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049 決着後、ブリー



 ブリーはあの後意識を取り戻したらしい。あいつの運ばれたという部屋の前まで来て、少し溜め息を吐く。

 アスラのように意識を完全に乗っ取られていた状態ではなく、ある程度本人の意思で俺を襲ってきていた。それもあり、あいつのいる部屋に行くのは妙に嫌な気分だった。

 扉を開けると清潔な白い壁と天井に囲まれた部屋になっており、その壁際、ブリーがベッドの上にいた。


「リドゥール……!」

「なあお前、あの力どこで手に入れたんだ……!」


 入室した俺に気付き、ブリーが体を起こして睨みつけてくる。俺も挨拶もせず、睨み返しながら訊ねる。

 質問に、奴は少し驚いたように目を開いた後ニヤニヤと笑い始めた。


「なんだ、お前もあの力が欲しいのかァ?」


 どういう発想をすればそうなるのか、と俺は深くため息をついた。


「違う、俺はあの力を与えている奴を探したいんだ。高ランクのギルドメンバーはその力を与えられて苦しんでいた。その次にお前があの力に呑まれた。これ以上被害者を出したくない」

「被害者ァ? 俺がかァ?」


 ブリーは一層嫌な笑みを浮かべて俺に投げかける。


「その高ランカーがどうかは知らねェが、俺は違うぞォ? リドゥール。俺は奴に誘われ、俺の意志の上であの力を受け取った。闇を抱いた心をよく燃やす、黒き炎をなァ~」


 俺はつかつかとブリーの元まで歩み寄り、胸倉をぐいと締め上げる。

 相も変わらずニタニタと笑うブリーに、苛つきが募っていく。


「その力だよ! それをどこで、誰から受け取ったのか答えろ!」

「死霊術師って、知ってるかァ?」

「死霊術師……?」


 聞きなれない言葉に俺は眉をひそめる。


「魔王復活を企むヤベー奴らだよ。探したきゃそいつらを探せ。俺も噂でしか知らなかったし、まさか本当にいるとは思ってなかったがな」


 それを聞いて俺はブリーから手を離す。知っている情報を話し始めたから、これ以上締め上げる必要はないと考えたからだ。

 だが、予想以上に口を割るのが早い。何か裏があるのではないかと疑ってしまう。

 それを訊ねると、ブリーが表情を一変させ笑みを隠した。


「……あの力に焼かれている時、お前への憎しみに染まっていた。俺があれを制御出来ていたのはほんの一瞬で、その後はただただ苦しみしかなかった。それを解放したのもお前だ。……悔しいけど完敗だった」


 目を伏せるブリーに心底驚いてしまい、俺は声を失う。

 こ、こいつがこんな表情するなんて……気持ち悪い!

 が、ブリーの言葉は意外にも本心なようで、奴は黙ったまま俯いた。


「だ……だから俺に死霊術師のことを教えたのか?」

「……。奴らは心に憎しみや恨みを抱える人間に声を掛けて、素質があればあの力を渡すらしい。あの炎を見た瞬間、俺の憎悪が増幅したのを覚えている」


 ブリーは俺の質問に答えなかった。

 奴の性格的に、これ以上俺への恩義などを口にすることが出来なかったのだと思う。その代わり自らの経験を語る。


「黒いローブを来た男だった。胸にドクロと十字架のネックレスを下げていた。自分で死霊術師のことを語っていた……魔王を復活させるとか言っていたことも」


 そしてブリーは自らの知る情報を次々と話していく。


「――ってところだ。俺が知るのは」


 全てを話し終えたのか、ブリーは言葉を一度区切る。

 ブリーの発言の中、魔王復活という言葉に俺は少しの違和感を覚える。だが、思考を巡らせようとした瞬間、枕が俺の顔面に飛んできた。

 寸でのところで受け止めると、ブリーがもう布団に潜り込んでいってしまっていた。


「もう帰れ。お前の顔なんてこれ以上見たくもない」

「……俺もお前の顔なんて見たくないよ、ブリー」


 俺は後ろを向いて歩く。

 扉を開け、出ていく直前、俺は奴の背中に向けて言う。


「でもありがとう。お前のくれた情報がきっと俺たちにとって有益なものになると思う」


 ブリーの背中が少しモゾリと動いた気がした。

 扉を閉める。俺は無意識に握っていた手を開く。一昨日感じた震えはもうない。トラウマは完全に克服したようだった。






「リドゥール・ディージュ様はいらっしゃいますか?」


 宿泊棟から出てきた俺は、自分の名前を呼ぶ声を聞いた。

 依頼ボードの前に受付の女性が立っており、俺の名を呼んでいる。


「あ、リドゥール・ディージュは俺です」


 駆け寄ると、女性はホッと一息吐き、俺を受付へと促した。

 俺がカウンターにもたれかかると、女性は対面に座り、紙を二枚出した。片方は規約が色々と書いてあり、もう片方は依頼書だ。


「まず、先のトーナメントの結果からランク昇格の手続きを行ったことをお伝えいたします。これがランク4の証です」


 俺は預けていたネックレスを返してもらう。四本目の線が増えている。

 ニヤケるのを我慢しながら、俺はそれを首にかける。


「ランク4になりましたので、魔大陸への移動が許可されました。と言ってもその中での限られた区域内だけですけど」


 前にソリスが言っていた。ランクを上げることで魔大陸の中の制限がどんどん解かれていくらしい。

 俺はその第一段階に上がれたということか。

 女性はそれに伴う規約の書かれた紙を俺に差し出し、説明を始めた。一応真面目に聞いているのだが、今一つ内容が頭に入って来ない。地頭の悪さがここに来て影響してきている。後でルーンに聞こう。……と思っているのもダメかもしれない。

 そして説明を終えると、女性はもう一枚、依頼書の方を俺に差し出す。


「今説明した現在所属しているギルド支部登録の件ですね。ランク4以上になると名指しで依頼を受けることがあり、早速一件来ていました。受けるの断るのも自由ですが、どちらにしても私たちの方へ報告に来てください」

「へぇ……名指しで」


 差し出された依頼書を見る。


『私とデートすべき。報酬:応相談。条件:昇格祝いに追加材料が必要になったので一緒に採りに行ってほしい。指定:リドゥール・ディージュ』


「……なんだこれ?」

「依頼人の氏名はこちらですよ」


 受付の女性が妙な微笑みを俺に向けながら依頼書を指差す。

 色々ツッコみたかったが、まずは依頼人を確認する。


「……あ~なるほど」


 ステラ・オクロルム。

 彼女の名前がそこにあった。



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