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十三話

 ただ、すでに夕暮れを迎えており、開いている店は限られているだろう。


 そう思っていると、アスラン様は少し考えてから口を開いた。


「この時間になると、どちらかというと飲み屋の方が賑わい、装飾店や衣類店は閉まっていくのだが、知り合いに、洋服や小物を扱う店がある。そこを見に行くのはどうだろうか」


 まだまだ街のどこに何があるのかなど把握していなかったので、そうしてもらえる方がありがたいと私は大きくうなずいた。


「嬉しいです。全然お店とか分からないので」


「うむ。では行こうか」


「あ、はい」


 さりげなくエスコートの為に手を差し出され、私はこうした扱いに慣れていないのでいつも戸惑ってしまう。


 一緒に帰る時などアスラン様はいつも自分を女性のように接してくれるのだけれど、まだまだ慣れない。


アスラン様は屋敷から馬車を用意してくれて、私達は共に馬車に揺られて街へと向かった。


 街の街頭に明かりが灯り始め、街には肉を焼く匂いや人々の楽し気な笑い声が響いていた。


 こんなに賑わっている夜の街に降りるのは初めてで、私は少し緊張しながらその様子を窓から見つめた。


「ここで降りよう」


「あ、はい」


 賑わっている街の路肩で私達は馬車を降りて歩き始めた。


 空が暗くなってきているのに、街は明るくて、その賑わいに私は少しだけ心臓がドキドキとした。


 お酒を飲み始めた人々の、陽気な声やたまに歌声なども聞こえてきた。


「夜の街を歩くのは、初めてかもです。その、行きつけのバーは田舎の小さなところなので、なんというか、華やかですねぇ」


 そう伝えると、アスラン様はそうだったと思い出したかのように言った。


「早めにシェリー嬢行きつけのあのバーにも行かないとな。あの時は緊急事態とはいえ、プライベートな時間に申し訳なかった」


「あ、いえ。そうですね。マスターのお店好きなので、おすすめお伝えしますよ」


「楽しみだ。ついたぞ。ここだ」


「ここですか?」


 表には看板などは一切なく、店には明かりはついているようだがカーテンは閉まっていた。


 やっているのだろうかと思うけれど、アスラン様は扉をすぐに開けて中へと入っていく。


 私は慌ててその後ろについていった。


「わぁぁ」


 お店の中はおしゃれな雰囲気で、ガラス細工のライトがお店の雰囲気をさらに素敵に彩っていた。


「おう。珍しいなアスラン」


 店主は金色の髪に赤と青のメッシュを入れており、丸眼鏡をつけている。洋服の着こなしもおしゃれであった。


「あぁ。今日は彼女の洋服と小物が見たくてな。店を見てもいいか? シェリー嬢。この店の店主のライダーだ。ライダー彼女は私専属の採取者のシェリー嬢だ」


 アスラン様がそう言った瞬間、ライダー様は目を大きく見開き輝かせた。


「シェリー嬢ってあの天才採取者のシェリー嬢か!? わぁぁ。嬉しいなぁ。あ、そうだ。もし、もしでいいんだが、欲しい魔石があって」


「ライダー。今日は客だ。もし商談を持ち掛けたいなら、彼女は魔術塔所属なのでそこを通してくれ」


「げ……っく。分かったよ。とにかくシェリー嬢、いや、シェリーちゃんって呼んでもいいかな? 俺のこともライダーって呼んでくれ」


「え? あ、はい。ライダー……様?」


「可愛い! え? 何、めっちゃ磨けば光る原石!!! 可愛いなぁ! 今日は何を見に来たの? えぇ~。じゃあお近づきのしるしに今日は俺がプレゼントしちゃうよ?」


「断る。シェリー嬢。私が買うので、ライダーに買ってもらう必要はない」


「え? え?」


 私は何故か二人の間で火花が散り始めたのを見て慌てて言った。


「あの、私、その、少しですけれど自分のお金を持ってきているので! 大丈夫です!」


 そう言ってお財布を取り出したのだけれど、実のところその財布もボロボロで、私は恥ずかしくなってさっと隠した。


 それを見たライダー様は何故か瞳をウルウルさせた。


「ちょっと待って、なんか心に来た。ちょっと、うん。とにかくお金は後で! お願いだから原石を磨かせてくれ! さぁ! まずはシェリーちゃんの好みを教えて。どんなものが好きで、どんなものがあまり好みではないか、それを教えてほしい!」


