二十二話
「ふわぁぁぁ……なんだか、アスラン様には、甘えてばっかりだなぁ」
太陽が昇る前に私は起き、ベッドの上でしばらくそう呟いて身もだえた後、顔を洗うと準備運動を始める。
昨日は結局アスラン様の胸を涙やらなんやらでぐちゃぐちゃにしてしまい、本当に申し訳なかった。
けれどアスラン様は優しく大丈夫だと、涙が止まって良かったと微笑んでくれて、私はもう白旗をあげる以外なかった。
心が完全に射抜かれてしまった。
これまでずっと人に甘えることをしたことがなかった。はっきり言って他人と深くかかわったこともなければ、他人を自分の心のパーソナルスペースに入れることもなかった。
人とは最低限の表面上の付き合いがほとんどだった。
けれどアスラン様は出会った当初から、何故かとても一緒にいて話をしてみて居心地がよくて、だめだと思ってもどんどんと惹かれていってしまった。
初めての感覚に戸惑いながら、こんな美丈夫を好きになったところで不毛だと分かっているのに、陥落してしまった。
「はぁぁぁ。まぁ、しょうがないわ。アスラン様は今は恋人がいないようだし、その間だけでも、この、恋のウキウキアハハを楽しむべきよね」
決して自分に恋人になれる可能性があるだなんておこがましいことは考えない。
そんな大したものを望んでしまっては、今後自分はわがままになっていってしまうだろう。
「律する心。大事。弁えること。大事」
私は深呼吸をしながら呪文のようにそう呟き、そして軽く準備運動をしたのちに庭へと出て走り始めた。
煩悩を消すためには走るのが一番である。
「弁えろ! 貴方は採取者! やるべきことは、採取!」
そう思っていたはずなのに。
私は現在侍女さん達にドレスを着せられて、現在屋敷の大広間にあるダンスフロアにてアスラン様からレッスンを受けていた。
明らかに採取者の仕事ではない。けれどこれにはれっきとした事情がある。
朝から採取者としての体力維持のための運動を済ませた私の元へとアスラン様が来ると、昨日のことをずいぶんと心配して声をかけてくれた。
それだけで私の心臓はもう、乙女のようなハートになってしまっているので高鳴ってしまったのだけれど、そんな私にアスラン様からある提案がなされたのである。
その提案とはヨーゼフ様とアイリーンが参加する建国祭の舞踏会へと一緒に参加しないかというものであった。
私はただの平民の採取者である。
そんな私が参加できるわけがないと慌てて断ったのだけれど、アスラン様も地位は魔術師であり、採取者である私はパートナーとしては十分資格があるのだと言われた。
舞踏会など参加したことがない私は絶対に無理だと思ったのだけれど、今回の事件についてジャン様は探りを入れていくのだということをアスラン様から聞いた。
アスラン様はおそらく私にちゃんとアイリーンと決別する機会をと思っているのだと思う。今回を逃せば、機会はないかもしれない。だからこそだろう。
そう、だからこそ、私は今、一生懸命に舞踏会のダンスの練習をしていた。
「あああああの、参加だけなら、ダンスはいいのでは?」
アスラン様の手が私の腰へと回り、私のことをしっかりと支えている。
私とアスラン様とでは月と鼈。いや、月と石ころくらいの差がある。美しい顔が近くにあること自体心臓が痛いというのに、耳の近くでアスラン様の声が響いた。
「私がシェリー嬢と踊りたい」
「へ?」
アスラン様はいたずら気に微笑みを浮かべていた。
美丈夫の笑顔ずるい。
私は必死にダンスの練習にいそしむのであった。
シェリーちゃんは、運動神経は抜群なのです(●´ω`●)
ダンス踊ってみたいですね。日本でも舞踏会あったらいいのに(*´▽`*)