063 ステラ、ソリスへの思い
ステラがじっと俺たちを見た。何かを言おうとする様子に、俺たちはただ待つ。
やがてゆっくりと口を開くと、彼女はソリスの方へ歩み寄る。
「……本当の最後は、ソリス」
「え?」
困惑した様子を見せるソリス。ステラが、最後は俺の剣だと言っていたので、ずっと表情の暗かった彼女。
ステラに手を引かれるままに布の掛かったマネキンの前に立つ。
「これがソリスの装備」
布が剥がされる。
そこには彼女の髪と同じ、赤い防具。今まで使っていた装備も赤い色だったので、彼女の好きな色は赤なのだろう。
今までの物よりも高級感の漂うその防具に、ソリスは小さく声を上げていた。
「ルーンからソリスの好きそうな色は聞いていた。ソリスの戦い方はとにかくスピード勝負なのと、自身の攻撃から出る衝撃波が強すぎるからその両方をカバーできるように素材を用意した」
その生地を俺も触らせてもらう。
羽のように軽い、という言葉が似合いそうな程で、ただ質感は思ったより硬い。
「デザインは、ソリスはあまり女性らしいものを好まないと聞いた。……だから嫌がらせとしてスカートっぽくしておいた」
「ステラ……」
ソリスが小さく彼女の名を呼ぶ。
先程の発言から俺も引っかかっていた。自分には似合わない、と。
「そう、そうよ。アタシはスカートが苦手。だけど、これなら……」
あまり派手にスカートと言うほどの長さではない。脚装備も在る為、その、なんというか。下着の見える心配も……。
「うげ!」
次の瞬間には地面に叩き付けられていた。
今のは野暮なことを考えた俺が悪い。
「ソリスはもう少し自信を持つべき。美しさを前面に出してもいい。だからこのくらいから始めたらどうかと思った」
「スカートにも見える長さって訳ね……」
ソリスが少し目を潤ませていた。
「そもそもステラを信用しなさすぎだよ、ソリス」
俺は苦笑いをしながら告げた。
「だってステラ、アタシには冷たかったし……。冗談だとわかっていたけど、その、なんていうか……アタシも多少は気にするって言うか……」
「まあ、それはステラも悪かったかもしれないけど。俺もルーンも、実はこの一か月間ソリスの好みとか聞かれてたんだよね」
「リドゥ」
「はい、黙ります」
ステラがジト、とこちらを見たので俺はすかさず返事する。
「……リドゥが言っていたのは嘘」
「……ふふ、そういうことにしておくわ」
ソリスが目元を拭いながら笑った。
「勘違いされると困るから言っておく」
「ん?」
「別に私はソリスを嫌っていない」
「あら、そうなの?」
意外そうな顔で彼女は返事した。
「ボスワームから私を救ってくれた時から、私はソリスのことを凄いと思っている。私はリドゥを取られたくないだけで、ソリスへの感謝と尊敬は別にある」
「そう、なのね」
「そう。だからほんとの嫌がらせは脚装備にしかしていない」
「え!?」
ステラの言葉に、若干感動しかけたソリスが目を剥いた。
俺たちはすかさずしゃがみ、その装備を見る。真っ黒なズボン……と思っていたが少し違う。
「マネキンだとわかりにくいと思うけど、これは脚のラインがかない浮く。多分ソリスが履くと生足よりえろい」
「えぇ!?」
「イエス! よくやったステラ!! ぶげぇッ!!」
叫んだ瞬間、またも地面に叩きつけられた。
それでも怒りが収まらなかったのか、俺の背中をソリスがグリグリと踏んでいる。
「嫌がらせだけど、防御力は間違いない。その辺りの脚装備よりずっと高価で良い物だから、精々脚線美を披露するといい」
「そ、それは……本当、逃げ場のない嫌がらせね」
ソリスが困ったように言うと、無表情なステラは口の端を片方だけ引き上げて意地悪に笑った。
ステラはマネキンから離れると、俺の剣の横にあるもう一本の剣を持った。
「最後にこれ、魔石の剣」
「ええ! アタシにも!? いいの!?」
「いい。採れた魔石が偶然大きかったからソリスの分にも混ぜられた。ほぼ純魔石のリドゥの剣とは違って、ソリスには強度と重さも必要だと思ったから他の鉱石も入ってる」
差し出された剣を抜くと、ようやく俺はソリスの足から解放された。そしてその様子を見る。
刀身は紅色のような赤。他の鉱石による性能強化によって色が青から赤に変わったらしい。魔石の放つ薄い光がそこからも漏れており、ほとんど俺の武器と同じ性能のようだった。
「ありがとう! ステラ!!」
そう叫び、ソリスはステラを抱きしめた。
いつもは迷惑そうに眉をひそめるステラだったが、その表情は困ったように眉を曲げる程度になっている。
「よし、じゃあ早速着替えよう!」
俺たちは貰った装備に着替える。
三人で更衣用のテントを出て、互いの装備を見る。
「か、肩を出すのは何だか恥ずかしいね」
「180cm超えの男が言うと気持ち悪いわね」
「ひどい!」
「ソリスはその装備良く似合ってるよ。控えめだけどすごく可愛い」
「あ、ありがとう」
顔を見合わせて俺たちは笑った。
ステラがソリスに歩み寄り、その裾を引っ張った。
「ソリス、その装備気に入った?」
「ええ、気に入ったわ。ありがとうね」
「よかった。ソリスは可愛いものが好きとは聞いていたから、気に入ってくれると思ったけど多少心配していた」
「可愛いものが好き……?」
笑顔だった彼女がピクリと表情を固める。
嫌な予感を覚えた俺は後退る。全てを察したルーンがニヤニヤとこちらを見ていた。
「リドゥが言っていた。ソリスのパジャマがとても可愛いから、きっと好きに違いないって。力説していた」
「へぇ~~~」
俺は振り返る。
そして全力で走りだす。
「待ちなさい!! リドゥ!」
「待たない! でもごめんなさい!!」
すかさず追いつくソリス。
組み伏せられる俺。
二やつくルーン。
俺たちの新装備には、それぞれ星笛商団のマークが輝いていた。
「ご、ごめんって言って……イデデデデデデ!」
作者体調不良の為更新が停止します。
楽しみにしてくださっている方には大変申し訳ありませんが、今しばらくお待ち頂けますと幸いです。
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