表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/91

059 変異体、魔炎へ


 と、余裕のない様子を見せるが、実は演技。男は魔炎に耐える俺に驚きながらも、更に魔炎を放った。


「ぐ……ぅう……」


 勢いを増す魔炎。しかし練術によって強化された俺はまだまだ耐えられる。

 数秒の拮抗の後、俺がジリジリと押し返し始める。


「な、何者ですか貴方は! 魔炎に抵抗できる人間なんてッ!」

「う……ぐう……! な、なんとか押し返せそうだぜ……!」


 俺の様子に男が焦ったようにペンダントを握った、そこから放出される紫の光。飛び出てくる魔炎の量から推測するに、恐らく今彼が溜め込んでいる魔炎を全て放ったと思われる。


「この時を待っていたんだよなあ!」


 練術を更に強化。魔炎を受け止める両手が輝きだす。

 以前アスラの体から魔炎を追い出すときに、俺は確かに見ていた。練術による気は魔炎を弾き飛ばすことが出来る。そして、更にその気を圧縮して、密度を高めた高エネルギーのものにすれば、少しずつだが消滅させられることを。


「練術ッ!!」


 両手だけでなく俺の体も輝き始める。魔炎が更に勢いを増して俺を襲うが、手の中の光に触れた部分が、少しずつ消滅している。

 後はこれを全て消しきるまで練術を使って耐え抜くのみだ。


「よう、死霊術師。俺は、耐久戦には自信があるぞ! このままなら俺が勝ちそうだ!!」

「な、んだと……!」


 あえて挑発する。男が焦ったように辺りを見回す。

 そして見つける、瀕死の変異体マージベア。

 男がそれに駆け寄り手を触れる。声が聞こえないが、なにかを詠唱している。すると紫の光が再び満ち、マージベアの肉体が光の粒子へと変化していく。

 光の粒子はペンダントに集まると、禍々しい黒い炎へと変化していく。……そうか、あれが魔炎の作り方か。

 死霊術師が目を見開いて笑う。俺がギリギリで耐えているところへの、トドメの一手を手にしたのだ。

 そして数瞬の後、魔炎が俺へと放たれる。


「へ、変異体の全てを魔炎に変えてやった! これでもうここで魔炎を作ることが出来なくなりましたが、貴方だけでも焼き殺すことが出来るッ! へ、へへ……ざまあ見なさいぃ!!」

「うぐぅッ!」


 魔炎が俺の体を襲う。気で体を纏っている為体は焼かれていない。

 だがそれも時間の問題だ。少しずつ練術の力が食い破られているのが感じられる。このままでは死んでしまうかもしれない。


「へ、へへ……! へへへへへへははははははッ!」

「笑ってられるのも今の内だッ!!」

「!?」


 男が目を剥く。当然だ。

 魔炎を纏ったものは恐らく即死か、アスラやブリーのようにその身に魔炎を宿し、負の感情の暴走を招くのだろう。しかし俺はそれを体に纏ったまま死霊術師の方へ走り出す。

 男は腰を抜かして倒れると、俺は思いきり体当たりを繰り出し、その体にのしかかる。


「ぐあああああああああ!!」

「さあ、どうするよ! 自分も焼かれてしまうぞ!」

「ぐ、ううううううううううう!!」


 男の肌が見る見る内に、ドス黒く変色していく。魔炎で焼かれるというのも、かなりグロテスクで目を逸らしそうたくなる光景だ。

 奴は堪らずペンダントを握る。そして俺には理解できない言葉を叫んだ。

 ……ここまでが俺の計画だ。魔炎が無事、ペンダントの中へと収束していく。


「はぁ……はぁ……はぁ……!」


 男と俺が同じように呼吸を荒くする。次いで男が何かを言おうとする瞬間、俺の拳が奴の頬にめり込んだ。

 そしてネックレスを引きちぎって奪い取る。


「こ、これで俺の勝ちだ……!」


 俺は立ち上がり、男の様子を見守る。

 白目を剥き、ビクビクと痙攣しているが、なにかを言おうと口をパクパクと動かしている。


「ま、魔の導きは……! 貴方、を……必ず……!」

「……」

「許さ……な、い……」


 そして、男が完全に倒れた。

 魔の導き。死霊術師。人々に魔炎を広め、魔王復活を目論む集団。

 今ここでこの男たちの口を封じれば、当分俺の身は安全だと思った。

 だが……。


「魔石、パピリティス……今回はこれだけを回収しに来たから」


 俺に人は殺せない。

 戦っている時は、それこそ殺す気で戦うが、こちらが一方的に殺せる状況で俺はその選択肢を選べなかった。

 変異体マージベアの体は完全に消失していた。その代わり、大きな魔石がその場所に転がっていた。

 俺はそれだけを抱えて、洞窟を飛び出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