二十九話
投稿予約をするのを忘れておりました! 朝一楽しみにしていてくださった皆様申し訳ありません。学生さんやお仕事の方、それ以外に用事があるかたなど、朝一の時間で読めなかったですね。申し訳ないです(T_T)
いつも読んでくださりありがとうございます!
聖女の力を反転させた呪いというものについて、神殿には様々な文献が残っている。つまりそれはこれまでの歴史の中で聖女が利用された事実が残っているのである。
だからこそ、それに対しての危機感を神殿は聖女へと学ぶ機会を与え、清く正しくその力を使えるように指導を行っている。
レーベ王国でも聖女を神聖なものという位置づけを確立させ、だからこそ聖女の力を反転させた呪いなどというものは忌むべき悪しき歴史として語り継がれている。
そしてそれと同時に聖女の力を反転させること事態、行われないように、どのようにするのかについては禁書として王城の一部に保管されている。
私は採取者になるにあたり、歴史から聖女の力については師匠に教えてもらい学んできた。
アイリーンだって、おそらく神殿で学んでいるはずだ。
「ん? なんだ。豚がなんでそんな顔をする?」
「だ、だって、それって、私……半年後には死ぬってことですか? あはは、何それ、こわーい。冗談……ですよね?」
ヨーゼフ様は肩をすくめた。
「元々は君は僕の婚約者だし、そんな役目させるつもりはなかったんだが、まぁ僕はデブスと結婚は嫌だし、今回の一件は最終的に君にかぶってもらうつもりだから、まぁ、死ぬのが早いか遅いかくらいの違いじゃないかな」
悪いことなど何もしていないといった様子のヨーゼフ様は言葉を続けた。
「まぁでもとりあえずはシェリー嬢が戻ってきて良かった。現状を把握しているようだから、言っておくが、君はレーベ王国の採取者だ」
「いいえ、私はローグ王国魔術師アスラン様専属の採取者です!」
「はぁ。言っておくが、もうローグ王国へは戻れないぞ。君は意識を失っていたから気づいていないだろうが、ここはもうレーベ王国だ。君は四日間眠っていた。聖女の力を反転させた呪いとは、本当によく効くものだな」
私はその言葉に、やはり数日立っていたかと思いながらも、ヨーゼフ様も大概無知だなと感じた。
聖女の力を反転させた呪いを受けたならば、常人ならば一か月は寝込む。下手をすればそのまま死ぬ。当り前だ。それほどまでに聖女の力を反転させた呪いというものは恐ろしい力なのである。
ならば何故私が数日で目が覚めたのかと言えば、自身の体の中で、呪いの力を解呪しているからである。
採取者とは、採取した物の成分を把握しておく必要がある。
採取者見習いのころ、師匠から私はそれを学び、少しずつ自分の体で採取してきた物を体内に取り込み、成分を体に慣らしてきた。
体に良い物もあれば毒なものもある。それを少しずつ体に慣らしてきたのである。
だからこそ、並大抵の呪いや毒は私には効かない。
採取者として必要な能力だと師匠にも言われ、幼い頃から吐いたり体調を崩したりしながらも必死に耐性をつけてきたのだ。
そうすることにより、採取者として入れる場所も増えた。体に耐性が付いてきたことにより、採取する場所によっては耐性がることで毒の影響を受けずに採取できるようになったのだ。
そんな私だからこそ、今生きてここにいる。
無知とは恐ろしい物だ。
「ヨーゼフ様、アイリーンを使い捨てにするつもりなのですか? 貴方はレーベ王国をどうするつもりなのです? ローグ王国と争うつもりなのですか?」
私がそう尋ねると、ヨーゼフ様はいらだった様子で私の所へと来ると、私の頬を叩いた。
頬が一瞬で熱くなり、痛みでしびれる。
私はヨーゼフ様を睨みつけた。
「っは。普通の女であればこれで黙るというのにな。まぁいい。アイリーンは使い捨てだな。アイリーン以外にも聖女はいる。我がレーベ王国は聖女がいる王国。はっきり言ってローグ王国は邪魔なのだ。魔術など、聖女の力には敵わない。これからは聖女の力を反転させた呪いについても、僕がもっと有効的な使い方を見出していこうと考えている」
愚かなことだ。
私はアイリーンを見て言った。
「アイリーン。目を覚ましなさい。貴方は利用されているだけ。このままだと本当に死ぬわ」
「っは。アイリーン。僕の為だ。喜んで死ぬだろう?」
アイリーンの視線は一瞬彷徨い、そしてどこか嬉し気にヨーゼフを見つめる。
「はい。豚のアイリーンはヨーゼフ様に従いますわ」
その様子は明らかにおかしく、私は唇を噛むと声を荒げた。
「アイリーンに、何をしたの!?」
「何? っははは。普通に、豚には豚への躾をしたまでだ。他の誰に逆らおうが関係ないが、僕に逆らうのは許さない。聖女の力を反転させた呪いを発動するにあたって、躾をしたまでに過ぎない。王子の僕に従うのは当たり前だろう」
「アイリーン!」
「うるさいうるさいうるさい! お姉様は黙ってて! うるさいのよ。いつもいつも。貴方はもう私達の奴隷なんだから、いう事だけを聞いていればいいのよ!」
アイリーンは私の元へと来ると、私の体を蹴り飛ばした。
その力はハッキリ言って、そんなに強い物ではない。女性の蹴りなど、たいした威力ではない。
ただ、妹に躊躇なく蹴られたというのは、思いの外精神的に辛かった。
あぁ、この子にはもう私の声は届かないのだなと思った。
それはヨーゼフ様に洗脳に近いことをされているからということは、あまり関係ないのだろう。
私はアイリーンにとって躊躇なく蹴ることのできる相手なのだ。
その時であった。
部屋の扉がノックされ、黒装束の男性が入ってくると、ヨーゼフ様の耳に何かを告げ、ヨーゼフ様は眉間にしわを寄せると言った。
「父上に呼ばれた。僕は行ってくるが、アイリーン。この女を躾しておけ。ちゃんと言うことを聞くようにな」
「はい。ヨーゼフ様」
部屋を出て行くヨーゼフ様の背中をアイリーンは手を振って見送ると、ぱたんと扉が閉じた途端に、笑みを消し、私のことを憎々し気に睨みつけた。
「本当に、お姉様って大っ嫌い。黙ってなさいよ。私はヨーゼフ様と一緒にいられればそれでいいの」
「死んでも?」
私がそう尋ねると、アイリーンは頬をひきつらせた。
「私が死ぬわけないじゃない! 私は絶対に死なないし、ヨーゼフ様は私に罪を被らせるみたいなことを言っていたけれど、そうもさせないわ。私はヨーゼフ様の心をもう一度痩せて手に入れるの! そうすればすぐに完璧に戻るわ!」
完璧。
それは空想上の絵空事にすぎない。
「アイリーン……」
「だから黙って言うことを聞け!」
アイリーンはそう言って、用意されていた鞭を手に取ると、私に向かって振り上げた。