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022 未準備のまま


 スモールドラゴンは洞窟の中にいるらしい。かのドラゴンは本当のドラゴンよりは全然弱いらしく、ランク2でも頑張れば倒せるとか。道行く人に訊ねながら、何とか集めた情報でもこの程度だった。

 昨日街を旅立ち、この近くの宿に泊まって準備をした。そして今、俺はドラゴンが中にいるという洞窟の前にいる。


「……行くか!」


 自分に発破をかけるように言うと、俺は中へ入った。

 中は当然暗い、湿度が高くじめっとしており、時折水溜りもあった。左手に持ったランプで辺りを照らしながら進む。

 スモールドラゴンは定期的にこの洞窟から現れるらしい。ギルドの見解では小さな時空のねじれがあり、そこから出てきているのではないか、とのことらしい。結界などを張らないのは契約金目当てなのと、ドラゴンの素材が地域の役に立つこと等々……。実際ランク昇格試験に流用できる程度の脅威度だし、メリットの方が多いならこのままでいいのだろう……。


「いた」


 暗闇に黄金の瞳が光を反射する。トカゲのような目だが、目のサイズだけで俺の顔ほどもある。……でかくないか。スモールドラゴンとは?


「グルルルルラァアア!!」


 ドラゴンが咆哮する。直後、周囲に魔法陣がいくつも浮かび上がる。俺の周囲がそれに囲まれている。


「ガァ!!」


 奴が短く吼えると、魔法陣から炎が噴き出した。予想はしていた。念のために魔法陣の直線状には立たないようにしていて良かった。

 防具の一部が焦げるが構わない。俺は剣を抜くとランプを置いて駆け出した。


「くっそ!」


 ドラゴンが爪を俺に向けて振る。辛うじて剣で弾くと、次いで尻尾を振り回してきた。腹に尻尾がめり込む。

 血を吐き出したことに気付いたのは、攻撃をくらってから数秒後のことだった。更に魔法陣が俺の周囲に浮かび始めた時、俺は空中に指を振った。

 光が溢れる。


「……いくぞ」


 先日戦ったネメアを思い出す。あの魔猫ほど俊敏ではないが、その代わりに一発がかなり鈍重だ。

 あの時の俺では一発で剣を折られていたかもしれないが、そうはならなかったのはソリスのおかげだろう。さっきと同じ流れで繰り出される尻尾を地面に叩き付けると、俺はその勢いを利用して跳ぶ。が、更にドラゴンの翼が俺を襲う。

 俺は諸に攻撃を受けると、後方に弾き返される。洞窟の地面に叩き付けられると、鉄のような匂いと共に肺から空気が押し出される。傷が深い。防具は翼によってズタズタに壊されており、体の前面からは血が滲み出ているのが見えた。


「やり直す!」


 光が溢れる。

 翼の攻撃が来るから、俺は一度後ろに引く。魔法陣が俺を取り囲む。ぐるりと周囲を見回して魔法陣から炎が噴き出すポイントを探る。右前方か左後方に避けられそうだ。

 俺が前方に飛び出すと、炎が噴き出てくる。


「がああああああ!!」


 体の大部分は炎を避けた。だが、飛び出した右足が炎を浴びてしまう。激しい痛みに俺は声を上げると、もう一度画面に触れた。

 光が溢れる。

 今度は後方に跳ぶと、無事に炎を回避する。


「やばい……このペースでやり直しをさせられるのはかなりヤバい……!」


 ドラゴンがこちらに右手を振るう。回避出来ず傷を負う。

 光が溢れる。

 右手を受け流し前方に飛び出ると、左手が俺を押さえ付けた。そのまま鋭い牙に噛み付かれると、腹部の肉を食い破られる。

 光が溢れる。

 左手が上からやって来る。左方へ回避すると両手に挟まれてしまった。またも牙により攻撃をくらい、今度は足の肉を噛み千切られる。

 光が溢れる。

 左手を右方に跳ぶことで回避すると、奴の尻尾が待ち構えていたように振るわれる。

 光が溢れる。

 尻尾を跳び越えて剣を振るうと、魔法陣が現れた。

 光が溢れる。

 尻尾を跳んで回避すると、俺はとにかく距離を取ろうと後ろへ逃げる。


「やばい、やばい、やばい……!!」


 焦燥感が俺を襲う。今までと非にならないハイペースだ。ゴブリンの時にも何度もやり直したが、あの時は身体の疲労という明確な理由があった。だが今回は違う。

 完全に格が違う。俺が挑むにはまだ早すぎるんじゃないのか。

 そう言っている間にも攻撃が襲い来る。何度も何度もやり直して、逃げられる道を探す。

 ダメだ、絶望するな、諦めるな、俺。心を奮い立たせろ。ソリスの言った言葉を思い出せ。


「心に剣を宿せ、なんで一人で戦ってるか思い出せ。必ずあいつを倒してソリスのように強くなるんだろ……!」


 再度呼吸を整えて俺はドラゴンに相対する。今から何度もやり直して、最善の道を探してこいつを攻略するんだ。

 覚悟を決めろ。今から数えきれないほどの痛みを味わうんだ。ネメアの時もそうだっただろう。痛みに怯えてはいけない。


「いくぞ!!!」


 俺は剣を構えると、奴に目掛けて飛び出した。

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