二十七話
アスラン様と私は飲み物を飲んだ後談笑し、その後、国王陛下とジャン様がファンファーレと共に入場を果たされ、皆に挨拶を述べた。
壇上で堂々と挨拶をするジャン様は、人々を引き付ける魅力のある男性である。
貴族の令嬢達はうっとりとした表情でその姿を見つめており、私は王太子殿下は人気があるんだな、なんて考えをしているとジャン様と視線が合った気がした。
こちらを見たジャン様は笑みこちらへと向ける。
挨拶が終わると、ジャン様が令嬢の一人とファーストダンスを踊り始めた。そして一曲踊り終えると拍手が巻き起こる。
そしてそれに続くように他の貴族達もパートナーと共に踊り始めた。
ジャン様は皆に笑顔を振り撒いており、これから女性を勘違いさせて悲劇を生むに違いないと私は内心思っていると、アスラン様が口を開いた。
「ジャンは王太子であり、かなりもてる。だからこそちやほやされることが当たり前でな。だからこそなのか、運命の愛なんてものに憧れている」
「え?」
「だが、私はジャンに君を譲るつもりはない」
「へ?」
私が一体何の話だろうかと呆然としていると、アスラン様は私の方へと視線を真っすぐに向けて、私の前へと跪いた。
「間もなく、ダンスが始まる。シェリー嬢。君と踊る栄誉を、私にもらえないだろうか」
パートナーとしてきたのだから、ダンスを一緒に踊ることは当たり前だと私は思っていた。
だからダンスをわざわざ申し込まれることなどないと思っていた。
不意打ちに、私の心臓はばくばくと煩いくらいになって、顔に熱がこもる。
翻弄されてばかりである。
「……はい。よろしくお願いいたします」
「できればこれからもずっと君と踊れる栄誉も欲しい」
「へ?」
アスラン様は私の手を取り、手の甲に口づけを落としながらこちらへと視線を向けた。
「女性に対して、このように心が惹かれることが初めてで、上手く伝えられてないようで歯がゆい」
これではまるで告白のようである。
私は顔を真っ赤にしながら、声をあげた。
「アスラン様。これは、これは勘違いしますよ? あの、そういうセリフは好きな女性にいうもので」
アスラン様の目が驚いたように見開かれた。
「ふむ。まだ伝わっていない。雰囲気を大切にと助言を受けたのだが、君には直接的な言葉の方がいいようだ。シェリー嬢。私は君を慕っている。好きだ。だから一緒にこれからもいてくれ」
「ひぇ!?」
これまで勘違いしてはいけない。こんな美丈夫が自分のことなど好きになるわけがないと律してきた。
だけれど、これは一体どういう事なのだろうか。
頭の中が混乱して、淡淡としているうちにアスラン様は私の手を取り、そして腰を抱く。
「返事を聞かせてもらいたい」
私は両手で自身の顔を覆うと、小さく頷き、返事をした。
「……好きです……一緒にいてくれたら……嬉しいです……」
恥ずかしすぎる。こんな煌びやかな舞踏会の場所で告白をされるなんて思ってもみなかったし、こんなダンスを踊る前に突然……恥ずかしすぎる。
指の隙間からちらりとアスラン様を覗き見ると、アスラン様は嬉しそうに微笑み、幸せそうであった。
「行こう」
「はい」
ダンスフロアへと進み、音楽に身をゆだねる。
一緒に踊っている。こんな美しい場所で、告白をされて、皆の前で私は踊っている。
そんな私達を見て、周りの人々が声をあげているのが聞こえてきた。
「アスラン殿が踊っている。いくら女性に誘われても断っていたのに」
「まぁ! あの可愛らしい女性はどなた? ダンスがお上手ねぇ。素晴らしいわ」
「ああああああ。アスラン様……はぁ……お幸せそう……お似合いね」
アスラン様は幸せそうに微笑みを浮かべている。
「君は本当に運動神経がいいのだな。短期間でこれほどまで踊れるようになるとは驚きだ」
その言葉に、私は嬉しくなって笑みを返した。
「ほっとしました。ふふっ。足を踏んだらすみません」
「踏んでくれてかまわない。とはいえ、踏まれたことがないので驚きなんだがな」
私達は笑い合った。
ダンスは楽しい。全身の体を音楽に合わせて、踊ることがこんなにも楽しいことだとは知らなかった。
そしてアスラン様と一緒に踊れることが嬉しい。
「まぁぁ。まるで妖精のようね」
「本当に。体に羽が生えているように軽やかだわ」
「素敵ねぇ」
本当に体に羽が生えているようであった。
心の中で、王子様のアスラン様と踊るお姫様の自分を想像して、物語のワンシーンのようなこの瞬間を、一生覚えておこうと私はそう思ったのであった。
乙女みたいなことを考えたことは誰にも言わず墓まで持っていこう私はひっそりと決意した。
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