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十七話

 結局私は同様のあまりその後は観光できる状態ではなくなってしまい、アスラン様には謝って屋敷へと帰ることとなった。


 屋敷へ帰ったアスラン様はすぐに事実確認をしてくれるとのことで、レーベ王国に住む知り合いの元へと魔術具を使って連絡を取ってくれることになった。


 私はアスラン様と共に執務室へと入らせてもらい、そして、魔術具を作動させ、アスラン様が連絡を取る姿を手をぎゅっと握って見つめていた。


 アスラン様は知り合いの方と挨拶を済ませた後に、アイリーンのことを尋ねてくれた。すると、そこで聞こえた言葉に、私は困惑した。


 通信を切った後、アスラン様は腕を組むと私の前のソファーへと座り、ゆっくりと息を吐いた。


「……まず確かなことは、妹であるアイリーン嬢はここ最近公の場に姿を見せていないこと、そして第一王子ヨーゼフ殿の立場が危うくなっていることだな」


「第一王子であるヨーゼフ様はアイリーンの婚約者です……どうして? 何があったのでしょうか……アイリーンは大丈夫でしょうか」


 私がそう言うと、アスラン様は眉間にしわを寄せてから立ち上がると、棚から一冊の資料を持ってきた。


「実のところ、気になることがあって、君に伝えるかどうか悩んでいたんだ」


 私が首をかしげると、アスラン様が棚から資料を持ってきて、それを机の上へと並べて言った。


 そこには特殊魔石と特殊薬草が高額に取引され、裏ルートで流れている情報とどれだけ高額で転売されているのかなどが記載されていた。


 私はそれに目を通しながら、口元を手で覆い、息を呑んだ。


 横に記入されている日付、次期、そして量、私は静かにポシェットから自分の手帳を取り出すと、それを比較していく。


 量こそ多少違うけれど、量の取れない希少なものはほぼ一致している。


 私は両手で自分の顔を抑えうずくまった。


 今まで大切な妹のアイリーンが聖女として頑張っているのだから自分も頑張らなければと、無茶な採取や危険な採取も取り組んできた。


 最善の準備をしていても不測の事態は起こるもので、採取は命がけという思いもあった。


 けれど、人々の命を救うためにアイリーンが努力しており、だからこそそれに必要なのだと、自分を鼓舞して、危険な場所の採取へも向かった。怖くないわけがない。恐ろしい場所もたくさんあった。


 一人で土砂降りの中を駆け抜けたこともあった。


 魔獣の住まう森を、息を殺して地面を張って進んだこともあった。


「ははっ……私の採取した物が……売買されているなんて……」


 アイリーンが必要であると言ったものだ。


 直接アイリーンに渡しており、いつもすぐに自分の魔力を注ぐと言っていた。


 つまり、それに利用されていないまま売られているという事は、アイリーンもわかっているという事だ。


 可能性としては誰かに騙されて横流しに協力してしまっている可能性もある。


 けれど、あの頭のいいアイリーンが騙されるだろうか。


 私は大きくため息をつく間、結構な時間が経っていたのだろう。


 机の上にアスラン様が温かなココアを入れてくれて、それを置いてくれた。


 私は顔をあげ、湯気の立つココアを見つめて、ぐっと奥歯を噛んだ。


 ずっと、ずっと私はこれまで目を背けてきたのだ。


 ローグ王国に来てから、私はアスラン様の元で素敵な部屋に住まわせてもらい、美味しいご飯に温かな部屋で眠れるようになった。


 なんて幸せなのだろうかと、あの黴臭い狭い部屋から大出世だな、なんて最初はウキウキと思っていた。


 私はその時のことを思い出し、ぐっと瞼を閉じた。


 ローグ王国に務めるにあたってアスラン様とお給料や勤務体系を話し合う場を設けてもらった時のことだ。


 私は通常勤務時間は八時間で、もし採取の為に早朝や深夜などに働く場合はそれに見合った特別手当てが出ることや、珍しい物を採取した時にはその時の時価で買い取ってもらえるなど、そうしたことを聞いた。


 私はなんて手厚いのだろうかと内心大喜びであった。


 それと同時に、レーベ王国ではなそうしたことはなかったなという思いを抱いた。


 そして細かに決めて行けばいくほどに、心の中で、あれ?という疑問が脳裏を横切っていく。


「給料は三倍ということだったが、このくらいでどうだろうか」


 そう言ってアスラン様に提示された金額を見た瞬間、私は飛びあがった。


「おおおお多いです! これじゃあ元のお給料の十倍になります!」


 そう伝えた瞬間、魔術室内が静まり返った。


 アスラン様も、他の三人も驚いたような顔を浮かべた後に、怒気を含んだ気配を発し出して、私は驚いた。


「え? へ? あの……」


 戸惑っていると、皆が大きく深呼吸をしている。


 アスラン様は頭を押さえ、それから言いにくそうに口を開いた。


「確かに相場よりは高いかもしれないが、君ほどの採取者には正当な額だ。そもそも採取は危険を伴う仕事だ。それを加味しても、これくらいはもらうべきだ」


「え……だって……」


 今までお給料でどうやってやりくりしていこうかと、採取に必要な道具の手入れなどもあるから悩んできた日々は何だったのか。


 外食や、酒場にいくのにお財布の中身を心配していたのは一体何だったのか。


 あの黴臭い部屋で、夜寒いなと思いながら薄い布団に丸まっていたのは……


 アスラン様に告げられた言葉の意味を、あの時は呑みこむことが出来ずにそのまま時間だけが経過して今に至った。


 けれど、もう呑みこまなければいけないのだ。


 涙が落ちた。


 声なんて出ない。


 ただ、涙が目から溢れてきて、ただただ、床にシミを作っていくだけだ。


「私は、実の妹に……裏切られていたし……正当な報酬など払われていなかったのですね……」


 胸が苦しくて、息が出来ない。


 アスラン様はそんな私の横に座ると、背中に手を当て、何も言わずに、私が落ち着くまで待っていてくれた。

 


シェリー……(´;ω;`)

これからきっと幸せになれるから、今は泣いてもいいのですよ。

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