11話
「ふふふ。鳥ちゃん。可愛いねぇ」
ピヨピヨと鳥ちゃんは元気よく鳴いている。
水浴びが出来るようにと、たらいの中に水を張り、水をちょろちょろと出しておくと小さな打たせ湯のように鳥ちゃんは水を浴びに行き、羽を広げてプルプルと水をはじいている。
途中水に浸かったりする姿もあり、水浴びが嫌な子ではないんだなぁと思いながら私はお風呂に張ったお湯の中へと体を沈めた。
「ふはぁ。生き返る~」
お風呂に入ると、汚れも全部溶けていくような気持ちになるから不思議だ。
「気持ちい~」
手足を伸ばして入れるお風呂というのは本当に贅沢だなと思っていると、鳥ちゃんが私の頭の上へとちょこんと乗った。
「わぁぁ。なんだろう。すごく嬉しい」
鳥ちゃんは私の頭の上と、水浴びを行ったり来たりしながら楽しんでいる様子であった。
私はお風呂で汚れを落とし終わると外へと出て着替えを済ませ、それから魔術塔へと向かう準備をしていく。
鳥ちゃんは着替えを済ませた私の肩にとまっており、水浴びで疲れたのかうっつらうっつらとしておりそれもまた可愛い。
準備を済ませて部屋の外へと出ると、広間の方でアスラン様がレイブンさんと一緒に話をしていた。
どうやらこの数日で着ていた手紙などの件について話しをしているようだ。
私に気がつくとアスラン様とレイブンさんは私に笑みを向けてくれる。
「もう少しゆっくりしていいのだぞ?」
「シェリーお嬢様、おかえりなさいませ。先ほどはお出迎え出来ず申し訳ありません。少し席を外しておりました」
その言葉に、私はうなずくと答えた。
「大丈夫です。レイブンさん。いつもお忙しところ気を使っていただきありがとうございます」
私とレイブン様は笑みを交し合い、それからレイブンさんは私達にバスケットを手渡した。
「お二人のことですから、すぐに魔術塔へと行かれるのだろうなと思い、軽食を用意しておきました。後ほどお食べ下さい」
「わぁぁ! ありがとうございます。実はお腹すいていたんです」
「助かる。ありがとうレイブン」
「喜んでもらえて幸いです。いってらっしゃいませ」
私とアスラン様はレイブンさんに手を振って分かれると、魔術塔へと向かう。
鳥ちゃんは私の肩でピヨピヨと楽しそうに鳴いており、アスラン様は眉間にしわを寄せた。
「なんだか、羽がつややかになったような気がするな」
「あ、さっき一緒にお風呂に入ったんです!」
「は? ……風呂に?」
「あ、ちゃんと鳥ちゃんはお水ですよ? お湯で駆けたり石鹸で洗ったりはしていません。生き物は繊細だと思いますので!」
アスラン様は一瞬何かを言おうとしてからやめると、小さく息をつき、ちらりと鳥ちゃんへと視線を向ける。
「……そうか。では、行こうか」
「はいっ!」
アスラン様と一緒に私は魔術塔へと向かう。
アスラン様がバスケットを持ってくれているけれど、お腹がすいているので早く食べたいなぁなんてことを思ってしまう。
魔術塔を見上げ、ここも家のように感じている自分がいるなぁと思った時であった。
―――――ドカァァァアン!
