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「女」と「息子」


 アルフォンソ王太子や兄と別れた後、私は一汗流すために風呂に入った。



 自室に備えられた私専用の風呂場。細かいディティールが施された、人一人入れるくらいの浴槽。

私はそこでゆっくりと体を温める。風呂は泡風呂だ。湯に浸かる私の身体は無数の泡により、隠されていた。



 本来、王子は従者や護衛を引き連れ、風呂に入るものだが、私は例外的に一人で入る。そこには、私が側室の子どもであることや、自分の身を守れるため護衛をつける必要が無いことなどの理由があるが、一番の理由は他にある。



 湯船からゆっくり立ち上がる。そして、私はそのまま、鏡に向かった。



 そこには裸の私の姿がうつっている。男にしては膨らみのある胸部。丸みを帯びた体つき。スラリと細く伸びた足。そこにいるのは、ただの一人の女だった。



 こんな身体を表で隠しているような私が、誰かと一緒にお風呂に入ることなんて、できるわけが無い。



 私の性別は国家秘密だ。兄を含め、数人の王家の人間や国の重鎮、信頼のおける一部従者しかこのことは知らない。



 ――私は生まれながらにして「王子」なのだ。「王子」として、表舞台で生きなければならないのだ。



 誰にもバレてはいけない。誰にも女を見せてはいけない。たとえ、私が女としての人生に憧れてたとしても……



 目の前の女である私から逃げるかのように、素早く服を着る。



 浴室から出て、自室のベッドに寝っ転がる。



 コンコンと誰かが私の部屋の扉をノックした。私は、立ち上がり、扉を開く。



 がちゃり。



 「レオン!」



 扉が開くなり、何かが私に飛びついた。柔らかい腕が、私の体に巻き付く。



 「母上……」



 「ああ……! レオン、心配したのよ……? 今日も訓練所に行って、近衛兵たちと戦ってたって聞いたわ……! 怪我は無い?」



 「大丈夫ですよ、母上」



 私の胸に顔を埋めていた母が、私の顔を見上げる。艶やかな茶色い髪に、うるうると涙溜まる青い瞳。その顔は、とても美しく、若々しい。私の姉……いや、妹とも言われても、違和感が無いほどに綺麗な女性である。父は、踊り子であった母の美貌を見初め、側室としたのだという。



 「まったく……母上は心配しすぎです」



 「貴方は、私のたった一人の息子(・・)なのよ……? 貴方がいなくなったら、私、死んじゃう」



 「大丈夫ですよ。私は母上を置いて消えませんから」



 私は、彼女から離れるわけにはいかない。母の生きる糧は、私しかないのだから。



 「そういえば、聞いたわよ。あの王太子、また貴方を危険に巻き込んだんでしょ?」



 「危険……? ああ、アルフォンソ王太子との闇の魔術師たちに関する調査のこと?」



 「闇の魔術師ですって……! そんな危険な仕事、断ってきなさい! 私からベルナルド王太子に言ってくるわ……!」



 母の甲高い声が、響き渡る。その声は、私の部屋だけではなく、廊下や他の部屋にも轟いているだろう。鼻息を荒くし、部屋を飛び出そうとする母。私は、それを慌てて制した。



 「やめて、母上」



 私は、母のか細い腕を掴む。母は、涙ぐんだ瞳を私に向ける。



 「あなたが……心配なのよ……」



 「大丈夫だって。兄上は、私たちのことを守ってくれてる」



 「そんなわけないわ。貴方を傍において、利用しようとしてるだけよ」



 「……兄上が守ってくれなければ、私たちはこの国に居場所はないんだよ」



 王の側室とその子ども。しかも、母も私も父からそこそこに愛されている。そんな私たちを邪魔だと思うものも少なくない。



母は元々平民であったため地位はそこまで高くない。そんな中に生まれた男子。私は、継承権争いに巻き込まれ、暗殺されるということもありえなく無い立場なのだ。実際、私が生まれる前に母は、|息子を1人亡くしている《・・・・・・・・・・・》。


 現在は将来の王はベルナルドであるということは周知の事実であるが、つい数年前までは兄上と第三王子の激しい権力争いがあった。私は、ベルナルド側につくことにより、自分と母の身を守った。ベルナルドは、ああ見えて賢い男である。数多の脅威から、私たちを守ってきてくれた。




 「心配しないで、母上」



 私は、いつもは誰にも見せることの無い笑みを、母に向けた。



 

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