ロキの怒りと涙
更新遅くなってすみません><
メルディーナに同行を拒絶されたリアムは項垂れていた。
「お前……メルディーナ嬢に何したんだ?」
「僕が聞きたいですよ……」
その消沈具合に兄ハディスも困惑するが、分からないものは分からない。
(何かメルディーナを怒らせるようなことをしてしまったのだろうか)
何かした、という心当たりなら、自分の瞳の色にそっくりな宝石のイヤリングを無理やりに贈ったことくらいだ。あの時、メルディーナは確かに固辞していた。言いくるめて押し付けたようなものだった自覚はリアムにも確かにある。
それでも、彼女はそんなことでここまでの拒絶を見せるような人だろうか。
(それに、断ろうとしたのだって嫌悪ではなく遠慮のように見えた)
リアムは指先にメルディーナの耳元に触れた時の熱を思いながらさらに項垂れる。
ただ、あの時リアムがメルディーナに触れ、少し彼女の元を離れた後様子がおかしくなったのは確かだ。
(少し1人で冷静になってみたら、恋人でもない男からの宝飾品など気持ち悪いと思われたとか……)
「おいおい、何考えてるか分からんが、そのまま地面にめり込みそうな勢いだぞ。やめてくれ」
自分で考えどんどん落ち込むリアムをハディスが嫌そうな顔でたしなめる。
そうは言っても、ここからどう考え巻き返せばいいのかリアムには分からなかった。
「兄上……なぜ怒らせてしまっているのかわからない場合、どう謝れば許してもらえるのでしょう?」
「知らん。そもそもあれは怒っている態度だったのか?」
顔は笑顔だったが、リアムを見る目は今までにない程冷え切っていたように見えた。
あれが怒っていたわけではないとしたら何だというのだろうか。
そんな風にぐるぐると考え込んでいた時だった。
「リアムー!リアム!うわああーん!」
泣き叫ぶような声にリアムはハッと顔をあげる。
そこに飛びついてきたのは小さな相棒であるルーチェだった。顔は涙でべとべとである。
「ルーチェ!?なんでそんなに泣いて……」
「ロキくんが……ロキくんが!僕はリアムはそんなんじゃないよって何度も言ってるのにぃ……」
「落ち着いて、何を言っているのか分からないよ。ロキがどうしたって?」
「どうしたもこうしたもない……!」
低く唸るような声だった。メルディーナについて退室したはずのロキが、怒りに燃える瞳でリアムを睨みつけている。
「だから!誤解だってば!ロキくんの分からずやー!リアムがメル様のこと大事にしてるの見てて分からなかったの!?」
「分かったさ。だから余計にムカついてるんだ」
「ちょっと待ってください!ロキ、何の話をしているんですか?」
いつもメルディーナの側にいる精霊ロキが彼女の名前を出して怒りを爆発させている。メルディーナの様子がおかしくなったことと関係あるに違いないが、リアムには話が全く見えない。
「そこのへなちょこに聞けばいい!」
「僕はへなちょこじゃないー!」
もはや子供の喧嘩の様相だ。すぐに去ろうとするロキに、リアムは慌ててその小さな背中を呼び止める。
「待ってください!彼女の様子がおかしいのは分かるのですが、僕には何が何だか……」
「──俺はお前ならメルディーナを幸せにしてくれると思ったから側にいるのを止めなかったんだ。狼だと思ってた時からな」
「僕はそのつもりです!」
「じゃあどうしてメルディーナはあんなに泣く羽目になったんだ!」
ピタリとリアムが硬直する。
(メルディーナが……泣いた?)
じわりと背中に嫌な汗が伝う。
何が何だか分からないままだが、何かがメルディーナを苦しめていると思うだけで心が冷えた。
「だから!リアムに婚約者なんていないってば!」
「婚約者候補だ」
「それもいないっ!」
「ちょ、ちょっと待ってください」
予想外の言葉に頭がついていかない。
(婚約者候補……?なんだそれは)
混乱するばかりのリアムをそれでもロキが睨みつける。
「そうだろうな……もしあいつが本当に婚約者候補なら胸糞悪すぎてアーカンドをめちゃくちゃにしてやるところだ」
妖精が多く住むこの国を、精霊が滅ぼすなど出来るわけもないのだが、ロキはまるで本気でそうしようと言わんばかりに真剣だった。
ロキは治まらない怒りをもっとぶつけようとして……そして失敗した。
「だけど、どうしてって、思っちゃうんだ。たとえ嘘でも、メルは傷ついた。なんでメルがここに来るまでにどうにかしておいてくれなかったの?メルはずっとずっと、ずっと苦しんできたのに。やっと安心して笑えるようになったのに、なんでまたこんなことで泣かなきゃいけないの?」
「ロキ……?」
ロキは顔をぐしゃぐしゃに歪めてボロボロ泣いていた。つられたようにルーチェまで涙を零している。
ロキはメルディーナと深くつながっている精霊。そのロキが泣いている様子に、メルディーナもこうして泣いたのかとリアムの胸は締め付けられるようだった。
「お前が悪いわけじゃないかもしれない。だけどいつだって泣いて傷ついて我慢するのはメルだ。俺が違うと思うって言ったってメルは信じない。笑ってありがとうって言うだけだ。心はずっと泣いてるのに」
ずっと黙っていたハディスが何かに気づいて息を呑む。
「婚約者候補……まさか、オリビア・ウィルモット公爵令嬢か……?」
「ウィルモット……?そんなまさか……」
「あの女は、泣きながらメルに、自分からリアムを奪うなって言ったんだ。お前と愛をかわした時間が忘れられないって。メルがどうしてセイブスを追われるようなことになったかわかってるだろ?メルは自分を責めるんだ。お前に怒ってるわけじゃない」
「なるほど、自身の婚約者だった男が聖女と呼ばれる者に心酔し自分の命を脅かしたこと、確かにトラウマだろうな……それなのにこのアーカンドで自分が、意図せず婚約者の2人を引き裂いてしまったと思っているということか……」
ハディスの言葉にリアムの顔から一気に血の気が引いていく。
そんな弟の様子に、ハディスはため息をついた。
「リアム……お前の優しさは美徳だが、この状況はお前の甘さが招いたものだ」
その言葉を呆然と聞く。
(そうだ……僕の愚かさが彼女を傷つけた……)
メルディーナは……あの温度の感じない瞳で自分を見つめながら、どんな気持ちでいたのだろうか。




