十五話
アスラン様と一緒にまず向かったのは街の大通りであった。
そこは赤レンガ造りの道が続いており、店は外からでもなんの店なのか分かるように大きな窓がつけられており、そこに見せ一押しの商品が並んでいる。
レーベ王国に住んでいた頃は、時間的余裕も金銭的余裕もなく、その上神殿の使用人部屋に住んでいたので、そこから街に向かうのも億劫で、結局見回ることもしたことがなかった。
だからこそ、こうやって街中を散策できるというだけでも、とても気持ちが高揚した。
「せっかくだから、観光がてら街を回ろう。私もあまり観光はしたことがないが、昨日ライダーに街のおすすめスポットというものを聞いた。そこも回ってみよう」
「はい!」
アスラン様はカバンから魔術具の紙とペンを取り出すと、自分の頭にトントンとペン先を軽く当てた。
すると文字がペンから空中へとあふれ出しそれが紙へと光を伴って収まっていく。
「地図にしてみた。どうだろうか。君が行ってみたい場所はあるか?」
「見てもいいですか?」
「もちろんだ」
アスラン様から紙を受け取ると、それは地図の上におすすめスポットが描かれており、そして指で触ると、その説明が空中へと浮かび上がった。
魔術具とは不思議なものだなとお改めて思いながら、私はそれをじっと見て、そしてアスラン様に言った。
「ありがとうございます。覚えられました」
「ん? 覚えた?」
私は頷くと、アスラン様に言った。
「アスラン様は見たいところはありますか? おそらく全部回るのは難しいので、数か所にポイントを絞った方がいいかと」
「なるほど。確かにその通りだ」
アスラン様が持っている紙に私は指をなぞらせる。
「私達がいる場所が現在ここ、そして今の時刻がおおよそ朝の十時半、そして帰宅時間を五時と想定した場合、移動時間を含めると回る箇所によって回れる場所が変わるかと。まずはどこに行きたいのか上位三番目まで決めましょう」
「了解した。では本日は買い物と昼食の時間も含めてあまり遠い所はやめよう」
「そうですね。では、場所を絞り、今回はこの近辺で一番近い場所、こことこことここを観光では周り、後は買い物と食事の時間に充てるのはどうでしょう」
「良い考えだ。それであれば時間も余裕がありかつじっくりと見て回れそうだ」
私達は笑顔で頷き合うと、一緒に街中を歩き始めた。先ほど地図を見たのですでに街の地形と店に関しては記憶したけれど、実際に街を見て歩きながらその情報と見たものとをすり合わせていく。
ふと視線を感じてアスラン様へと視線を向けると、優し気に微笑みを浮かべていた。
「君は記憶力が相当いいようだな」
「え? そう、ですか? そんなことはないと思います」
「今も迷いなく歩いている。私はこれまで幾人もの採取者を見てきたけれど、君はやはり別格な印象がある」
私はそう言われても、あまり他の採取者と共にしたことがなかったので、首をかしげてしまう。
「いつも師匠様には怒られてばかりだったので、そんなことはないかと」
「ほう。君の師匠か。気になるところだ」
「今まで一緒に過ごしてきた人の中で、一番の変わり物には違いありません」
「ふっ。君にそう言わせるとは相当だな」
「はい。あ、アスラン様! 第一の目的の時計塔が見えてきました!」
私は見えてきた時計塔を見上げ、その大きさに驚きながら、美しいなぁとそう思った。
巨大な時計塔は中にも入れるようで、私とアスラン様は共に階段を上っていく。
結構な高さなので階段の数も多く、途中途中に休憩用の椅子が設置されており、そこで休憩をしながら登るようだ。
私とアスラン様は、階段をのぼりながら中々に素晴らしい時計塔だなという話で盛り上がっていた。
「この時計塔はすでに作られてから七十年がたつらしいですが、見てください! この石は魔石を間に挟むことで強度を増しています」
「本堂だな。おそらく他の普通に見えるレンガにも、特殊魔石の粉末が練りこまれているのではないだろうか」
「なるほど……一度一つ持って帰って成分を調べてみたいですね」
「あぁそうだな」
私達は階段を上がりながら話題は広がり、いつの間にか魔石の種類や地域によっての同じ魔石であってもどうして効力や成分に差があるのか、地域によって何が違うのかなど話始めた。
師匠は基本的に自分の世界にいる人だったので、こんなに魔石や薬草の話を共有できた人は初めてであった。
アスラン様はすごいなと思いながらその知識量に、感服した。
そして、気が付けば等の最上階についており、私達は街を見下ろした。
「結構高いですねぇ」
「そうだな。シェリー嬢、見てくれ。この鐘は……もしや」
そう言われて私は鐘へと視線を移して驚いた。
「これ、すごいですね。もしや、紅玉特殊魔石のしかも純度の高い物……ですか?」
「あぁ……これ程のものは、なかなかお目にかかれるものではない。まさかこんなものが町の中心にあるとは……」
「本当ですね」
他の方々が外を見つめて良い雰囲気なのに対して、私達は街ではなく鐘を見つめながら感動を分かち合っていた。
「これを採取するには、かなり道具が必要なはずです。一人では採取が難しいですよね」
「あぁ。その通りだ。おそらくかなりの人数が必要だっただろう」
私はそんな会話をしながら、やはりアスラン様とのお出かけはとても楽しいなと心が弾むのを感じたのであった。
私達はその後も町を見て回り、昼食をとるために食事処へと入ることにした。
何を食べるか迷ったところ、アスラン様からせっかくなのでローグ王国の名産品が食べられる店にしようと、昔からある老舗へと入った。
結構大きな店であり、そこにはたくさんの人がいた。
旅行者が多いようで、私とアスラン様は席に腰掛けると様々な楽しそうな会話が聞こえてきたのだけれど、気になる声が聞こえた。
「そういえば、最近、隣国のレーベ王国では聖女アイリーン様が体調を崩しているそうよ」
「あぁ! 聞いたわ。優秀な聖女様で、その力は折り紙付きって言われていた方でしょう?」
「そうそう。早く回復されるといいわねぇ」
「本当ねぇ」
私はその言葉に、心臓がぎゅっと締め付けられるような思いと、頭の中が混乱して、視線を泳がせた。
アイリーンが体調を崩している? あの元気いっぱいで、一度も病気をしたことがないアイリーンが?
「シェリー嬢? 大丈夫か?」
私は、そんな心配してくれるアスラン様の言葉に返事が出来ないほど、動揺をしていた。
最近、甘い物すぐ食べたくなるんですよ(*'ω'*)痩せたいなって、思っているけれど、どうにも……まぁ冬に向けて蓄える人間の本能だってことにしてます(●´ω`●)