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045 トーナメント二戦


「ブリーと当たるのは三回戦か……」


 トーナメント表を配られた俺は呟く。

 出場者が全部で16人。トーナメントで上位二人が決まればよいので、最大三回戦までだ。

 全員が集まるはずのこの演習場で、ブリーの姿が見えない。観客も出場者も関係なく入り乱れている為、すぐ見つけられなくても何もおかしなことはないのだが……。


「これが昔リドゥをいじめてた奴の名前ね。今どこにいるの?」

「あ、うん。昨日ぶっ飛ばした奴だけど……どこだろうか」


 ソリスとルーンも応援に来てくれた。二人には既に事情を話している。

 自分が昔弱くていじめられていた、なんて話聞かされる方も迷惑だろうし、自分自身でも話して楽しいものでもない。だが、話してみると案外何ともなく、彼らも普通に聞いてくれた。そういうことがあった、ただそれだけのこととして受け入れてくれた。

 拍子抜けするほど変わらない彼らを見て、俺は心底安心した。


「参加者をある程度偵察してきたけど、骨のありそうな人はいないね。実力を隠しているだけの人もいるかもだけど、リドゥの当たらない8人の一人、アヅイェ・トイラクシって人は強そうだったね」

「アンタよくこの中で参加者見付けられたわね……。え、じゃあブリーって奴も見付けたの?」


 ソリスが訊ねるがルーンは首を振る。やはりいないようだ。

 しばらく三人で話をしていると時間がやって来る。観客席が外周をぐるりと囲うように配置され、二人はそちらの方に行ってしまった。

 なんというか、ただの昇格試験のはずなのに一大イベントのようになってきた。見ると、向こうの方で商人たちが食べ物を売り歩いていた。なるほど、この騒ぎは商人も一枚噛んでいそうだ。


「さて……」


 俺は呟きつつ辺りを見回す。昨日も思ったことだが、演習場はとても広い。四組の対戦が同時に行われるらしく、向こうの方では既に戦闘が始まっていた。


「俺の対戦相手はお前だな? ガキが相手とはラッキーだなァ」


 金髪の男が俺に声を掛ける。見るからに軽薄そうな外見に、俺は辟易する。

 相手は20代中頃と言ったところだろうか。こちらが15の子供だからと完全に舐めきっている。10程年齢の違う子供がここにいる意味を、彼は全く考えていないようだ。

 俺たちは向かい合うと、ギルドの職員の合図を待つ。


「はじめ!」


 声をきっかけに男が飛び出してくる。

 初めての対人戦だ。ソリスとルーンばかりと手合わせしていた為、自分がどのくらい強いのかがわからない。この対戦をきっかけにその辺りが見えればいいが……。

 男の動きは遅い。俺は警戒してその動きを見るが、別段何かを企んでいたり、意味のある遅さではなさそうだった。単純に、ただ遅い。


「死ねやあああああ!!」


 男がこちらに剣を振って襲い掛かって来る。相手を殺すのはダメだろうに、全力で振りかぶってきている。


「うーん……どうしようかな」


 俺は迷った挙句その攻撃をギリギリで避ける。異常に剣が遅く見えるのは、ソリスとの修行の影響か。

 刃に映る自分と目が合いながら避けると、男は勢いよく俺の横を通り過ぎていく。かなり剣の扱いは手慣れていそうに見えるが、ソリスどころか俺よりも無駄な動きが多い。この感覚の違いはなんなのだろうか。

 未だ俺は剣を抜いてすらいないが負ける気がしない。


「今のは危なかったみたいだなァ~ギリギリじゃねえかよォ~」


 男がニヤニヤとしながらこちらに向き直る。あまりに的外れなことを言われたせいで俺は苦笑する。

 再度男はこちらへ走る。今度は分かりやすい程振りかぶってはおらず、突きの姿勢だ。刃の長さがわかりづらくなり、避けるのは容易ではない……こともないか。


「ハッ!!」

「はぁ……」


 突きが飛び出してくる。しかし遅い。遅すぎる。

 溜め息交じりに避けると、俺は剣を抜く。


「ちょろちょろ避けやがって……鬱陶しいな!」

「リドゥー、遊んでないでさっさと倒しなさーい」


 ソリスが背後から俺に呼び掛ける。

 振り返ると、観客席から彼女が呆れたような表情でこちらを見ている。かなり退屈そうだ。


「余所見なんてしてて良いのか!? なァ!!」

「余所見してんのはそっちの方」


 男が俺の間合いに入り、またわかりやすく剣を振りかぶっている。二度避けられて苛ついているらしい。動きが単調にもほどがある。

 俺は持っていた剣をくるりと回すと、柄を顎に目掛けて突き刺す。男はそれが目に入っていない。死角からの攻撃となる。


「へうッ!?」


 そのままクリーンヒット。白目を剥いて倒れる。

 ……なるほど、この程度の実力なのか。このくらいの奴があのスモールドラゴンを倒せるのか……?

