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二話

シチューはお好きですか?

 温かなシチューはミルクがたっぷり入っているようで、野菜も大きめに切ったものがゴロゴロ入っていた。


「これはアスラン様が作ったのですか?」


 料理が出来る男性に出会ったのは初めてでそう尋ねると、アスラン様はシチューをかき混ぜながらうなずいた。


「あぁ。料理を作っているとストレス解消になるのだ。だからよく作る」


「へぇ。お恥ずかしながら私は食堂を毎回使っていたので最近は全く作らないのです」


「あぁ。君ほどの聖女付きの採取者ならば神殿の食堂を使えるだろうからな。さぁ、熱いから気を付けて」


「ありがとうございます」


 皿に注がれたシチューは湯気を立てており、良い香りがした。


「神殿の食堂は、聖職者か正式な使用証がないと使えないのですよ。なので使用人用の食堂を使ってました。ふふふ。誰かとこうやって話をしながら食事をとるのは久しぶりで、嬉しいです」


 私はシチューの香りを胸いっぱいに吸ってから、ふぅふぅと息をかけゆっくりと口の中へとシチューを運んだ。


 大きく切られたジャガイモとニンジンがほくほくとして美味しい。


「ちょっと待ってくれ、使用証? 君ほどの採取者がもらえなかったのか? というか、誰かと食事をとるのが久しぶりとは、どうして?」


 ちゃんと話を聞いてくれるなんて優しい人だなぁと思いながら、口の中の野菜たちを飲み込んで私は答えた。


「私は大した採取者ではありませんし……アイリーンにもよくお姉様はこんなものも採取できないの? 仕方ないわねって、呆れられていたくらいで。あ、アイリーンは私の実の妹で聖女として神殿に務めているのです。あと、神殿で仲の良い人もいませんでしたし、それにアイリーンは優秀な聖女なのでたくさん採取物があって、ゆっくりご飯を食べる時間もなかったのです」


 人と話すのが楽しくて、つい一気に話してしまったなんて思い、気を悪くしないだろうかと思ったけれど、アスラン様は私の言葉に疑問を持ったのかまた尋ねてきた。


「本当に? レーベ王国がそんなに採取者を優遇していないとは驚きだ。聖女アイリーン……確かにローグ王国にもその能力の高さが轟くほどの聖女だが、一人の聖女にまさか一人しか採取者がついていないのか?」


「え? えーっと、恐らくアイリーンの採取者は私だけだったと思います」


 アスラン様は驚いた表情をした後に、押し黙り、それから何かを考えるように眉間にしわを寄せながら、手に持っていたシチューを口に運ぶ。


 結構大きな口で食べる姿は意外で、私は美丈夫がリスのようにもぐもぐと食べている姿に、ぐっと笑いを堪えた。


 アスラン様はシチューを食べ終えるとまた口を開いた。


「実のところ、ローグ王国では採取者が足りていないのだ。いや、いるにはいるんだがどうにも未熟で。魔術師が多い分、採取してきてほしい素材も多い故に、優秀な採取者がどうしても必要でな、そこでシェリー嬢の噂を聞き、是非一度話をと思い、会いに行く途中だったのだ」


「私ですか?」


 自分はアイリーンの専属の採取者であり、話をされるようなことは何もしていない。


 一体何故だろうかと思っていると、アスラン様は面白そうに口角をあげた。


「まぁ、君は今後自分の立ち位置を知っていったらいい。大丈夫だ。レーベ王国ではどうやらおかしなことになっていたようだが、私の専属になってくれるならば大事にする」


「へ?」


 男性に大事にする何てこと言われたことがなく、まるで愛の告白のようで、免疫のない私は顔に熱がたまっていくのを感じた。


 思い返してみれば、これまで生まれて二十二年間、アイリーンのことばかりを考えて生きてきて恋愛のレの字も経験したことがない。


 アスラン様のような美丈夫であれば、きっと王都ではさぞかし華やかな生活をしてきているのだろうなと、自分など恋愛対象外になるに決まっているではないかと気を引き締めなければと思った。


「頑張りますので、よろしくお願いします」


 この人は上司だ。上司と自分に言い聞かせながら、私は目の前のシチューをアスラン様のように大きな口で食べた。


「ゆっくり食べなさい。皆に君を紹介するのが楽しみだ。ローグ王国の魔術塔で私は魔術師長をしているのだが、部下達は少し変わった者達だが、有鬚な者達だ。ちなみに、いろんな国から私が引き抜いてきた」


「……引き抜き。よくされるのですか?」


 思わず私が尋ねると、アスラン様はにやりと少し悪い顔をして言った。


「どんな国でも、優秀な者を不相応に扱う者はいるのだ。努力する者に、相応しい場所を提案するのは良いことだろう?」


 国同士で問題にならないのだろうかと思っていると、それに気づいたのかアスラン様は肩をすくめて言った。


「しっかりと話はつけてから引き抜くので問題はない。まぁ今回の君のように自分で国を出て我が国に来てくれるというのであれば、万々歳だ」


「ふふふ。あー。なんだか、国を出る時はちょっと落ち込んでいたので、こうやってアスラン様と出会えて、気持ちが軽くなりました」


 アイリーンに自分は不必要だと突き付けられた後だったから余計に救われた気持ちがした。


 アスラン様はそんな私を見て、カバンから一つの木箱を取り出すと言った。


「沈んだ気持ちを癒すのは、休息と音楽だ」


 開けるように視線で促され、私は木箱を開けた。


 可愛らしいオルゴールで、美しい旋律が洞窟の中に広がっていく。


「素敵な曲ですね」


「さぁ、お楽しみはこれからだ」


「え?」


 まばゆい宝石のような光が木箱から溢れたかと思うと、音楽と共に影が踊り始め、まるで夢のような光景が広がった。


「わぁぁ」


「笑顔が見れて良かった」


 優しく微笑むアスラン様に、私の心臓がぎゅんと持っていかれそうになる。


 美丈夫恐るべし。私は自分の心臓をどうにかしずめようと、ぐっと抑えるほかなかった。



シチュー大好物です。鶏肉とウィンナー入れて食べたいです(*´▽`*)


最初に作者が豆腐メンタルなことを宣言しておきます(*'ω'*)そのうち頑張って木綿くらいになる予定です(●´ω`●)

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