エピローグ〜神の恩寵
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〜 Amazing grace how sweet the sound 〜
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僕は、何か明るい異空間にいる自分を見つけた。お兄ちゃんと結ばれる代償としての、痛み、苦痛からも、なぜか解放されていた。暖かい? ああ、そうか。僕は対価を支払った。「死んだ」ということなのだろう。
目の前には、あの悪魔、王子と言った彼が立っていた。迎えに来てくれたのだろう。彼は何も話さない。だが、その声、意思は、僕の心に伝わってくる。
これは、僕の妄執の報いなのだろうか? そうだ。そうに違いない。妄執? だが、僕が純粋にお兄ちゃんを好きになった。恋? その言葉の意味はよく分からない。だが、強い想い。心の底から湧き出す汚泥。腐った魚のような臭いがするそれに、僕は、飲み込まれたのだろう。
「え? 違う? 何が?」
そうか。欲望? 人は愛や、恋というご都合主義の言葉で欲情という泥濘に蓋をする。僕が溺れたのは、死体の冷たさ、血の匂い、腐臭……そんなものだった? だとすれば、僕は正しかった? 清かったということか?
「その通り?」
人が媾うこと、それは単なる種の保全本能。そう、猿以下の情欲に過ぎないということか? そこから僕は高みに登れたということに違いない。
「王子様は、ほめてくれる? 助けてくれるん? 煉獄でも何でもええ。ここから解き放たれるんやったら……」
僕は、悪魔、王子と称する彼の導きに従い。一歩前に進んだ。その先は、天国か煉獄か? そんなことは、僕にとって何の意味もない。ただただ、自身が受け入れられた、それだけを抱え、僕は……。
「うん。行こぅ。人の身では得られん恩寵をもろうた。僕は、幸せやなぁ」
あらすじにも書きましたが、オリジナルは、18禁の音声作品としてリリースしました。ただ、紆余曲折がありまして。DLsiteについては「ネクロフィリア」という点が規約違反となり、掲載を拒否されてしまいました。そんな経緯で、商業的には大失敗に終わりましたが、小説化し、夏のホラー企画でのリベンジです。
音声作品について、残念な結果でしたが、出演いただいた声優さんからは「とても面白い作品」と評価いただきましたし、この分野は、川端康成の「眠れる美女」、これを大絶賛した三島由紀夫のこともあり、文学性の高い領域だと認識しています。(ちなみに、本編プロローグの一部は、「眠れる美女」の後書きから発想を得ています)
とはいえ、作者の筆力で芸術性の高い作品が描けるとは、とても思えません。ですが、精一杯頑張りました……ということに、しておいてください。
音声作品を小説化するにあたり、原作での心の声をどうするか? は、かなり悩みました。一人称小説としての、僕主語の文章に改めようとも考えたのですが、《》で囲んで原作を残すことにしました。
音声では、リバーブをかけて、響くような音質加工をしています。また、このエピローグについては、声優さんに「Amazing grace」を鼻歌で歌ってもらい、セリフにミックスするという演出をしています。最初に歌詞を書いたのはそういう意味です。いずれも、頭の中でイメージして読んでもらえると嬉しいです。
ただ、一点だけ。アダルトシーンを除いた関係上、後半が薄い感じで終わってしまった気はします。(いや、ガッツリ、エロシーンあるんです)それは、作者的にもちょっと残念です。どうか、ご勘弁のほどを。