 俺たちの試合を見ていた観客が歓声を上げた。ギルドにかかわる人たちというのは、相変わらず血の気の多い人ばかりだなあ。

 観客席の方でソリスが手を振っている。何か叫んでいるようで。


「へいリドゥ! へい! へい!」

「え、あ、ハイタッチ?」


 彼女の元へ行き、手を合わせる。次いで隣のルーンとも手を叩き合う。


「ま、この程度の相手に喜ぶことはないわよね! けど、せっかくのお祭りなんだから楽しまないと」

「ああ、やっぱお祭り感覚になってるんだ。そうだよな、皆大騒ぎだもんな……」

「リドゥ、次の相手が決まったみたいだよ。いっておいで」


 ルーンに促され、また演習場の真ん中の方へ行く。トーナメント表の俺の方が二回戦に上り、対戦相手の名前を見る。

 次に現れたのは先程の男よりも少し年下くらいの女だった。思わず目を逸らす。

 露出が多すぎる。いや、確かに肩や膝、脛などの要所要所はしっかりと鎧があるのだが……。


「あら、坊やには目に毒かしら? うっふん~なんちゃって」

「ぐっ!」


 女は腕を使い、胸を寄せあげる。

 俺は鼻を押さえて全力で首を横に向ける。……目が自然に正面を向こうとする。ダメだ! 見ちゃダメだ! この体には刺激が強すぎて――


「あだァ!?」


 突如襲い来る衝撃。後頭部に当たったのはどうやら石のようで、振り返るとソリスが恐ろしい目でこちらを見ていた。

 ルーンがたしなめているようだが焼け石に水――ああ、ルーンが殴り飛ばされて吹き飛んでいってしまった。


「真面目に戦いなさいよね!」

「は、はい!!」


 俺はまたも向き直り、女が構えるのを眺める。武器はその見た目には合わない程大きな剣。ロングソード、クレイモアと呼ばれる類だろうか。刃の長さが俺の剣の非ではない。


「はじめ!!」


 女がこちらに駆け寄る。揺れる、揺れる、揺れる大きな――後頭部へ再び衝撃!

 背後の気配に怯えつつ、俺も駆ける。

 とは言え相手は女だ。どうやって倒せばいいか……。


「はぁ!!」


 ブン、と俺の頭の上を剣が通り過ぎる。流石クレイモア、間合いが広い。だがその分一度振ると中々切り返せないらしい。安易に振るべきではなかったな。

 俺は懐まで潜り込むと、その柄に踵落しをする。

 女の手から剣が離れる。


「さて、お姉さん……どうする?」

「…………坊や、強いのね」


 女は微笑むと、降参するかのように手を上げ……いや違う。

 魔力がその手にじわじわと集まっているのが感覚でわかる。ルーンとの修行の成果だ。魔力の存在とその動きをより敏感に感知できるようになっている。

 ルーンよりも倍以上遅いその魔力操作に俺は警戒し、跳び退く。

 女が唱える。魔法名は何だ。フレアを飛ばされると、俺は練術を使っていないから受け止められないぞ。


「その者天高くより落ち、地を穿つ! 雲なき我が手から出で、数多の敵を蹴散らせ! 雷撃魔法、ライトニング!!」

「…………あ、うん」


 彼女が手をこちらへ突き出すと、稲妻が俺を襲う。だが、ルーンの本気よりも全然威力が低い。

 しかも何だ今の言葉。詠唱ってやつか。ルーンが魔法名しか言っていないからそれが普通なんだと思っていた。

 ルーンが詠唱していたのは、砂漠で複合魔法を使った時だった。詠唱というのは魔法の威力や操作の精度を高めるものだと思っていたが、それを行った上でルーンよりも弱い……。彼が強いのか、この人が弱いのかどちらだろう。


「えーと……」


 俺は飛来するそれを剣で受け、いつものように雷を纏った刃を作り出す。再び観客が沸く。

 お姉さんは目を剥いて驚いており、口がぽかんと開いている。俺に突き出していたはずの手が、再び上に上がる。


「俺の勝ちでいいのかな……?」


 女はコクコクと頷いた。

 俺は次の対戦相手の名前を見る。


「……居たな、ブリー」


 演習場に仕切りはない。だだっ広い向こうの方で戦っているブリーが見えた。

 かなり優勢だ。恐らくあいつが勝つだろう。


「リドゥ! こっち来なさい!!」


 ソリスの声が聞こえる。めちゃくちゃ不機嫌そうだ。

 ゾッとしながらそちらの方を見る直前、ブリーの体から黒いモヤが出たように見えた。


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