書籍発売記念_精霊王の幸せな毎日
1日遅れてしまいました……!
6月12日に書籍が発売されました~!
夜に活動報告も更新します♡
僕はルーチェ、精霊王。
といっても、最近精霊王になったばかりの新米精霊王なんだけどね!
前精霊王だったロキくんから引き継いでこの地位に着いたんだけれど、思ったよりも悪くない。
こうなったからよく分かるんだけど、最後のロキくんの霊力はとんでもなく大きかったみたいなんだよね。草や花が息を吹き返しただけじゃあなくて、そのあとに続く種まで生まれてさ。
人々の心は穏やかになって、悪い影響なんてちっとも残らなかったんだから。
大好きなロキくん。ロキくんって本当にすごい!
前精霊王様だったとはいえ、僕にとってロキくんはロキくんだよ。
僕も、今はまだ『ルーチェ』。僕の名前を知る人がいなくなって、長い長い時間を過ごして、精霊王として生きていくうちに、『ルーチェ』だった僕は一旦終わりになって、ただの『精霊王』になる。
そして、いつか僕の命が終わるときには、最後に愛を集めるために、愛し子と最後の時間を過ごすために、もう一度僕はただの『ルーチェ』である時間をもらえるんだ。
難しいかな?それなら、ロキくんを思い出して。最後にメル様と幸せな時間を過ごしたロキくん。
え?苦しいこともあったはずだって?
違うよ。愛し子の苦しみを分け合えたことさえ、僕らにとっては幸せなことだから。
精霊王になると、過去の精霊王たちのこともなんとなくわかるようになるんだけれど、ロキくんはひょっとして、今までで一番大きな力を残して還った精霊王かもしれないね。
とはいえ、平和に穏便に代替わりした精霊王だっているなかで、ロキくんはかなり危ない状況だったわけなんだけど。え?なんのことかって?えへへ、分かっているでしょう。あとほんのちょっと何かが違っていたら、ロキくんは魔王になっちゃってたってこと。
そうなっていたら……今の僕はこんなに楽しく過ごせてはいなかっただろうね。
そんなロキくんが、さっきも言ったように最後には歴代最高の力を残すことができたのも、全てはやっぱりメル様のおかげだよね。
ああ、優しい声で『ルーチェ』って呼ばれるのはとっても幸せだったなあ。
──あのね、メル様とリアムは、今でも時々僕の名前を呼んで話しかけてくれるんだ。
例えば嬉しい事があったとき。
例えば心が少し疲れちゃったとき。
お祈りするときなんかもそうだね。
それが、僕にとって、どれほど嬉しくて幸せなことか。
本当はね、僕は精霊王になったわけだから、全ての精霊は僕自身でもあるんだ。
つまり、いつだって僕はリアムやメル様の側にいるんだよ。
だから寂しくなんかないわけだけれど、それはそれとして、今でも大事にしてくれているのが伝わるから、僕に直接話しかけてもらえるのは格別に嬉しいってわけ。
普通、精霊王になったあとは、もう少しこの立場に縛られるものなんだ。
精霊王って、実は忙しいからね。
世界は広い。それに、本当なら前の精霊王が消える時に残した邪気が多少なりとも溢れていて、その浄化に力を注がなくちゃいけなかったから。
そうなっていたら、こうしてリアムやメル様のことを見ている時間なんかもなかったかもね。
そして、気がついたら100年くらいはあっという間に過ぎちゃってたと思う。
そんなの、想像するだけですごく寂しいよ。
だから余計に、僕は今のこの幸せを噛み締める。
特別に愛する人たちとこうしてまだ一緒に過ごせているのも、全部全部、ロキくんのおかげ。
だからさ、ロキくんはもっと幸せになってもいいんじゃないかなって思うんだ!
せっかくこうして僕は自由で、力もびっくりするほど有り余ってる。なら、ロキくんの次の生を何よりも幸せな道に導いてあげることくらい、したっていいよね?
✳︎ ✳︎ ✳︎
アーカンド王城に、元気な産声が響く。
「メルディーナっ!ああ、良かった。本当によかった!ありがとう……!」
「ふふ、リアム様ったら、泣いているんですか?」
「こんなの、泣かずにはいられないよ……」
生まれたばかりの私たちの小さな宝物を、リアム様はぎこちない手つきで抱っこする。
その顔が幸せそうに笑み崩るのを見ていると、なんて幸せなんだろうと泣きそうになってしまう。
転生して前世の記憶を思い出したときには、こんな幸せな未来を迎えられるなんて、想像もしていなかったわよね。
リアム様はついに泣きながら、赤ちゃんを私の腕に抱かせてくれた。
ふふふ、ハディス殿下がそんなリアム様を呆れたように見ていて少しおかしい。
笑いながら、私は宝物をのぞきこむ。
舞台装置として死ぬはずだった私。そんな私が、新しい命をこの腕に抱いている。
「私の可愛い子、生まれてきてくれてありがとう……あなたの名前はもう決めてあるの」
この子をお腹に宿して、よく見る夢があった。
その中で、名前が聞こえるのだ。なぜかそれがとても特別なものに感じられて……この子には、その名前の一部をもらうことにした。
「ロイド、あなたはロイドよ」
その瞬間、私とロイドをキラキラと輝く光の粒子が包み込んだ。
リアム様が慌てて私のそばに駆け寄る。
「メルディーナっ!?」
「な、なにこれ?」
驚いたけれど、すぐに気がついた。
温かくて心地いい光。幸せを詰め込んだ力。これは──。
「まさか……精霊王の祝福か?」
呆然とする私とリアム様の代わりに、ハディス殿下が呟いた。
そう、この光には覚えがある。精霊王の代替わりのあの時に、ロキやルーチェが放っていた光に、よく似ている……。
リアム殿下と手を繋ぎながら、私は込み上げる涙を止められないままに、微笑んで告げた。どうか届きますようにと願いを込めて。
「ルーチェ……ありがとう」
✳︎ ✳︎ ✳︎
ああ、よかったー!
僕の願いもこれで叶ったね!
へへ、転生の準備が整ったロキくんの魂を導きながら、メル様の夢の中でひたすらロキくんの本当の名前を呟き続けておいた甲斐があった〜!
え?ロキくんはロキくんじゃないのかって?
メル様と一緒にいたのはロキくんでしかないけれど、本当はもう少し長い名前があるんだよね。
ほら、聖獣のリオだって、本当の名前はもっと長かったでしょ?リオはもう次代を産んだから名前を明かしても大丈夫だけれど、普通はそう簡単に本当の名前を使ったりしないものなんだ。
もちろん、僕にだって本当はもっと長い名前があるんだよ。
名前はとても大切だからね。
そんなことより、ロキくんだよ!
きっと、誰よりも大きな幸せを手にすることができるように、ロキくんの新しい未来は可能性に溢れているよ。
なんたって、僕の祝福付きっていう特大サービスつきなんだもん!
え?最初から幸せを約束すればよかったじゃないかって?
ダメダメ、だって、彼なら僕が用意した幸せよりも、よっぽど大きな幸せを手にできるはずだもん。
ね、そうだよね、ロキくん──ううん、ロイド。
ああ、こんなに幸せなことってないや。
おめでとう、リアム。
おめでとう、メル様。
おめでとう、ロイド。
おめでとう、おめでとう、どうか、大きな幸せを。
僕はいつもここから、大好きなみんなを見守っているよ。




