暗雲たちこめるセイブス王国
アーカンドでメルディーナが各地を浄化して回っている間に、セイブス王国ではさらなる異変が起こっていた。
「また瘴気の被害か……」
上がってきた報告書を手に、今日もクラウスは頭を抱える。
瘴気の濃さ、そしてその影響はどんどん強くなるばかり。動物が瘴気におかされ、その肉を食べた者が倒れるという事件が1番多い。そうして肉がなかなか安心して食べられなくなり、作物の育ちも相変わらず悪いまま。
このままでは……セイブス王国の民は食べていけなくなる。
おまけにその被害範囲は徐々に広がり、以前は王都近郊でばかり確認されていた瘴気被害は、いまや王国全体に広がりを見せている。
聖女リリーが各地を回って瘴気を払っているものの、彼女の力は広範囲の瘴気を一度に払えるほどの威力はなく、払う速度よりも新たに瘴気が発生する速度の方がずっとはやい。
何よりリリー自身にも疲れが現れているようで、徐々に瘴気を払うために各地へ出向く回数も減っていた。
セイブス王国が限界を迎えるのも、時間の問題だと言えた。
「ニールは帰らない……やはり、リリーの言う通り、メルディーナは生きているのか……」
リリーは何度もメルディーナは生存しているとし、その存在に怯えた。宥めても無駄で、どうにも確信しているようで。
アーカンドにメルディーナが捕らえられているかもしれない、という情報をもとにニールが秘密裏にアーカンドへ向かった。
だが、ニールは戻らない。
『ニール様はきっと、メルディーナ様によって酷い目にあわされているのです!この瘴気こそが……恐ろしい考えと行動に支配されたメルディーナ様の負の心が引き起こしているもの』
そんなメルディーナを悪様に語る言葉も、最初はただの怯えからくるものだと思われていたが、何度も聖女であるリリーが唱えることでやがて信憑性を増していく。
聖女を脅かすメルディーナの存在こそが瘴気を生んでいるのではないかと王国中で囁かれ始めるまで、それほど時間はかからなかった。
初めは街に降りれば彼女を擁護するような声も聞こえてきたが、それももはやほとんどなくなっている。
瘴気の脅威と恐怖、不安にさらされたセイブス王国の民は、いまやメルディーナを悪の象徴とすることでなんとかその心を保っている有様だった。
「本当に……君は生きていて、そして……殺さなければ、この国の平和はもう戻らないのか……」
もはや、クラウスにも何が正しいのか全く見えなくなっていた。
◆◇◆◇
「どうしてニール様は戻ってこないのよっ!?まさか、本当にアーカンドで死んだなんて言わないわよね……!?」
閉じこもった自室で静かに癇癪を起こすリリー。
彼女が案じているのはニールの身の安全ではなく、自分を取り巻く見目麗しい攻略対象が減ってしまわないかどうかである。
「メルディーナはいつまで経っても見つからないし!この瘴気があの女のせいってことになったのはいいけど、死んでもらわなきゃ意味がないのよ!」
そうしなければ、魔王は復活しない。魔王討伐の栄誉を手に入れるためには、必ず復活してもらわなければならない。おまけにこのままクライマックスまで瘴気を払い続けるために馬車馬のように働くなど真っ平ごめんだ。疲れた、と言えば休ませてもらえた。最近は聖女として持ち上げられる気持ちよさよりも、瘴気を払う労力の方がかなり大きい気がしてうんざりしていた。
聖女は自分だけ。となれば、休むのも仕事でしょう?
リリーはある意味完璧主義だ。
自分の思い描く完璧なハッピーエンドでなければ意味がない。
それなりに華々しく、それなりに幸せだなんて、そんなものにはなんの魅力も感じはしない。
それに……。
「アーカンドの攻略対象とはいつまでたっても出会えないし……!」
リリーはある意味完璧主義だ。
全員欲しい。全員必要だ。
全員がリリーを崇め、愛を捧げてくれなければいけない。
ここは、そういう世界なのだから。
「どうにかしてメルディーナにいなくなってもらって、アーカンドにも私を聖女として持ち上げてもらわなくちゃ」
そのためには今後どうするべきか。ブツブツと独り言をつぶやきながら部屋中を歩き回る。
やがて、リリーはいいことを思いついた。
「やっぱり、私は天才だわ」
それはリリーにとってある意味当然のことでもあった。
だって、自分こそがこの世界のヒロインなのだから!




