8話
「私とゼクシオはそれぞれ神から授かったアイテムがあるもの」
神から授かったアイテム?
一体何なのだろうかと思っていると、ゼクシオが誇らしげな声で言った。
「某達、聖女教の使徒が生み出した、聖力を込め続けたアイテムです。これを身に着けておけばどのような瘴気も問題はありません」
「そうよ。それに、少し制限はあるけれど、私のネックレスの方はね、瞬間移動だって出来るんだから!」
「アイリーン様! それは内密にと!」
「いいじゃない。私のだけ特別製なのよ! ゼクシオ。私が良いって言っているんだからいいのよ!」
「は、はい……それは、そうでございますが……」
「これよ。見て」
アイリーンはネックレスを私の方へと見せる。
銀色のそのネックレスは美しく輝いており、それをうっとりとした瞳で見つめながらアイリーンは言った。
「これのおかげで、ここまでも一瞬だったわ。楽よねぇ。ふふふ。こういうものがあれば、お姉様なーんて不必要になっちゃうけれどね!」
どのような仕組みの物なのかは分からないけれど、たしかにアイリーンは突然現れた。
そして魔障に対しても害がない様子である。
一体どんな仕組みがあるのだろうかと思いながらも、今はアイリーンとゼクシオをとらえることが優先である。
「さーて、おしゃべりもしたし……邪魔するなら、お姉様、容赦しないわ」
「某も、容赦はしません」
身構える二人に対して、私とアスラン様はじっと様子を伺う。
魔障はかなり濃ゆくなってきており、ところどころで、火花が散ったり、氷が発生したりと魔石同士のぶつかりによって起こる現象が起きていた。
このままではこの場が魔障で包まれるのも時間の問題だろう。
私達は身構えると、アイリーンの祈りに呼応するように光が現れ、洞窟内にある魔石がそれに反応し、弓矢のようになってこちらへと向かって飛んでくる。
それをアスラン様は魔術によって防ぐと、ゼクシオが呪文を唱えながらこちらに向かって拳を振り上げてくる。
私は、その拳を受け止めると、その腕を掴み、勢いよく投げ飛ばした。
その辺にいる男性にだって負けない自信がある。
アイリーンとゼクシオは顔を歪め、私達は二人と対峙する。
私もアスラン様もここを引くことはない。
「なんで……なんで邪魔するのよ! 私は、私はもうあんな場所には戻りたくないの! その為にはその鳥が必要なのよ!」
叫ぶようなその言葉に、ゼクシオが少し慌てたように言った。
「アイリーン様。アイリーン様はその存在自体が尊いお方。たしかに聖なる鳥様がいれば
さらに使徒は増えるでしょうが、いないからと言って貴方の価値が下がるものではありません」
するとアイリーンは唇を噛み、それから苛立たしそうにこぶしを握る。
それは、アイリーンが何かを隠している時にする癖だった。
私はそれを見て、ゼクシオにすら隠している何かがあり、それを解消するためにアイリーンは鳥を手に入れようとしているのだろうということに気付いた。
一体何のために必要なのか。
だけれどおそらくそれは、ゼクシオが思っている以上にアイリーンにとっては重要であり必要なことのはずだ。
「何を隠しているの?」
私がそう尋ねると、アイリーンは私を睨みつけた。
「隠してなんていないわ!」
「鳥に何の力があるというの?」
尋ね方を変えると、アイリーンはちらりとゼクシオの方へと視線を向ける。
「ただ……聖女教というならば、聖なる鳥という象徴があった方がいいと思っただけよ。その方がきっと、私の使徒達も喜ぶでしょう?」
「アイリーン様! 私達のことをそのように考え思ってくれていたのですね」
「えぇ。私も、貴方達の聖女として頑張りたいから」
「アイリーン様」
とんだ茶番劇である。
アイリーンは確実にゼクシオに言えない何かを隠している。その為に必要な鳥を手に入れたいのだ。
先ほどからなんどもアイリーンの癖がでており、それを見ているとこの子は小さい頃から嘘をつくのがへたくそだなと思った。
昔が懐かしいけれど、もう、昔には戻れないのである。
そう思い、気合を入れなおした時、突然、ぐらりと地面が揺れた。
「え?」
私は視線を感じて振り返ると、水晶の中で瞼を閉じていたはずの鳥の目が明いていた。