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【6/12書籍発売】転生令嬢は乙女ゲームの舞台装置として死ぬ…わけにはいきません!  作者: 星見うさぎ
最終章

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『市井の聖女様』

 


 ふいに声をかけられた。


「ディ、ディナ!」


「ビクターさん!?」


 そこにはセイブスで私を助けてくれて、なおかつこれまでもずっとひっそり連絡を取り続けていたビクターさんがいた。

 久々の再会で嬉しくなる。……けれど、なんだかものすごく慌てている?


「これを!!」


 その手には、いつだったか私がビクターさんに言われて育てた花の種がたっぷり乗っていた。

 ビクターさんに認めてもらえるきっかけになった、とてもいい回復薬になるという種。

 それがどうしたのかと不思議に思う私の前に急に跪くと、ビクターさんは種を一つ、何もない土の部分に植える。


 すると、ほんの数秒後には土から芽がでて、みるみるうちに花が咲いていった!!


「え!?」

「見ただろう!?咲かせることがあんなに難しかったこの種がなぜか一瞬で花を咲かせるんだ!おまけに……」


 異様なことではあるが、たくさんの白い花を咲かすはずの種が、一つの種でたくさんの芽を出し、いくつかに分かれ、さらにそのうちのほとんどが()()()()()()()()()を咲かせている。


 そして種の通りに白い花を咲かせたものだけはそのまますぐに枯れ、新たな種を落とす……。


 側で見ていたリアム殿下が息をのんだ。


「これは……ひょっとして種が魔力を帯びている?こんなものは見たことがない……」


 けれどその呟きで、ビクターさんはなぜかとても納得したように喜んだ。


「そうか!そうだよ、この種は元々ディナが信じられない力で咲かせた花の種だ!この花は咲かすのが難しい上に、滅多に種を残せないものなのに!」


「え!?そうだったんですか?」


 私にとっては初めて聞く話だった。

 でも、あの時花は約束の時間を待てない程すぐに咲いては種を残した、異常に育つのが早い花だったような……。


「だから、きっとディナが特別で、そんな特別な力を受けた種だからこそこいつも特別なんだ!ああ、なんてことだ!俺の手の中に奇跡の欠片がこんなにたくさんある!!」


 ビクターさんは興奮して、見たこともないほどはしゃいでいた。

 本当にそんなことがあるのかは分からない。けれど、実際にこの種が不思議な力を持って、不思議な種をまた残すことは事実だ。

 おまけに新たにできた種も同じような力があるらしい。


 これは、つまり……。


「荒れ果てた、セイブス王国に、また花を咲かせられる……?」


 精霊王様の代替わりが無事になされた今、きっとセイブスは元に戻ることができる。

 けれど、それには長い時間がかかると思っていた。

 草花を育て、あれた土地を生き返らせることはすぐにできることじゃない。


 でも、この種なら。



 ――命を落としかけて、リアム殿下に救われてなんとかアーカンドへ逃げ延びた。

 もう、セイブス王国へ戻ることは二度とないのだと思っていた。


 けれど、セイブス王国を憎んで離れたわけじゃない。だって、どんなことがあっても私が生まれた祖国なんだもの。



「メルディーナ様~!」

「お久しぶりです!」

「ご無事で何より……!」


「まあ、あなたたち!!」


 私とビクターさんのところにやってきたのは、あの日、地下牢から、セイブス王国から私を逃がしてくれた3人の衛兵達だった。

 皆涙ぐんで、私との再会を喜んでくれる。


 言葉を交わしていると、3人はすっと頭を下げ、その場に膝を着いた。


「えっ……?」


「メルディーナ様、よくぞご無事でここに戻ってきてくださいました」


 はっと周りを見る。

 私達を遠巻きに見ていた、セイブスの民たちも次々に膝を着き、ある者は祈る様に胸の前で手を組み、ある者は地面に額を擦りつけるように伏している。


「聖女様っ、あなたにあれだけ救われたのに、あなたを憎むような気持を持ってしまった私をお許しください……!」

「言い訳にしかならねえが、本心じゃなかったんだ!ただ、なぜかあの時はそれが正しいと思い込んでいて」

「それなのにあなた様は私達を見捨てずにいてくれた!……本当に、ありがとうございます」


 民たちが攻撃的になっていたのは、瘴気の影響だったと分かっている。

 それでも、こんな風に言葉をかけてもらえたり、お礼を言ってもらえたりするのは素直に嬉しかった。


「おい!この方は聖女様じゃなくて愛し子様だったんだろ?」


 誰かの言葉に、また誰かが大声で返す。


「メルディーナ様が本当は何者かなんて関係ないじゃないか。この方は、確かに俺達を救ってくれた『市井の聖女様』なんだから!」


 私のことを認めて受け入れてくれている。

 それが心から伝わるその言葉が、何よりも嬉しい。


「リアム殿下」

「なあに、メルディーナ」


 リアム殿下は優しく微笑んで私の言葉を待ってくれていた。



「私、皆を助けたい。できることをしたいです。……セイブス王国に、戻ります」




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