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三話

アイリーン……

 シェリーがレーベ王国を去ったことをまだ知らないアイリーンは、自室でヨーゼフから受け取ったプレゼントや手紙を見返しては笑みを深めていた。



「あぁ、ヨーゼフ様との結婚が待ち遠しいわ。ふふふ。聖女である私とヨーゼフ様との結婚式だもの。きっと盛大に行われるに決まっているわ」


 机の上に、手紙やプレゼントを並べて眺めることはアイリーンのひそかな楽しみであり、聖女になって散財できない代わりにこれで自分の心を満たしていた。


 それに結婚して聖女をやめれば好きに外にも出ることが出来る。


 聖女とは衣食住が保証されるが、自由は制限されるため、アイリーンは早くこの生活から脱却したいと考えていた。


「それにしても、お姉様さっさとこの国から出てってくれないかしら。あれだけ言ったから、ちゃんと出ていくわよね?」


 最近ヨーゼフが、シェリーに色目を使うことが多くなってきているのには気づいたアイリーンはそれを見て嫌悪した。


 自分より劣っている姉シェリーに、何故という思いと、自分だけを見てほしいという思いがあった。


 それになによりアイリーンにとってシェリーは常に面倒で邪魔な存在であった。


「お姉様ってすぐに私のことを説教するし、面倒だし、ことあるごとに私は両親に任されたからって恩着せがましいのよね。私にはお姉様なんて不必要だってなんで分からないのかしら。意味わからないし、本当に大っ嫌い」


 いつになっても子ども扱いしてくるシェリー。そんなシェリーがいたことで自分が幼い頃に飢えずにいたことなど、アイリーンには関係ない。


 成人し、聖女としての地位を確立した今アイリーンにとってシェリーは邪魔でしかなかった。


 その時、アイリーンの部屋がノックされ、部屋の中に聖職者のローブを着た女性が入って来た。


「アイリーン様、頼んでいた物はどこに?」


「はぁ。そこに置いてあるわ。さっさと持って行って頂戴」


「ありがとうございます」


 箱に詰められているものは、シェリーが採取してきた特殊薬草や特殊魔石である。


 それを持っていこうとした女性にアイリーンは言った。


「ねぇ、持っていく前に置いていくものがあるでしょう?」


「あぁ、もちろんです。こちらに」


「ありがとう」


 机の上には宝石や金貨が詰められた袋が置かれた。


 女性が出て行った後、アイリーンはそれを机の上に広げて数えながら笑みを深めた。


「これだけあれば、もう十分よねぇ。うふふ。結婚したら聖女はやめるし、貯めておいたお金でたくさん買い物も旅行も行こう。ヨーゼフ様は王子様だし、これからの生活は贅沢三昧だわぁ」


 聖女になりしばらくたった頃に、特殊薬草や特殊魔石が高値で売れると知ったアイリーンはそれならばたくさん採ってきてもらってたくさん売ろうと思った。


 そしてたくさんお金をためていつか散財するのだと楽しみに貯めてきたのである。


 シェリーが採って来たものは全て自分の物であるという考えのアイリーンは、これまで売って貯めてきたお金を見つめる度に胸の中が満たされた。


 美しいその金貨や宝石はアイリーンにとっては自分の未来をさらに輝かせるものであった。


「はぁぁ。楽しみだわ。早く結婚して、たくさんの宝石とドレスに囲まれて生活したいわ」


 それはきっと夢のように幸せな生活だろう。


 アイリーンはテーブルの上を片づけると、ベッドの中へと入り瞼を閉じた。


 早く寝ればそれだけ早く明日が来る。そうすればそれだけ早く自分が幸福になる日が近づくのだ。


 そうアイリーンは信じて疑わなかった。


 しかし、問題はすぐにアイリーンの目の前へと突きつけられることになる。


 毎日自分の元へと来ていたシェリーが自分の元へとこなかったことから、アイリーンは侍女をシェリーの部屋へと遣わして、侍女が見つけて持ってきた置手紙を読むことになった。


 そこには相変わらず面倒くさい文章が並んでいたが、旅立つことが書かれており、アイリーンは心の中で大喜びした。


 これで毎日口うるさく言ってくる者はいなくなったのである。


 そう思い、それを気分よく自分の上司にあたる神官長へと伝えたところからアイリーンの幸福な未来に向けての道が崩れはじめた。


「聖女アイリーンよ。今何と言った?」


 アイリーンは耳が遠くなったのかと思いながらも、あくまでも猫を被って伝えた。


「私の姉の採取者であるシェリーですが、自分の都合により突然この国を去ったようです。ですので、私が結婚するまでの間、新たに採取者をつけてください」


 別段問題はないと思っていたのは、アイリーンだけだということに、この時のアイリーンはもちろん気づいていない。


 神官長の顔は一気に青ざめると、慌てた様子でアイリーンの肩を掴んでその体を揺さぶった。


「いつですか!? 一体いつ!?」


「えっと、昨日、ではないかと思います」


 シェリーなんてさっさといなくなってくれればいいと思っていたし、出来るだけ去るのは早い方がいいとアイリーンは思っていた。


 ヨーゼフから早々に引き離したかったのである。


「なんということ……はぁぁぁ。アイリーン。大聖女様の元へと行きます。ついてきなさい」


「え? 何故です? シェリーがいなくなったくらい」


 その言葉に神官長は驚いたような表情を浮かべると声を荒げた。


「貴方はご自分の姉が優秀な採取者であると知らないのですか? はぁぁ。とにかく、行きますよ!」


 何故自分が怒鳴られなければならないのか。アイリーンは全部シェリーのせいであると心の中で毒づいたのであった。


寒くなると鍋の比率が多くなります('ω')


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