5話
「……綺麗……綺麗な鳥」
「これは……」
アスラン様が魔術具を使い鍾乳洞内を明るく照らすと、周りの様子も鮮明になった。
壁には灰簾石特殊魔石の粉末が大量についており、光が当たるとキラキラと反射して輝いて見えた。
私とアスラン様はその様子を見回しながら、ゆっくりと中央にある水晶へと歩み寄っていった。
水晶の中の鳥はまるで生きているかのように、美しかった。
「こんな鳥初めて見ました」
人ほどの大きさのその鳥は、翼を広げればさらに大きいだろう。
「私も、初めて見るな……これは一体……」
私とアスラン様が一体この鳥はなんなのだろうかと思っていた時のことであった。
先ほどと同じ風圧のような衝撃が、突然起こり、しかも先ほどよりも強く感じられる。
「これはっ!」
「この、この鳥か!?」
鳥の入っている水晶からの、その衝撃はまるで波紋を広げていくかのように起こっていることが分かった。
私とアスラン様は身をかがめその衝撃に耐えていると、灰簾石特殊魔石の粉末が空中に舞い上がり、他の魔法石と反応を起こし、空気中でパチパチと光を発し始める。
そして一部では、相性の悪い魔石とぶつかり合い、小さな爆発が起こっている。
「これは、なんと厄介な」
アスラン様の言葉に、私も同意するようにうなずいたと同時に衝撃は収まる。
「これが……定期的に起こっており、更に頻度が増していったならば……魔障がもっと発生していくでしょうね」
「そうなれば、町の方にも影響がでるかもしれないな」
「はい」
この鳥は一体何なのだろうかと、水晶に触れようとすると、不意に私は視線を感じて後ろを振り返った。
アスラン様も何か感じ取ったのだろう。
同時に振り返っていた。
「これほどすぐに気づかれるとは思っておりませんでした。いやはや、さすがでございます。さすがでございます」
パチパチと手を叩く男性がそこにはいた。
中肉中背の男性は、紫色の髪を肩ほどで切りそろえている。
糸目の男性は、口元に笑みを携え、何を考えているのか分からない。
その服装はまるで神官のようだけれど、どこか怪しげな雰囲気があった。
「某は、聖女様を崇拝し、聖女様こそ神と崇め奉る聖女教の使徒ゼクシオでございます。この度は、聖なる鳥様の元へと導いてくださりありがとうございます」
私とアスラン様が身構える中、ゼクシオと名乗る男は恭しくこちらに向かって深く頭を下げてくる。
突然のことに私達が警戒をしていると、ゼクシオは言った。
「シェリー様。この深く歪な鍾乳洞を迷うことなく聖なる鳥様の元へと進めるその力、感嘆いたしました」
「……一体、何を言っているの?」
私がそう尋ねると同時に、ゼクシオの周囲にある魔石が輝き始める。
何かに呼応するかのような光に、私とアスラン様が身構えた直後、ゼクシオは祈りを捧げるように手を合わせ、それから呪文のような言葉を口にし始める。
ただしそれは、私達の知っている言葉ではなかった。
「シェリー。あれは聖女教の聖力を使った呪文だ。何か仕掛けて来るぞ」
聖女教というものについて、一応知識だけは私も持っている。
聖女という存在を妄信的に崇拝する宗教であり、聖女こそがこの世界の神であり救い主であると考える宗教団体である。
ただ、そこまで大きな宗派ではないことと、レーベ王国でもローグ王国でも禁止されている宗教であり、関わったことはなかった。
それが一体何故今私達の目の前に現れるのかが分からなかった。
次の瞬間、地面から光る草がうごめき始め、私とアスラン様を絡め、捕まえようと伸びてき始める。
「……聖女アイリーン様からお話は聞いております。ですので、お二人は離れて、力の貸し借りが出来ないようにいたしましょう」
次の瞬間、私とアスラン様を引き離すように光が飛び交い、私達を攻撃し始める。
私とアスラン様は距離が開き、その中央にゼクシオが立つ。
「ははははは! お二人にはしばらく身動きを止めていただきたい」
いくつもの光が私達を絡めとろうとするけれど、私達はそれをよけながら移動する。
「アスラン様! 魔術具の使用許可を申請します!」
「緊急時は使用許可を取らなくても使ってもいいぞ!」
「了解しました!」
私はポシェットの中から魔術塔の三人に作ってもらった魔術具の手袋を取り出すとそれを装着する。
その手の甲に付けられた魔石のスイッチを叩きながら私は言った。
「モード、炎!」
魔石の色が赤く変わり、私は手を握ってから開く。
赤々とした炎がその瞬間私の手から放たれ、光が打ち消される。
「なっ!? そ、それは一体何なのですか!?」
ゼクシオが焦っている間に、アスラン様が魔術具のペンで魔術陣を空中に描き、持っていた小瓶を魔術陣の前で蓋を開けた。
その瞬間、魔術陣が青白く輝き、そして広がると、光たちを包み込み、収縮させて消していく。
「どうして!? どういうことなのですか!? こ、これは一体!? 貴方達は、そんな、こんな強いなどと聞いていません!」
その言葉にアスラン様は呆れたように言った。
「私は魔術師だ。そして魔術具を開発する魔術塔の長でもある。シェリーが来てくれたおかげで魔術具は更に発展した。緊急時の魔術陣の使い方も色々と改良中だ」
「私のこれは魔術塔の皆が作ってくれたんです。これで攻撃力アップですよ!」
私達に挟まれ、ゼクシオが驚いた表情を浮かべている。
アイリーンの一件があってから、私達はそれぞれが独立して戦えるように、ある程度準備しておくべきだと言う認識の元これまで過ごしてきた。
元々私は師匠に武術を教え込まれているので、魔術具を使えるようになってから戦い方に幅が広がった。
私の手袋は魔術塔の三人が作ってくれた物であり、魔石を叩きモードを私の声で言うとそれに反応して威力が変わる代物だ。
そしてアスラン様の小瓶の中には、私が採取してきた特殊魔石や特殊薬草で作った物が液体として入っている。
小瓶を開くことで魔術陣に反応して魔術が使用可能となる。
改良の余地はまだまだあるものの、私達は実用できるようにと二人で訓練してきている。
「何がしたいのか分かりませんが、とにかく、大人しくしてください」
私がそう言うと、ゼクシオは苛立たしそうに表情を歪めた。
「ほーら、あなた一人じゃ駄目じゃない」
「え?」
聞こえてくるはずのない声。
聞きなれた声。
懐かしいその声に、私は驚きながら視線を向けると、そこには、最後に見た時よりも遥かに痩せた、いや、やつれたような姿をしたアイリーンの姿があった。
あいりーーーーーーーん!!!!!!!!








