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十一話


 しばらく経ち、落ち着いたアスラン様は小さく息をつくと言った。


「私達は幼馴染でな、志を同じくして、国をよくするためにとこの国で学んできたのだ。それなのに、ジャンは呪いなど……はぁ。とにかく命が助かってよかった。シェリー嬢。君のおかげだ。本当に感謝する」


 そう言うとアスラン様は立ち上がり、そして私に手を伸ばすと、私を立たせてくれた。


 アスラン様の手は大きくて、なんだか、何度か手を引かれたことがあるのに、今になってその手が触れることにドキドキとしてしまう自分がいた。


「役に立てなら、良かったです」


 私がそう言うと、アスラン様は優しい笑みを浮かべた。


「君の遠慮がちなところは魅力ではあるが、もう少し傲慢になってもいいのではとも思う。公にはならないが、君は確かに、今日、王太子の命を救ったのだ。この国にとって将来ジャンは必要不可欠な存在となる。その命を君は、救ってくれたのだ」


 アスラン様はそう言うと、ぎゅっと私の手を両手で握り、頭を下げた。


「本当に感謝する。王太子を、いや、友を救ってくれたことに心より君に感謝する。ありがとう」


 私はただの採取者で、採取した物を提供しただけだ。


 そう、これまでは思ってきた。


 すごいのは聖女アイリーンで、私はただそれに必要なものを取って来ただけの存在。


 けれど、アスラン様は私に感謝を伝えてくれる。


 ありがとうと言ってくれた。


 それがどれほど嬉しいか、きっと私以外の人にはこの胸の中にうずく喜びが分からないだろう。


「お礼に何でも言ってくれ。公には出来ないので王国より勲章は出せないが聖女の涙に匹敵する特別手当はだそう。さぁ、とにかくそれとは別だ。今日は君の願いを叶えられるものは全て叶えよう」


 私は太っ腹だなと思いながら、アスラン様も疲れているのにと苦笑を浮かべた。


「大丈夫ですよ。だって私はアスラン様専属の採取者ですから、力になるのは当たり前で」


「違うぞ」


「え?」


「当り前ではない。君が私の採取者になってくれたことは私にとってなんと幸運なことか。君がいてくれて、私は心から嬉しいのだ。さぁ! 言ってくれ」


 そう言われ、私はどうしようかと思いながらも、今日はさすがにアスラン様の体調を優先したいという思いがあった。


「なら……あの、今度の私の休みの日に、よかったら、街を案内していただけませんか? まだローグ王国の街中を散策したことがないので」


 そう伝えると、アスラン様はすぐに頷いた。


「喜んで」


「よかった! じゃあ次のお休み、楽しみにしていますね?」


「あぁ。私も有休を使い休むので、二人で楽しもう」


「はい!」


 私は元気よく返事をその時はして、今度の休みが楽しみだなぁと胸を高鳴らせた。


 しかし、夜になってふと気づいた。


 二人きりである。


 休みの日に街の散策である。


それは、誰がどう見てもデートであろう。


 私は無意識に、アスラン様を自分からデートに誘っていたという事実に気が付き、恥ずかしさからベッドの上でのたうち回った。


 ふわふわのベッドの上で転がりながら、私はごろごろと転がりまわった。


「はぁぁぁあぁ。どうしよう。アスラン様、変に思っていないかしら」


 好きでもない人間からデートに誘われて嬉しいと思う男性はいないだろう。


 そう思い、私は何故気づかなかったのかと自分を責め立てる。あれは冗談でしたと言って断った方がいいだろかとも思うけれど、アスラン様のことだから、それではお礼を回避することは出来なさそうである。


「あぁぁあぁ。私ってばかばかばかあぁぁ」


 私はベッドの上でのたうち回った後に起き上がり、部屋を見渡した。


 白と可愛らしいお花の文様を基調とした部屋は、女の子の理想が詰まっているような雰囲気で、今まで部屋の家具やベッドやカーテンなど気を遣う事すら出来なかった私にとっては、夢のようなお部屋であった。


「こんな素敵な部屋に、美味しいご飯、あったかいお風呂……ここは天国みたい」


 今の現状、本当に幸せをアスラン様にもらいすぎである。


 なのにデートまで。


「わぁぁぁぁぁん。私、私……幸せすぎて死ぬかもしれない」


 なんだかんだ、アスラン様とのデートが楽しみでしょうがない私は、しばらくしてハッとした。


「……服……」


 可愛らしい洋服なんて一着も持っていない。


 持っているのは動きやすい服、寒くない服、水を通さない服。つまり、採取者として動きやすくて使いやすい物ばかりである。


「靴も……ない」


 持っているのはブーツ。岩山だろうと泥濘だろうとこのブーツさえあれば大丈夫だけれど、デートには、普通は、履かないだろう。


 私は静かに、ベッドの枕を抱きしめた。


「断ろう……」


 さすがに無理だろう。次の休みまで、服を買えるような休みもないし、それになによりどこで買えばいいのかもわからない。


 今までおしゃれをしたことなど一度もなく、アイリーンが神殿から作ってもらったドレスを着ているのを見る度に、可愛いなと思っていただけで、自分が着るものとは思ってもみなかった。


 買い物はもっぱら採取に必要な道具が中心で、可愛い物はピン一つ買ったことがない。


 女として終わっている。


 そんなことを自分自身に対して思って、私は枕をぎゅっと潰すように抱きしめた。


 可愛い物が嫌いなわけではあい。どちらかと言えば白くてふわふわしているものや、鼻だって好きだし、ひらひらしたものも、好きだ。


 ただ、自分にはこれまで縁のない物だった。


 昔、両親がまだ生きていたころに両親に可愛いヘアピンをねだったことがあった。


 いつもはアイリーンの物ばかり買っていたからと、お母さんがたまにはあなたにも買ってあげなきゃねと、買ってもらった。


 キラキラとした石のついたヘアピンはとても可愛らしくて、私は宝物だと思って、大切に使っていた。


 けれど、ある日アイリーンが私のそれを見て、欲しいとねだった。


 だめだと言ったら泣いてしまって、お母さんとお父さんにお姉さんなんだから譲ってあげなさいと言われた。


 でも、私にとってはたった一つの宝物だったから嫌だって思ったけれど、アイリーンが泣きわめいて両親に怒鳴られて、結局貸してあげた。


 そう。あげたんじゃなくて、貸してあげたつもりだったけれど、その日の夕方、アイリーンはヘアピンを壊して帰って来た。


 キラキラと光っていた石は取れていて、直そうとしたけれ無理だった。


「だってそれ、すぐ髪につけてもずれていらいらして、ふんずけたら砕けちゃったの。お姉様には似合ってなかったし、別にいいでしょ」


「アイリーン……私、これ、貸しただけだったのに、借りた物を壊したらだめでしょう?」


「何よ! 私が悪いの!? お姉様っていじわるね!」


「あのね、違うでしょう? 自分が悪かったらちゃんと謝らないと」


 そう伝えた途端、アイリーンは叫ぶように泣き始め、両親から私は怒られて、結局ヘアピンの事はそのまま謝られることもなかった。


 あれから、私は可愛らしい物を欲しいと思わなくなったのだ。


 壊してしまったら嫌だから。


「せめて、ヘアピンだけでも……仕事の帰りに買おうかな」


 私は、鏡の前に移動すると、髪の毛につけるヘアピンを明日買おうと、意気込んだのであった。


 自分の大切なものを取られるのって、ショックですよね。泣いちゃう(´ω`*)


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