三十二話 完結
アイリーンの体が呪いから解き放たれて、光に弾かれて、地面へと倒れた。
その瞬間ヨーゼフ様も地面へと落ち、嗚咽を繰り返しながらその場で嘔吐した。
騎士達はアイリーンとヨーゼフ様とを捕らえ、私とアスラン様は力が抜けてその場に座り込んだ。
「はぁぁ。最近、こう、緊張することばかりだ」
「はい……そう、ですねぇ……」
私達はそう言葉を交わし合った。
恐らく気を失っているのであろう。アイリーンは騎士に抱えられている。ただ、ちらりと見えたアイリーンの美しかった金色の髪は、白く濁った色へと変わっているのが分かった。
「……」
ヨーゼフ様は未だに嗚咽を繰り返しているのが聞こえる。
レーベ国王は、その場ではあまりにも混乱していることから私達を別室へと促し、私達は一度部屋へと下がることになったのであった。
今回の一件は、レーベ王国とローグ王国との間に諍いを生む可能性のあるものであった。それ故に、簡単に片付く問題ではないと、ジャン様はレーベ王国側に正式に抗議文と共に賠償責任などについて書かれた書類を渡した。
次の日、私とアスラン様、ジャン様はレーベ国王と謁見する機会が設けられ、正式に謝罪があった。
ただし、公にすれば国交に問題が生まれ、火種にもなるとのことでジャン様がその場を内密に収めることをレーベ国王と取り決めを行った。
最終的に今回の一件は再度内密にではあるがしっかりと調べられることとなり、その結果次第でヨーゼフ様とアイリーンの処罰が決定されるという事であった。
現段階ではヨーゼフ様は廃嫡、そして離島への流刑。
アイリーンは神殿の牢へ幽閉。その一生を神殿への奉仕で償う。
これが現段階での処罰になるであろうとのことであった。
処刑の案も上がったが、今後もレーベ王国とローグ王国は友好国でありたいという意見、そして賠償金をジャン様が跳ね上げたことによりこのような刑が妥当とされた。
私自身、処刑されるよりも、その罪と向き合ってほしいという思いがあった。
死んで償うといえば聞こえがいいかもしれないが、それよりも罪を罪として償う方が私は良いと考えていた。
最後にアイリーンと会うかどうか尋ねられたけれど、私は断りを入れた。
アイリーンと私はすでに別々の道を歩み始めており、私はもう彼女とは決別したのだから話すことはない。
今回のことを通してレーベ王国は神殿での教育の在り方を大聖女と共に見直していくこととなったようだ。
また、ヨーゼフ様との一件にて、神殿内部との癒着の問題も明るみに出た。
私のお給料が仕事に見合っていなかったという事も、この癒着に原因があると断定がなされた。
これまで私は気が付いていなかったのだけれど、アスラン様がそこは話をつけてくれて、今まで不当に搾取されていた分のお給料をいただくことが出来たのであった。
「本当に良かったのか?」
神殿や私に冷たくあたっていた人々を罰することも出来たのだと、アスラン様は少し不満そうだったけれど、私はそこは別段どうでもよかった。
「いいんです。それよりも、早く家へ帰りましょう」
ジャン様はその後も今回の一件の処理の為にレーベ王国に残り、私達は一足先に馬車に揺られ、私達はアスラン様の屋敷へと到着した。
久しぶりに帰ってきた屋敷に、私はほっと胸をなでおろした。
笑顔で侍女や執事達が出迎えてくれて、それが嬉しくなる。
おこがましいかもしれないけれど、ここが私の家だと思えた。
「シェリー」
「はい?」
振り返ると、アスラン様に私は抱き上げられた。
「ひゃっ。あ、アスラン様?」
「しばらくは安静だな。平気なふりをしているようだが、やはり体がまだ本調子じゃないのだろう?」
ここに帰ってくるまでの間、気づかれないと思っていたのに、アスラン様にはお見通しだったようだ。
私はアスラン様の肩口に頭をもたげながら、小さく息をついた。
「私、今すごく幸せです」
そう呟くと、アスラン様が嬉しそうに微笑んだ。
「それはよかった。ふふ。可愛いな」
その言葉に、私は顔が熱くなる。
こんなに幸せでいいのだろうかという不安が何故かよぎる。
すると、そんな私の額に、アスラン様がキスを落とした。
「へ?」
呆然とする私に、アスラン様はいたずらが成功したかのように笑った。
「ははは。可愛いな。シェリー。いいかい。私はこれからこれまでのことを君が忘れるくらい君を幸せにしてみせる。覚悟してくれ」
「え? え? え?」
混乱している中、私はふと、アスラン様が私のことをシェリーと呼び捨てるようになったという事に気が付き、さらに恥ずかしくなった。
「あ、えっと。その……今でも、すごく、幸せですが」
そう呟くと、アスラン様は私のことをぎゅっと抱きしめた。
「私はこれまで女性のことをこんなにかわいいと思ったことはない。こうも可愛いと困るな。ははっ」
楽しそうなアスラン様に私は混乱していると、侍女さんや執事さん達が驚いたような声をあげた。
「あのアスラン様が、何ともめでたい」
「坊ちゃまが恋をするなんて!」
「はぁぁ! 今日は赤飯ですな!」
盛り上がり始めた皆に、私は恥ずかしく思いながらも、幸せだなぁと思ったのであった。
★おしまい★
最後でお読みいただきありがとうございました。
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