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061 次の目的へ



「魔の導き……か。ステラ、君は知っているかい?」

「知っている」


 シフトの街のギルドへ帰ってきた。ルーンとソリスに今回の出来事を報告する為、ステラにも同席してもらった。

 異常なマージベアの存在、魔の導きを名乗る連中。そしてその連中に目を付けられてしまったこと。それらを詳細に話した。

 ルーンが訊ねると、ステラは頷いた。


「元々魔道具を販売する商団の名前だった。だけど、最近その名前は犯罪者が名乗ることが増えた。それも、全て魔法での犯罪」

「それは同一の組織なのかい?」

「同じだと思っている。使われた魔道具や、襲われた人達がどうも商団の方と関わりがあるようだったから。今は死霊術師と呼ばれていて、魔法犯罪組織の名前として商人の間では広まっている」

「なるほど……資金集めを終えたから、目的の為に動き出したってところかな」


 ルーンが眉をひそめて返す。彼はテーブルの上に置いたコーヒーを一口飲むと、静かに息を吐いた。

 俺が彼らに目を付けられたことを告げた際も、今のように難しい顔をしていた。


「その目的が魔王を復活させること、だったっけ。リドゥが聞いたのは」

「うん。そう言ってた」

「おかしいわね!」


 隣でミートスパゲッティを食べていたソリスが叫んだ。唐突に叫ぶので、俺たちは一瞬体を跳ねさせて驚いてしまう。


「魔王はそもそも倒されていないのよ、復活って何のことを言っているのかしら!」

「封印のことじゃないのか? ギルドが張った結界もそうだろうけど、女神も封印がもたないって言ってた」

「女神……?」


 俺が告げた時、三人がこちらを見た。


「いや、女神の声だよ。聞いたんだ、俺も」

「はぁ!?」


 更に告げると、三人は同時に口を開いた。

 次の瞬間、ソリスが俺の頭を掴んだ。ガシリと掴まれた頭に指が食い込み、ギリギリと嫌な音を立てている。


「イデデデデ!」

「あのねえ! アンタそういう大事なことは先に言いなさいよ! いつ聞いたの!」

「ま、魔物を倒す時だよ! 練術を限界以上に使って気が増大してた時に聞いたんだ。確かにあの時は、常人ではあり得ないほど気を持ってたから一時的に聞こえたんだと思……イデデデ!!」


 俺が返すと、ルーンとソリスは神妙な顔をした。

 いや、なにかを考えるのはいいんだけど、頭から手を離してほしい! 無意識だろうけどめちゃくちゃ痛い!


「あ、ごめん。じゃあ今、アンタは女神の声が聞こえないのね? 聞こうとしても」

「聞こうとしても……って、そうすれば聞こえるのか?」

「……そう。じゃあ一時的に到達しただけなのね。女神の神託者へ」


 そう告げると彼女は俺の頭から手を離した。離し際、ぐしゃぐしゃと髪を乱された。

 何とも言えない感情が込み上げてくる。顔を上げるとステラがじっとりとした目でこちらを見ていた。……何か怒っているようだ。

 ソリスが椅子に座り直すと、ルーンがまた話し始める。


「魔の導きの目的が魔王の封印を解くことだとして、それに魔炎が必要ということなのかな。魔炎の回収をしていたのはそれで合点がいく。だけどアスラやブリーに魔炎を渡したのはイマイチ意味がわからないね」

「そうね。連中も一枚岩じゃないのかも。魔炎を集めて魔王を復活したい、ただ凶悪な組織に所属して破壊を行いたい。どちらも内包できる組織だからこそ、その行動理由がちぐはぐに見えている印象があるわ」


 俺が会ったのは前者の連中だったということだろうか。そしてブリーに魔炎を渡したのは後者。


「リドゥが目を付けられたのがまた、面倒な方ね。思想と信仰心が確立された、組織の中核を担う者達だと思われるわ」

「そういう奴らは確実にリドゥを襲いにやって来る。何せ自分たちの素晴らしい計画を潰したんだからね。さあ、どうしようか?」

「ご、ごめん……そんなところまで考えられていなかった」


 俺は二人に謝罪する。俺が狙われるということは、自ずと近くにいる二人も危ない目に遭うということだ。

 考えなしに行動した結果、二人に迷惑をかける事になってしまった。……こうなれば二人から離れ、俺一人で奴らと戦うべきかもしれない。彼らから仲間を辞めるように宣告される前に、自分から言った方が傷も浅い。

 俺がそう考えて俯いていると、ソリスが俺の肩に手を置いた。その表情は……ニヤニヤと笑っている。


「ふふ、リドゥ……アンタ、アンタねえ!」


 ソリスがそう言って肩を掴む。どんどん力が入ってきて少し肩が痛い。

 彼女のニヤニヤした顔が少しずつ笑顔になり、目が輝き始めると、ルーンが頭を抱えて叫ぶ。


「ああ最悪だ! ソリスがワクワクし始めた! 危険な状態になり始めたってことだ! 僕たち、この先大変なことになるぞ! リドゥ、覚悟してよね!!」

「え……と。俺のこと見捨てないのか? こんな面倒事を抱えてきた俺一人を除外すれば、二人はこれからも安全に旅を――」

「――バカ言わないでよ!良い感じになって来たのよ、リドゥ。魔王討伐を目指すアタシたち! そして魔王復活を目論む悪の組織! アタシとルーンじゃ尻尾を掴むことも出来なかった連中と縁が出来たわ! よくやったわ!」

「え、ええ……? そういう感じ?」


 目をキラキラさせるソリス。頭を抱えるルーン。俺は二人に挟まれて困惑することしか出来ない。

 俺は自分が捨てられる方へ真っ先に発想してしまった。だけどこの二人は違う。


「あのねぇリドゥ。アタシたちは仲間だ。アンタを見捨てることなんて初めから発想にないの」

「ソリスが褒めることはあっても見捨てることはないよ……僕は褒めないからね! 危険なのは好きじゃないんだ!!」

「よくやったとしか言えないッ!!」

「そ……そっか……よかった」


 ソリスが嬉しそうに俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。自棄になったルーンも同様に髪を掻き回してきた。

 二人にもみくちゃにされながらステラを見る。先程同様不機嫌な顔をしているかと思ったが、優しげにこちらを見ていた。

 ソリスがちらと彼女を見ると、慌てて不機嫌そうな顔を作り、ぷいと向こうを向いていた。


「ステラもありがとうね。リドゥを誘ってくれたおかげで、アタシたちの目的に近付けたわ」

「別にソリスの為に行動していない。偶然そうなっただけ」

「そうね! けどアタシはそれでありがとうと思ったのよ!」


 彼女らは相も変わらない。仲が良いのか悪いのか、ソリスだけが一方的にニコニコしている。


「けど、そろそろアタシたちも乗り込むべきかもね」


 ソリスは俺の頭から手を離すと少し真剣な表情になる。

 その言葉に顔を青くしたのはルーン。


「乗り込むってまさか」

「そ。魔大陸よ」


 ルーンが再度頭を抱える。


「ここにいても危険なことがわかったし、リドゥもランク4になった。タイミングとしてはそろそろよね。すぐにでも出発する?」

「ソリス待ってほしい」


 話を進める彼女を止めたのは、意外にもステラだった。


「約束の一か月だけ待ってほしい。もうすぐ準備できるから」

「ああ、リドゥに言っていたわね。なんの準備をしているの?」


 ソリスが問うとステラが無表情ながらニヤリと笑った気がした。

 手には俺の採集した魔石を抱えている。

 そして自信満々と言った様子で告げた。


「リドゥたちの新しい装備が出来る」



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