 瞳をキラキラとさせながらそう言われ、私は、どう答えたらいいのだろうかと、口を開けて固まってしまった。


「あ……」


 何が好きか。


 私は採取者としての買い物は基本的に実用重視であって、好みどうのこうのではなくて、よくよく考えてみれば、どんなものを自分が好きなのかが、分からない。


 それが恥ずかしくて、私は手をぎゅっと握って固まってしまった。


 アスラン様は、そんな私の手を取ると、店に並んでいる小物の所へと移動して指をさした。


「私は女性ものにはあまり詳しくはないのだけれど、こうした物をシェリー嬢がつけていると可愛いのだろうなと思う」


 指さされたそれはヘアピンで、可愛らしいガラスの蝶が付いていて、キラキラとしていてとても可愛かった。


 アスラン様はそれを手に取ると私の髪の毛に翳してみて、楽しそうに笑った。


「ほら、良く似合う」


 胸の中にしまっていた、苦い思い出の中の宝物のヘアピンが過っていく。


 私は、アスラン様に笑みを返すと頷いた。


「可愛いです。ふふふ。アスラン様に選んでもらえるなんて、光栄ですね」


「そうか? ライダーの店は品ぞろえがいい。色々見てみて、シェリー嬢がいいなと思う物を教えてほしい」


 私は頷き、ライダー様の方を振り返ると言った。


「お店、見てもいいですか? あまり自分の好みが分からなくて」


 正直に言うとライダー様は大きく頷いて、それから店の中を指さした。


「そっちには小物が、奥の方にはバックとか、反対側には洋服が置いてあるので、好きに見て。ははは。アスランの笑顔なんて珍しいものを見て、心臓がばくばくしてるぜ」


 ライダー様は胸を押さえてふぅーっと大きく息をついており、そんなにアスラン様の笑顔は珍しいかと首をかしげたくなった。


 結構笑う人だなという印象だったので、不思議だ。


 その後、私はアスラン様と一緒に店内を見て回った。可愛らしい物はたくさんあって、やっぱり私は自分がどれが好きというのがあまり分からなくて、ちらりとアスラン様の視線を探ってしまう自分がいた。


「シェリー嬢。別に今日無理に選ぶ必要はない。自分の好みの物が見つかるまで、ゆっくり探せばいい」


 その言葉に、私は胸の中がドキリとした。


 多分アスラン様は私が戸惑っていることに気付いてくれてそれで私が選べるように待っていてくれているのだ。


「ありがとうございます……」


「だが、せっかくだ。今度一緒に出掛ける時の洋服一式とアクセサリーはプレゼントさせてくれ。この前突然仕事に巻き込んでしまったからその礼だと思ってくれ」


「え? でも」


 戸惑っている私に、店の椅子に腰を掛けてこちらを見守っていたライダー様は楽し気に言った。


「シェリーちゃん。男のプレゼントは笑顔で受け取っておくといい。大丈夫。さっき俺も急にこの身とか振ってしまって戸惑わせてしまったから、割引しておくから」


 ウィンクされながらそう言われ、私は笑いながらうなずいてしまった。


 アスラン様とライダー様は仲がいいのだろう。その後は私のことをじっと見つめながらどの服が似合うだろうかと、お互いに服を出し合ったり、私に選ばせてくれたり、楽しい時間を過ごすことが出来た。


 人と一緒に買い物をすることも初めてで、私はこんなに楽しいのだなと思ったのであった。


 冬になると、カフェオレと紅茶をよく飲むのですが、最近、レモンを切って紅茶に入れるとやはり美味しいのだという事を改めて実感して、レモンをよく買います(*´▽`*) 砂糖を入れるか入れまいか、悩むところですが、やっぱり入れた方が美味しいなとは思います(/ω\)

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