爆発音と共に、魔術塔の高層階の位置が粉砕されて穴が開いた。
その穴の中からひょっこりと三人の頭が見え、こちらに気付くと大きく手が振られる。
「アスラン様―! シェリーちゃーん!」
「げ! 帰って来たぞ! 急いで修復しないと!」
「大変だよぉ! ほら、急げ急げぇ!」
私は手を小さく振り返すと、アスラン様の方へと視線を向ける。
アスラン様は微笑んでいた。ただ、怒っているのはよく伝わって来た。
「……あ、アスラン様?」
「シェリー。さぁ、急いで登ろうか。どうやらお灸をすえなければならないらしい」
「あ……はい」
私は怒っているアスラン様の後ろを追うように、魔術塔の中に入ったのであった。
それから、魔術塔の部屋に入ると、風通しの良い穴が開いており、そこを必死に修復している三人の姿があった。
魔術塔の高層階だからだろう。風がびゅんびゅんと吹き込んでおり、煙たい匂いと強風によって書類が空中を舞っていた。
惨劇であった。
私達に未だ背を向けて、必死に直そうとしている三人。
アスラン様は笑顔のまま、ミゲルさんとフェンさんの頭をわしづかみ、それにベスさんがひえぇ~と悲鳴を上げている。
私はそんな様子に、もう我慢が出来ずに笑い声をあげた。
「ふ……ふふふふふ! あ、穴が開いています! 風が気持ちよくって……ふふっ。あははっ。こんなことあります!? ふふふふ。おかしぃ~」
私の笑い声に、アスラン様は毒気を抜かれたのか大きくゆっくりとため息をつくと、二人から手を離して頭を押さえると言った。
「早く修復をするように。とにかく穴をふさがなければ片付けも出来ないぞ」
「「「はいっ!」」」
三人は慌てた様子で壁を修復をし始め、私は笑いをどうにか治めると、一緒に片づけの手伝いをし始めた。
アスラン様もため息をつきながら、一緒に片づけをしてくれる。
素敵な職場で働けて良かったなぁと私は思いながらも、先ほどの穴を思い出して、またくすくすと笑ったのであった。
穴の修復は結構早い段階で終わり魔術はすごいなぁと思った。ただ、どちらかと言えば中の資料などの片づけが大変であった。
ごちゃごちゃになってしまったが故に、何の資料なのか判断するのにも時間がかかり、終わるころには皆へとへとであった。
「お茶にしましょう……私入れますね」
私が立ちあがろうとすると、ベスさんがふらふらと立ち上がり、私を制して言った。
「大丈夫~。私が用意するわ」
私はベスさんに感謝しながら、レイブンさんが用意してくれたバスケットを開き、机の上へとお皿を出して並べていく。
おいしそうなサンドイッチや果物なども入っていた。
レイブンさんは魔術塔の三人も食べることも想定して用意してくれていたようで、かなりの量が入っている。
「おいしそうだぁ。今度レイブンさんにお礼しないとなー」
ミゲルさんの言葉に、フェンさんも大きくうなずいた。
「そうだねぇ。レイブンさんにお礼……何か作ろうか」
「いいわね! それ!」
三人が盛り上がりそうになったところで、アスラン様が一喝した。
「レイブンは誰の執事だと思っている」
その言葉に三人は、盛り上がっていた様子をおさめた。
アスラン様の執事であるので、ある程度の魔術具も熟知しているであろう。
私は本当に仲がいいなぁと思っていると、鳥ちゃんが私の肩からむくりと起き上がり、机の上に置いていたりんごをつつき始めた。
「わぁ! それ……生きてたのかよ」
「うごかないから、シェリーちゃん人形肩に乗せる趣味できたのかと思った」
「わ、私も」
三人はかなり驚いているようで、鳥ちゃんのことをまじまじと見つめた後、ハッとしたかのようにミゲルさんが棚から本を取り出して、それをすごい勢いで開いていく。
「こいつ! これ、これだ! アスラン様! この鳥、聖なる鳥じゃないですか!? ほら、子の羽の色と大きさと瞳の色! これ聖なる鳥の幼体ですよ!」
何も言わずにすぐにそこに行きつくミゲルさまに驚くと、アスラン様はうなずいた。
「あぁ。聖なる鳥のようなのだ。これからうちで預かることになった。それでこの鳥についてこれからしばらく調べるぞ」
そう告げると、三人は一気に瞳を輝かせ始めた。
「わーい! 私! 私が一番に調べる!」
ベスさんが手をあげると、ミゲルさんが唇を尖らせた。
「俺が、先に聖なる鳥って気づいたのにかよー」
「私だってすぐに気づいたわ! だってミゲルまだ仕事終わっていないでしょう!? 私今手があいているもの!」
フェンさんは肩をすくめ二人の様子を見守っている。
アスラン様はちいさくうなずくと言った。
「では最初に聖なる鳥の調査はベスから頼む。二人も手が空いたら調査に協力してくれ」
「「はーい」」
「やったー! すごく嬉しい!」
ベスさんはその場でぴょんぴょんと飛び上がり、それから私の隣に座ると、鳥ちゃんのことをまじまじと見つめ、指を伸ばした。
「よろしくね~。前足でちょんってしてくれないかなぁ~」
次の瞬間、ベスさんの手を鳥ちゃんは勢いよく鋭いくちばしで噛んだ。
「いったぁぁぁぁぁぁい!」
ベスさんは悲鳴を上げ、鳥ちゃんは怒った様子で体の毛を膨らませて、くちばしをパチパチと鳴らす。
「と、鳥ちゃん?」
私は大丈夫だろうかと声をかけると、鳥ちゃんは私の胸元の中へと体をすりこませて、そこでベスさんを警戒した瞳で睨みつけている。
可愛い。
指を噛まれたベスさんも、その可愛さに、うっと胸をときめかせていた。
そのうち、鳥ちゃんの名前、募集しようかなって思いつつ、もうずっと鳥ちゃんなのかなって……。
最近、私にはネーミングセンスがないということを自覚し始めております(/ω\)
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