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078  俺の勝ち

「練術……!」

「雷撃魔法、ギガライトニング!」


 魔の導きの内二人が結晶に手を触れ、魔法を唱える。

 結晶は紫色の光を放ったかと思うと、次の瞬間には超威力の雷撃魔法がこちらに迫っていた。


「メーネ!!」

「ブラックウィンド」


 メーネの体をそちらに向けると、彼女は自衛の為に魔法を唱える。

 黒い風が吹き荒れると、雷撃魔法が霧散した。

 メーネ、つっよ……。


「意外。そのゾンビをその様に使うとは」

「お前ら、メーネに一体何したんだよ……! なんで死んでんのに動いて、魔法まで使わされてんだよ!」

「話すわけもなし。アイスジャベリン」

「炎撃魔法、ギガフレア!」

「く……!」


 俺はメーネを抱えて跳ぶ。

 ルーンの使うフレアよりも数倍威力の高い炎が部屋に広がる。地面を蹴り、壁を蹴り、男たちの結界の内側に逃げ込むが、氷柱だけは撒けない。

 俺の右足を掠めると、氷柱は地面に当たり砕けた。その様子を見て気付く。

 部屋の奥に棺があり、いくつかの蓋が開いていて中が見える。……死体はまだまだ保管されている。


「まさか、人を殺して保管して、今のメーネみたいに操るつもりか……!」

「小異。これほどの魔力を宿していたのはこの少女のみ、それらは単純な命令しか聞かない木偶人形に等しい」


 死霊術師のリーダー格のような男が答える。


「……この人でなし」

「少年。一体どちらが人でなしか。今のようにそのゾンビを自分勝手に操ることこそ、人でなしではなかろうか」

「お前らの言えたことかよ!!」


 俺は剣を抜こうとして気付く。先程ソリスに飛ばされたままどこかに飛んだんだった。

 素手で戦わざるを得ない。そう決めて、メーネを抱えたまま、練術を使用する。彼女の体ごと練術が覆うと、その頬が若干赤らんだ気がした。


「光身連撃!」


 俺の体が光り輝き、高速で動く。部屋には残像のみとなる。

 男たちは構えるが、圧倒的に反応速度が遅い。


「があ!」


 結晶に触れていた男たちを吹き飛ばすことに成功するが、リーダー格だけは杖で俺の蹴りを受け止めた。


「愉快。このような力を持つ者がいるとは」


 俺は一旦距離を取ると、膝をついてギリリと歯を食いしばった。メーネを抱えた今、俺の体術はかなり弱体化している。

 一発の威力に乗せられる力が、メーネの体を傷つけないように手加減しているから。


「剣さえあればこんな奴……」


 気付けばそう呟いていた。刃に練術を乗せれさえすれば、こんな奴ら一撃で倒せるのに。

 そう思ってチラと外を見る。向こうの方で青く輝く刀身が見えた。

 男たちが折角結晶から手を離しているんだ。今追撃をしなければまた振り出しにも戻される。故に剣を取りに行っている暇がない。

 小さく舌打ちをすると、腕の中で少女がモゾリと動いた。


「アトラクト」

「メーネ……?」


 謎の魔法を唱える。

 しかし何も起こらない。

 だというのに死霊術師が目を見開いて驚いている。


「何故……?! ゾンビが……!」

「何が起きて――!」


 そして気付く。

 俺の手元に向かい、剣が飛んで来ている。

 いや、正確にはメーネの手元だった。彼女は俺の脇の間から手を伸ばし、剣へ向けて魔法を使っていた。

 一秒にも満たない時間で、彼女がパシッと剣を掴む。

 そして俺に向かってそれを差し出す。


「メーネ……!」


 いつの間にか開いたままだったはずの口が閉じていた。相変わらず表情はないが、その目の奥には光を感じる。

 生き返ったわけでは決してない。ただ、確実に今までとは違う意識を感じた。


「しっかり掴まってろよ、メーネ」


 俺がそういうと、彼女は確実に俺の首に巻いた手に力を込めた。


「今、終わらせてやる!」


 そして俺は死霊術師へと斬りかかる。


「金剛剣!!」

「なァ!?」


 男の杖が真っ二つに割れる。

 そしてその勢いを止めないまま結晶へと向かう。

 練術を高める。気を込めろ、最高速度でこれを砕け!


「うぉおおおおおお!!」


 バリン、と部屋に音が響いた。

 腕を押さえて呻いていた男たちも、杖を失いこちらへ走る男も目を見開いた。

 俺は一度斬り付けた結晶の上に飛び乗り、剣を振り上げた。


「やめろおおおおおおおお」

「ライトニング」

「雷装、金剛剣!」


 メーネが魔法を唱える。俺はその魔法を刃に纏わせると、その勢いのまま剣を突きたてた。


「――――!」


 バキバキバキ、と。


「リドゥ!」


 結晶にひびが入り。


「これは……これは一体……!」


 メーネに繋がっていた魔力と結晶が、砕けた。


「はぁ、はぁ、はぁ……!」


 俺は結晶の残骸の上で息をする。

 後ろからソリスとルーンの息遣いが聞こえ、振り返る。

 彼らには何が起きたか理解出来ていなさそうだったが、俺に抱き着くメーネの姿を見て、瞳の奥の炎が消えた。


「ソリス、ルーン。俺の、勝ちだ……!」


 俺は二人の表情を見て頬を引き上げた。

 直後に膝が崩れる。倒れる直前にソリスが駆け、俺を抱きとめた。


「ぐ……ぅ!」


 魔の導きの男たちが呻く。

 立ち上がり、杖をこちらに向けてくる。


「こいつらが黒幕……ってことよね」

「そう、だ。……こいつらは、二人の好きなようにしていい」

「わかった」


 ソリスは俺とメーネをそっと寝かせると、次の瞬間には怒髪天を衝くが如く。

 鬼神と化した二人によって男たちが蹂躙されているのを、ただ黙って見ていた。




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