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アルフォンソ王太子


 アルフォンソ王太子との調査の命令が下った翌日。



 「闇の魔法使いに関する調査」という大きな予定が唐突に入ったとはいえ、私はいつもと変わらぬ朝を過ごしていた。



 朝早く起きたあと、ご飯を食べ、日課である、朝の鍛錬を行う。昨日はあんなにむさくるしい男で溢れかえっていた訓練所だったが、今は私しかいない。



 動かない的に向かって、剣を振る。正直、やりごたえがないななどと思っていると、訓練所の中に誰かが入ってきた。



 この時間に人が来るだなんて珍しい。



 私は、訓練の手を止める。そして、横目で誰が来たか確認する。



 「訓練って相手がいないと、やりごたえなくない?」



 柱にもたれ掛かるアルフォンソ王太子と目が合った。アルフォンソ王太子は、興味深そうに私のことを観察している。



 「……手合わせ、してくれるんですか?」



 「そうだね……つかの間のバディの実力も見たいしね」



 アルフォンソ王太子の瞳から放たれる、興味の視線。彼が、自身の腰にある剣に手を伸ばす。彼の鞘から飛び出した剣が、太陽の光に照らされ、きらめいた。



 剣を構え、こちらに向かうアルフォンソ王太子――その様は、うちの近衛兵たちよりも凛々しく、美しかった。



 たしか、アルフォンソ王太子って、剣の腕と魔法の力は国随一なんだっけ? 兄が、以前、チラッとそんなことを言っていたような気がする。



 私も、剣を構えた。久々に手応えのある相手とやりあえそうだ。



 二人同時に動き出す。



 私は、すぐさま、彼の喉元に向かって剣を突いた。やっぱり、アルフォンソ王太子はそれを避ける。



 「へぇ……力がない分、スピードと柔軟性でカバーするタイプか」



 相手は、喋る余裕まであるようだ。私は、アルフォンソ王太子が振るった剣を避ける。



 アルフォンソ王太子の一撃は力強い。線が細そうな見た目をしているが、筋肉はそこそこあるらしい。私には決して出来ない戦い方だ。



 カツン……カツン……



 金属と金属がぶつかりあう音が響き渡る。辺りは砂埃が舞い、私やアルフォンソ王太子の体もそれに汚れる。



 ……楽しい。



 私と王太子の実力はほぼ互角といったところか。近衛兵たちと戦う時よりも、楽しい。



 アルフォンソ王太子の息が段々と切れてくる。私の体にも疲れが溜まってくる。



 「ねえ、君。たしか、魔法も使えるんでしょ? ちょっと見せてよ」




 疲れているはずの王太子が、挑発するような目を私に向ける。私の心の中に熱い何かが沸きあがる。



 見せてやろうじゃないか。



 私は、持っているレイピアに意識を集中させる。すると、剣先から白いモヤのようなものが放たれた。そして、それを突くと同時に、アルフォンソ王太子の周りを氷の壁が覆った。



 「氷属性……はじめてみたよ」



 フォードル王国には、炎の魔法使いと氷の魔法使いが集まる。王家から生まれる子どもは、当たり前のように全員、魔力を持っていた。私も父から受け継いだ氷の魔法を操る。しかし、私の母が魔力持ちでないがゆえか、魔力量はそこまで多くない。そのため、魔法で戦うより、努力で補った剣技で戦う方が得意だ。



 アルフォンソ王太子が、氷の壁を切り裂く。バラバラと砕け散った氷が、辺りに散乱する。



 刹那――



 「おーい! なに、俺を放って楽しそうなことしてるんだよ!」



 頬を膨らませる兄が、私たちの間に入った。私たちの戦いは、ひとまず止まる。



 「ああ。邪魔が入った」



 残念そうな顔のアルフォンソ王太子は、自分の腰に剣をしまった。



 「ありがとう、レオン王子」



 「いえいえ、こちらこそありがとうございます」



 久しぶりに有意義な時間だった。時間があれば、また手合わせを願いたい。



 「たく……アルフォンソにレオン呼んでくるよう頼んだのに……お前が遊んでてどうするんだ」



 「……ごめん。レオン王子が熱心に訓練してるからさ。中断させるのが申し訳ないなと思ってね」



 肩をすくめるアルフォンソ王太子。なるほど、この人は兄に頼まれてここにきたのか。



 「よし、話し合いするぞ」



 「話し合いって?」



 「闇の魔法使いに関する調査の話し合いだ。早く行くぞ」



 訓練所を先に出てしまう兄。私もそれにつづこうとした。しかし、いきなり、アルフォンソ王太子に腕をつかまれ、それはかなわなかった。



 「どうしたんですか? アルフォンソ王太子」



 「ねえ、レオン王子。この調査が終わったら、俺と一緒にレノバルトに来ない?」



 「……え?」



 「俺の臣下にならない?」



 アルフォンソ王太子が、綺麗な顔を私の近くに寄せる。その美しい顔を見て、思わず、ドキリとしてしまった。思わず、頷きそうになってしまうが、私は慌てて首を横に振った。



 「私の一存では決めることができません」



 アルフォンソ王太子の臣下。魅力的な誘いではある。彼の元につけば、大出世であるし、彼もとても魅力的な人物だ。なにより母をこの国の呪縛から解き放つことができる。



 しかし、私の身は私のものでは無い。兄の補佐官であるし、一応、王家の端くれだ。それに、私には性別の問題もある。私個人の考えだけでどうこうなる問題ではない。



 「ベルナルドにきけばいいのかな?」



 「……多分」



 咄嗟に出た言葉。私が兄から離れることを、兄はどう思うだろうか。想像してみるが、胡散臭い顔でヘラヘラとしてる姿しか思い浮かばない。案外、あっさりと「いってらっしゃい」って言われそうだ。



 「そっか」



 アルフォンソ王子が、私の腕を解き放つ。遠くから、兄の「早く来いよ」という声が聞こえた。私たちは、慌てて彼の後を追うこととなった。




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