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035 ソリスと共闘出来る喜び


 俺は砂漠を走って逃げる。ソリスに鍛えられた影響と、練術の習得のおかげで体力は大幅に上がっている。まだまだ走って逃げられる。ボスワームが俺の方を追ってくれて助かった。もしこれがルーンだったら直に追いつかれていたことだろう。


「ライトニング!」

「うお!!」

「……避けちゃダメだよリドゥ」


 逃げる俺にルーンが雷撃魔法を繰り出す。俺は反射的に避ける。むしろ避けられたことを褒めてほしい。

 いやいや。これを剣で受け止めなければならないんだ。避けて鼻高々になっている時間はない。


「ライトニング!」

「ぐっぅう」


 今度は剣で受ける。だが、衝撃に耐えられず俺の体が吹っ飛んでしまう。

 ルーンは言っていた。ソリスは巻き取っていると。正面から受けちゃダメなんだ。


「ルーン、もう一回だ!」

「ライトニング!」


 稲妻が迫る。そこへ向けて刃を振る。しかし今度は稲妻を切り裂いてしまい、魔法が空中で霧散する。

 次の雷撃がやって来る。それも上手く巻き取れず俺の体に直撃してしまう。

 光が溢れる。


「ライトニング!」

「らああああああああああ!!」


 何度目かのやり直しの後。遂に俺はライトニングを剣に巻き取ることに成功する。

 雷を宿した剣は黄色く輝きバチバチと音を立てている。


「この先は!」

「今ソリスたちがいる場所がわからない。リドゥとも連絡を繋げるから聞いてみてくれ」


 ルーンがそういって杖を振る。すると頭の中にソリスたちの声が響く。


「(リドゥ! よくやったわ!)」


 ソリスの声だ。生きている。彼女のいつものセリフとなりつつある褒め言葉に心底安堵する。


「ソリス! 無事だったか! ステラは?」

「(私なら無事。…………ソリスが守ってくれた)」


 ステラの声も聞こえてきて俺はほっと一息つく。心底不服そうなステラの声に苦笑してしまう。

 俺は彼女たちの声を聞きながらおおよその見当を付けていく。どうやらソリスが結構内側から暴れまわっているらしく、ある程度の範囲ならどこを斬っても構わないそうだった。雷撃を宿した剣は重い。俺は足にだけ練術を使用し、推進力を得る。

 ソリスたちの指示を受けなければ、ボスワームの右側なのか左側なのかもわからないのだが……。


「(ねえステラ。さっきの強酸の液体もう一回貸してよ)」

「(やだ。一応これ商品。ソリスは豪快に使いすぎる)」

「(商品なのに私にさっき振り撒いてたの?! 肉を溶かすのに使いやすいの! お願い!)」

「(やだ)」


 ……なんだか随分仲良くなっている気がする。まあ咄嗟の出来事とは言え、ソリスが命懸けでステラを守ったのだろう。ソリスが全力で守ってくれる姿を見て、いつまでもツンケンした態度を取る者はそういないだろう。俺もネメアとの戦いの中、彼女に救われた。やり直してしまったから彼女にその記憶はないけれど。


「いや、そんなことより! ソリス、どこにいるか教えてくれないか!!」

「(あ、そうだった。一回強めに斬るから場所を探ってみて)」


 彼女の声を聞き、俺はボスワームの巨体に回り込む。全長約60mの巨体はそう簡単に方向転換が出来ない。俺を追う口が遠ざかるのを見ながら、俺は彼女が内側から斬るのを待つ。


「ゴァアアアアアア!!」


 ボスワームが声なのか空気の排出音なのかわからない音を出した。……ソリスのいる場所がわかった。

 わかりすぎるくらいわかった。彼女が内側から斬った部分だけボコン! と音を立てて皮が跳ね出てきたからだ。


「(ぎゃあああ! 肉が跳ね返って来るううう!)」

「(ソリス、それは簡単に予想できたこと。いいから助けて……ぶくぶくぶく)」

「(ステラが砂に埋もれちゃったあああ!!)」


 ……なんだか楽しそうだな。

 俺は巨体に更に接近すると剣を振る。バチバチと稲妻を纏った刃は今まで形が変わるだけだった皮を切り裂いていく。だが、まだ足りない。

 外皮がかなり分厚い。刃を押し当てている内に、稲妻が消えてしまう。皮は一部だけ焼き斬られているが、内部を破るほどには至っていない。

 俺は、いつの間にか岩の上に避難していたルーンに合図を送る。彼の杖が黄色く光る。


「ライトニング!」

「ぐぅう……!」


 コツは掴んだ。なんとか反動に耐えながら稲妻を巻き取ると、再び巨体に向かって走っていく。


「ソリス! 聞こえるか! 次で切り開くぞ!」

「(わかったわ! こっちもタイミングを合わせて飛び出す準備をするわ!)」


 走りながら、少しだけ呼吸を整える。先程斬った傷と並走すると俺は極軽微な練術を使用する。ほんの少しだけ斬る力が増えればいい。その程度なら剣も耐えられるはずだ。

 俺は巨体に剣を突き立てる。バチバチと稲妻が音を上げ、今度は中の砂が一部漏れ出てくる。外皮を完全に貫いた部分が出てきた証拠。良い感じだ。

 そのまま切り開くようにして刃を振り抜く。


「よくやったわ! リドゥ!!」

「もう、ダメ……疲れた」


 荷物とステラを担いだソリスが飛び出してくる。直後、開いた傷から砂が大量に溢れ出す。二人もかなり砂まみれになっていた。


「ステラはここで待ってなさい。リドゥとアタシでトドメを刺してくるわ」


 ステラを少し小高い岩場へ上げる。ソリスの言葉に俺とステラは頷いた。

 狙うは当然頭部。ボスワームは再生能力が高いらしく、胴体を真っ二つにすると反対側からも体が再生し二体に増えてしまうらしい。恐ろしすぎる。


「フレア! ライトニング!」


 ルーンが二種の魔法を放つ。フレアの方をソリスが片手で巻き取っていく。実に簡単そうに受ける様子に、もしかするとフレアの方が受け止めやすいのではないかと疑念を抱くほどだ。

 しかしフレアの勢いで、ただ持っているだけのソリスの髪が爆心地のようになびき続けている。……やっぱり俺はライトニングの方で大丈夫そうだな。両手で稲妻を受け止めてなんとか巻き取る。

 ソリスは俺の様子を確認するとボスワームの頭部目掛けて走っていく。


「練術」


 またも気を集中させて更に推進力を上げる。何度重ねがけしたかわからない。今までの数倍の速度で移動しているというのに、ソリスに並走するのでやっとだ。

 隣に並ぶ俺を見て、彼女はほんの少し微笑んだように見えた。


「行くわよリドゥ!!」

「ああ!」


 二手に分かれ、同時に踏み切る。俺は右側から。ソリスは左側から。

 挟み撃ちのように頭部に刃を振る。


「おおおおおおお!!」

「らああああああ!!」


 硬かった外皮に刃が滑り込んで入っていく。ソリスと共に戦っているという高揚から、今までの中でぶっちぎりに調子がいいんだ。

 俺とソリスの刃が重なり、衝撃波が起きる。ボスワームの頭部を完全に切断し、刃が合流したのだ。

 衝撃波は俺たちを越えてモンスターの胴体を砕く。見るからに再生不可能なことは明らかだった。


「よっし!!」


 ボスワームを討伐した。俺たちは空中から着地すると、手を打ち合わせた。



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