二十三話
最低限のテーブルマナー。そして頑張ったダンス。私はこの状況で舞踏会に参加して本当に大丈夫なのだろうかという不安で一杯であった。
そんな私の不安とは裏腹に、舞踏会に向けての準備は着々と行われていく。
朝一からお風呂に入れられ、マッサージを施され、最初こそ幸せだなと思っていたのだけれどドレスを着せられた辺りから少し疲れてきた。
採取をする時の疲れとは全く違う疲れである。
体力を削られるというよりは精神力を削られていくようなそんな感覚を味わいながら、貴族のご令嬢というものは本当にすごいなと感心してしまう。
この一か月程度、私は必死にテーブルマナーとダンスと社交界について学んできたのだけれど、これを常と思って生活している人たちはすごい。
すぐに体を動かしたくなる私とは全く違った人種の人達なのだと思いながら、そうした人達がいるからこそこの国は回っているのだろうなと尊敬の念を抱いた。
ただ、尊敬したところで身につくわけではない。
「私……大丈夫でしょうか」
侍女さん達に吐露すると、皆さんくすくすと笑いながら楽しそうである。
そして以前私のメイクをしてくれた侍女のマリアさんは一歩前に進み出ると、瞳を輝かせながら言った。
「大丈夫です。アスラン様がご一緒ですから!」
あのメイクをしてもらった一件から、マリアさんは私のことを着飾るのを楽しんでくれているのか、アスラン様が今回の舞踏会の為に宝石屋ドレスなどを準備してくださると、それに合わせた小物なども準備してくれた。
私はこんなに色々と準備してもらっていいのだろうかと思ったのだけれど、侍女さん達皆に、男性が用意してくれたものを返すのはむしろ無礼に当たると言われて、受け取ったのであった。
侍女さん達は楽しそうに会話を広げており、皆が楽しそうである。
「そうですよ。ふふふ。あのアスラン様が女性をエスコートされる日がくるとは、私達は嬉しくてうれしくて。しかもシェリーお嬢様のように素敵な方ならなおさら嬉しいです」
その言葉に、私は瞼を閉じる。
この屋敷の侍女さんや執事さんたちは皆優しすぎる。ただの採取者でしかない私にとても親切で、その上、アスラン様に近づくなとか、お前のようなちんちくりんこの屋敷からさっさと出て行けとか、そんなこと一切言わない心の広い方々である。
「皆さんが優しすぎます」
そんな私の様子に侍女さん達はまたくすくすと笑う。
髪に櫛が通されて美しく編み込まれていく。それを眺めながら、これも職人の仕事だななんてことを考える。
「魔法の手のようですね」
思わずそう呟くと、侍女さん達はさらにくすくすと笑う。
「シェリーお嬢様は本当に可愛らしい方ですね」
「貴族のご令嬢方にとってはこの時間は休憩時間なのに、シェリー様はじっと見つめて、ふふふ。小さなお嬢様のようで可愛らしいです」
「あ、すみません。つい癖で観察しちゃって。それにこんな風に髪の毛を結ってもらうなんて、本当に小さな時以来で嬉しいです。ありがとうございます」
そう伝えると、一瞬侍女さん達は手を止めたのちに、すぐに笑顔で言った。
「これからは、毎日私達が結ってもいいですか?」
「これまで遠慮していたのですが、採取する時間にご迷惑でないときはぜひ」
「シェリーお嬢様をこれからも着飾る栄誉が欲しいのです」
侍女さん達にそう言われ、私は驚きながらも嬉しくて、大きく頷いた。
「はい! ぜひお願いしたいです! いいんですか!? あ、でも、採取が深夜の時とか朝一の時とかはできないんですけれど」
「シェリーお嬢様の都合のいい時だけでいいのです」
その言葉に私は嬉しくて何度も頷いた。
「お願いします! ふふふ。こんな風にかわいくしてもらえたら、アスラン様の横に立つときに勇気が湧きます」
「勇気ですか?」
首をかしげる侍女さん達に私はゆっくりとうなずいて言った。
「えぇ。あの美丈夫のアスラン様の横に立つなんて……勇気がいります」
「まぁ」
侍女さん達は楽しそうにまたくすくすと笑う。温かな雰囲気で、優しい空気に包まれていた。
あぁ何だろう。
幸せだ。
私は舞踏会に行く不安が和らぎ、綺麗にしてもらうことで勇気を貸してもらえたような気持ちになった。
天使にラブソングをがこの前映画が放送されていたのですが、マリー・クラレンスっていう名前は頭に植え付けられていて、ずっと覚えている( *´艸`)