二十八・五話 ※すみません!一話抜け落ちておりました。
目の奥がじりじりと焼け付くようで、頭はまるで何かに叩かれているかのようにガンガンと響いて痛んだ。
焦点が定まらず、目を開けているのにグラグラと揺れている感覚がした。
私は頭の中で現在の今の自分の状況は何によるものだろうかと考えながら、一つの可能性に行き当たり、背筋が凍る。
「あら、お姉様起きたの?」
「……アイリーン?」
少しずつ焦点が合い、視界がクリアになっていく。
私は床に横たわっていたようで、体をどうにか起き上がらせると、じゃらりとした鋼が鳴る音が聞こえた。
「……どういう、ことなの?」
視線をあげると、そこには椅子に座り優雅にケーキを食べながら紅茶を飲むアイリーンの姿があった。
「アイリーン……ねぇ、アイリーン、どういうことなの?」
再度そう尋ねる。
アイリーンは面倒くさそうに笑みを浮かべる。
その時、もう一つ声が聞こえ、私は気が付いておらず体をびくりと震わせた。
「僕から説明をしようか」
体がいつもの状態ではない。五感が現在通常時よりも遥かに鈍っていることに気付きながらそこにいたヨーゼフ様を睨みつけた。
「どういうことなんですか?」
すると、ヨーゼフ様は楽しそうに私の方へと歩み寄ってくると私の胸元を掴み上げて起こし、じっと私のことを見つめると言った。
「言うことを聞かないからこうなるのだ。君はもう僕達に逆らえないし、言うことを聞くしかない。自分の状況が分からないだろう? だから教えてあげよう」
分からないと思っているのか。
私は自分は採取者としてかなりなめられているのだなと改めて思った。
だからこそ、挑むように、はっきりと告げた。
「聖女の力を反転させた呪い、そして奴隷のこの首輪の事を言っていますか?」
告げた言葉にヨーゼフ様とアイリーンは一瞬驚いたような表情を浮かべた。
ジャン様が受けたような、カモフラージュのあるものならまだしも、元々レーベ王国に住んでいた私が、聖女の力を反転させた呪いについて知らないわけがない。
採取者として聖女がどのような能力を持っているのか、どのように力を特殊魔石や特殊薬草に注ぎそれが影響するのかなど、頭に入れていないわけがない。
そして首に触れる冷たい感覚と、現在の症状を加味すれば、予想するのはたやすい。
「……ははっ。その通り。つまり君は逃げられない」
ヨーゼフ様の言葉に、私は視線をアイリーンへと移すと尋ねた。
「この聖女の力を反転させたのは、アイリーンなの?」
私の質問にアイリーンは笑みを深めると両手を広げて嬉しそうに話し始めた。
「そうよ! まさか聖女がこのような力を使えるなんて! 私知らなかったわ!」
その言葉に、私は無知とは恐ろしい物なのだと改めて感じた。
アイリーンの教育については十歳以降は神殿に託されていた。神殿ならば間違いはないと思っていたのだけれど、そうではなかったらしいと私は知り、唇を噛んだ。
どうしてこうなってしまったのであろうか。
私はアイリーンのことを愛していた。ただ、思い返してみた時に、アイリーンはあまり私のことが好きではなかったのかもしれない。
幼い頃から、自分が優先されることが当たり前という様子はあった。
可愛いアイリーンは皆に愛された。私自身、両親がアイリーンのことばかり溺愛するから寂しく思った時もあった。
けれど妹だから、私だって可愛がった。
間違えた時には姉としてちゃんと教えようとしたけれど、アイリーンはすぐに泣いてしまい、両親からは妹をいじめるなと怒られた。
私は本当にそれでいいのだろうかと思いながらも、そんな時に両親が亡くなり、私はアイリーンの為に必死に働いて、その結果、アイリーンを一人にしてしまうことが増えた。
けれど神殿に引き取られてからは十分な教育を受けさせてもらえたはずだ。
私はそうこれまで思っていた。
私とは違って神殿の学校へと入れたアイリーン。きっとアイリーンはたくさん学び成長できるとそう思っていた。
「アイリーン……ねぇ、貴方これまで何を学んできたの?」
温かな住まいで、三食満たされた健康な状況で、学校に行かせてもらったはずなのに。
アイリーンが首をかしげる。そんなアイリーンの手へと視線を移せば、爪が紫色に変色し始めていた。
私は唇を噛むと、ヨーゼフ様を睨みつけた。
「婚約者を……どうして?」
視線から恐らくヨーゼフ様は私が言いたいことが分かったのだろう。にやりと笑みを浮かべるとヨーゼフ様はアイリーンの元へと移動し、アイリーンの髪の毛を乱雑につかむと、楽しげに言った。
「この豚をどうしようが僕の勝手だろう?」
「いたっ……よ、ヨーゼフ様ぁ、やめてくださいませ」
そういうアイリーンはどこかうっとりしているような瞳をしており私は驚いた。
「ヨーゼフ様の豚な私はぁ、ヨーゼフ様の為に、頑張っているでしょう?」
一体何があったのであろうか。
私は声をあげた。
「アイリーン! ねぇ、目を覚ましなさい。貴方このままじゃ……死ぬわよ」
言葉にしてより現実味を帯び始め、私は唇を噛む。
「え?」
アイリーンが意味が分からないと言った様子で首をかしげた。
「聖女の力を反転させるということは、神に背く行為。聖女の力は毒へと変わり、体を蝕み、最後には死を迎える。聖女ならば誰でも知っていることよ……だからこそ、清く正しくあれと聖女は教え込まれてきたはずなのに……どうして」
アイリーンの瞳が驚きで揺らぎ、そして縋るようにヨーゼフへと視線を移す。
「そんな……そんなわけありませんよねぇ? お姉様ったらバカなんだから。そんなわけ」
「あぁ。まだ死なないだろう?」
「え?」
アイリーンの瞳が驚愕で見開かれていく。
「まだ?」
ヨーゼフ様は楽しそうに言った。
「他の聖女は半年はもったぞ」
ぞっとするその言葉に、アイリーンは後ろへとふらつくように下がった。
申し訳ないです! 一話抜けてました。








