にっと笑う。
「師匠殿にご挨拶が遅れたのは申し訳ない。ただ私達は交際しており恋人としての時を今育んでいるところです」
恋人。
その言葉に私の顔はカッと熱くなる。
そんな私を見て師匠は眉間に深くしわを寄せると言った。
「……まだまだひよっこだというのに……恋愛に現を抜かすとは。何故妹の元を立ったならば私の元へと来なかったのだ」
私はその言葉に、少し驚いて答えた。
「え? ……師匠の元へ行っても良かったのですか? だって師匠いつも言ってたじゃないですか。独り立ちしたら師匠を頼るなって」
「う……いや、それは」
「師匠さっきから何を怒っているんです? アスラン様にも失礼ですよ。あ、もしかして腰が痛いんですか? マッサージしましょうか?」
その言葉に師匠とアスラン様が口を開いた。
「違う! 後でな!」
「ま、マッサージならば専門の者を呼ぶ!」
二人の声の勢いに驚き固まると、師匠もアスラン様も大きくため息をついた。
師匠はアスラン様を睨みつける。
「言っておくが、マッサージは弟子の仕事だ」
「ははは。それはあまりに劣悪な職場環境ですね」
二人のバチバチとした雰囲気に、私はさっき師匠から攻撃を受けてピヨピヨと鳴く鳥ちゃんを膝の上でよしよしと撫でる。
ふわふわしていて可愛いなと思いつつ、私は師匠の機嫌の悪さは一体なんだろうかと首を傾げた。
基本性格の良い人ではないけれど、こんなにも不機嫌を露にして喋る姿を始めて見る。
そして何故かアスラン様もそれに触発されたかのごとく笑顔のまま師匠と対等に渡り合っているのだ。
はっきり言って師匠相手に正攻法から勝負を挑みに行っても、こちらが嫌な気持ちになって終わるだけなので得策ではないと思い、私は話しを変えることにした。
「そう言えば師匠。先日の手紙に書いてあった魔障についてなんですが」
「ちょっと待ってろ。男同士の話し中だ。どうせ、その魔障の原因については検討がついている。お前がそいつを連れてくると分かっていたならば詳細を書いてやったんだがな」
ちらりと鳥ちゃんを見た師匠であるが、鳥ちゃん的には睨まれたと思ったのであろう。
怯えるようにガタガタと震えると、私の胸元に体を埋める。
「ふふふ。鳥ちゃん大丈夫だよ。師匠顔は怖いかもしれないけれど、弱い者いじめをするような人ではないからね~」
「……お前は私のことをなんだと思っているのだ。ちなみにその鳥頭は忘れているようだが、数百年前に私はそいつと会っている」
師匠は顔をひきつらせながらそう言い、私は笑顔で答えた。
「え? 師匠は私の最強の師匠ですね! ふふ。なんだかんだ言って、良い性格ではありませんが優しいのは知っています。鳥ちゃんとも、数百年前に……まぁ、そんなに昔なら忘れちゃいますよねぇ」
その言葉に師匠は大きくため息をついた後、鳥ちゃんを私の手からひょいとつまみ上げるとしげしげと眺める。
「ピヨピヨピヨ!」
鳴き声をあげて私に助けを求めてくる鳥ちゃんはバタバタともがいており、慌てて私は師匠から鳥ちゃんを救出する。
「そんな乱暴に捕まえないでくださいよ! 可愛そうです!」
私の胸に縋りつきながら鳴き声を上げる鳥ちゃん。
それを何故か師匠もアスラン様も微妙な顔で見つめており、私が小首を傾げた時のことであった。
胸元に縋りついて鳴いていた鳥ちゃんがボフンという音と共に煙に包まれたかと思うと、膝の上に先ほどよりも重みを感じ、驚いた。
一体何が起きているのだろうかと思って膝の上を見ると、そこにはとても可愛らしい、小さな男の子がちょこんと座って私を見上げていた。
「え?」
「しぇりー。ぼく、とわい」
とわい?
黄金色のふわふわとした髪に、黒曜石のような黒い瞳。
あまりにも可愛らしく、そのほっぺたはもちもちとして見えて、私に誘惑をかけてくる。
「か……可愛い」
「しぇりー? ぎゅう」
「へ? え?」
「ぎゅーうー」
私に両手を伸ばしてくるその子は、瞳を潤ませてこちらを見上げてくる。
その仕草があまりにも可愛らしくて、胸がきゅんと高鳴る。
「もしかしてだっこ? えー。可愛い。うんうん。だっこしようね?」
「たっとー!」
舌足らずな雰囲気に、私は胸を射抜かれながらぎゅっと抱っこをしたのだけれど、アスラン様と師匠が身構えて声を上げた。
「バカ弟子が。そいつを下ろせ」
「シェリー……得体のしれないものを抱き上げてはいけない!」
その声に、確かにこの子は一体どこから現れたのだろうかと思っていると、うるうるとした瞳で私にしがみつくその子は言った。
「とわい。とわい。しぇりー。ぼく、とわいよ」
小さなお手てがもみじのようで、そんなお手てで私にぎゅうとしがみ付いてくるものだから、愛おしさがどこからか込み上げてくる。
これば母性というものだろうか。
「かわいい! 二人とも、落ち着いてください。可愛い子ですよ!」
私はそう言うけれど、師匠もアスラン様もこちらを睨みつけたまま構えを解かない。
そんな緊迫した中だというのに、男の子は私のことを見ると、こてんと頭を私の肩にもたげて呟く。
「ぼく、しぇりーすきぃ」
「もう! 可愛いなぁ」
その私の様子にメロメロになってしまったのだけれど、その後、師匠とアスラン様にまずは状況の把握が先だろうと、懇々と話をされた。
発売日です(/ω\)
どうぞ皆様よろしくお願いいたします!
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